第15話 サド女とマゾ男
女は半月かけて男の自宅を全て突き止めてから、契約中のスマホとは別のスマホを1台契約した。
「へー、高級マンションにハイソな住宅を4つも持ってるの、呆れるわ。でもどれも表札がないわね」
「家のフェンスと門構えが凄いわ。これじゃ中には入れないしポストの中の物も取れないわ」
男は自宅の郵便物に目も止めずに未開封のままゴミとして処理されてしまい、未だに男の名前も判明できずにいた。
「追跡マーカーの映像は見れても無音なのよね。だから男が郵便物などで自分の名前を確認しない限り判明しないないわね」
「仕方ないわ。恥ずかしいけどゴミ漁りしようかしら」
男のゴミの袋から見つけたクレジット会社の請求書には織戸譲二と印刷されていた。
「まぁ、いい名前ね。じゃ、ジョージちゃんと呼ぼうかしら」
女は旅行カバンの中にボールペンと和針に爪楊枝を入るだけ詰め込み終わると、
「さぁてと、そろそろ始めちゃうわよ。第2ラウンド開始ね」
女は契約したスマホを織戸譲二宛に発送した。が、男は興味なさそうに郵便物を受け取るも
「またゴミかよ」
とそのままスマホの入った郵便物を放置していた。
女は男の家から百mほど離れた位置から追跡マーカーで男の在宅を確認後、
織戸譲二へ送ったスマホに電話する。
放置してた梱包箱の中から着信音が鳴った。
「何だぁ?電話?誰の?俺の?何処から?箱ん中からじゃん!」
密航して日本へ戻ってきた織戸譲二には電話で話すような友人がいなかった。自身のスマホもネット検索ばかりだ。呼び出し音が鳴るスマホを怪しみながらも開封した。
箱から取り出したスマホへ開口一番
「オマエ誰だよ!」
「お久しぶりね、ジョージちゃん ♡⃛ 」
いきなり見ず知らずの女から名指しされ、驚きの余り情けない声で
「て、て、て、な、な、な、」
女は笑いをこらえながら、
「なんで名前を知ってるかって?織戸のジョージちゃん」
男は始め、レイプした女の誰かが調べたのかと思った。だが違う、小馬鹿にしたような女の声には聞き覚えがあった。
男の本名は生田時緒という。織戸譲二は買った戸籍の名前だが、この際そんなことはどうでもよかった。なんで知ってるかだ。
「何で知ってるんだよ!オマエあんときの女だろ!」
女をレイプするも逆に殺されるところだった。俺と同じ能力者の、あの時の、イカれた女だ!
「オマエじゃないわ、水沢響子っていうの。ヨロシクね」
「ヨロシクじゃねーよ!」
何で住所と名前がバレたんだ?いや、それより女の意図が判らない。
「テメェ、いま何処だよ!」
「30秒で近づけないところよ」
男は心臓を掴まれたようなショックを受けて言葉がすぐに出てこない。と同時に
驚きを隠せなかった。俺の能力が女にバレてる!
「な、な、な、な、て、て、て、て」
「ジョージちゃんて、おもしろーい」
なんで知ってる、俺の秘密を、この女が、なんでだ!
「返事がないわね、何でだか教えてあげる。でもその前に言わせて。アナタの能力は時間操作ね」
やっぱバレてる!
「ど、ど、どうしてそれを!」
(ビンゴね、ウフッ)
「それを知ってるかって?私のサーチ能力って凄いでしょ。他人の能力が分かるの」
(うそだぴょーん)
「クソつ、バカにしやがって!何処らへんにいるんだこのクソ女は!」
能力がバレようが、近くにいるならタイムゾーンフリーズで時を止め、女にトドメを刺してやるから待ってろ!
男はリビングの窓へ進み寄ると、サッシから顔を覗かせた。
「顔見っけ。確認し辛いけど、ま、いっか。顔をだして、おバカさんね。簡単に見つかる所にいるわけないでしょ」
女は旅行バッグからボールペンを両手に持ちきれないほど取り出すと、男の顔、頭、耳に向け、ボールペンを瞬間移動させた。
「ぐわっ!」
男は奇妙な声を上げながら後ろへ仰け反るようにしながら尻餅をついた。
「痛でーー!アダマ痛でーーカオが痛でーー!」
「なんか刺さった。いっぱい刺さった!なに?!ボールペン?」
男の頭皮と頭蓋骨の間にボールペンが20個以上刺さっていた。左右の耳にも6本づつと、両方の頬っぺたと顎のラインにかけて10本づつのボールペンが刺さっていた。
男はボールペンを1本づつ抜こうとするが、刺さったところの皮膚とボールペンが癒着して簡単には抜けない。
頭皮が、耳が、顔が、ズキズキと痛む。
顔中血ダルマになった男は痛みの中で女の能力を思い出していた。
男の脳みそが破壊され、チンコが取れた時のことを。
窓から顔など出すんじゃなかったと後悔しながら、再び迫る死の恐怖を振り払うかのようにスマホが鳴る前の時間へと遡行させる脳力、タイムゾーンリバースを起動すると、早く6分経ってくれと心底願うのだった。
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
数分後再び不思議な現象が。
「まただわ、またノイズ混じりのビジョン予知がキャンセルされてる、、さっき覗いたビジョンにはジョージちゃんの顔にボールペンがいーぱい刺さってたのが見えたのに」
これで2度めね。時間操作系か、、時間を止めることができるのなら、時間を戻すことも可能なのかしら?だとしたらその時間はジャスト6分…
「あれれ、ジョージちゃんとの通話が切れちゃった。かけ直そっと」
「戻ったーー、ラッシュ痛えし。また死ぬトコだったじゃんかよー!」
さっきの痛みと恐怖が薄れたかのように男が叫んだそのとき、通話切れのスマホから再び着信音が鳴った。
「うわっ、2回め、2回め、また、あ、あの女からだよ。もうでない。でないならスマホ壊しちゃうか、そうだ、壊そう」
と男が行動を起こそうとしたその時。
未来視ビジョンでスマホが破壊されるのを知っていた女は、男の視神経に貼り付けた追跡マーカーと女の視点を同期させると同時に、持参した旅行バッグから取り出した和針を両手にもてるだけ持つと、リビングにいる男の身体へと瞬間移動させた。
「ぎゃーーおーー」
「イデーーなんだコレ?!だーーまだ来る。刺さった、刺さってる、針、針、あっちこっち!」
和針で全身ハリネズミと化した男は、のたうち回ることさえできなかった。
「うあぁぁぁ、目に、目に刺さった!ひぃぃぃ、痛いぃぃぃーー我慢できねぇぇーー」
「タイムゾーンリバーース!」
男は再び時間を戻そうとする。
連続してのタイムゾーンリバースには制限がある。
2度めの連続起動は半分に短縮した3分後に時を戻せる。が、タイムゾーンリバース
3連続での起動にはタイムラグという制限がある。
男の目玉に深く刺さった和針の先端に指先が触れただけで激痛が走った。
「針、目に、針が目ん玉にーーさわリてー、さわれねー、抜きたてー、抜けねーー、もういい、もうやめてくれーー!」
次から次へと女の放った和針が数本男の股間へと吸い込まれていく。
「がぐぅぅぅ、キンダマにも刺さったーー痛ぃぃっっムリっっマジっっ」
男は目玉と睾丸を和針に貫かれ、悶絶するほどの激痛の最中、まだか?早く、早く、とヨダレを垂らしながら呪文のように繰り返していた。
「悶えちゃって、とっても痛そう。でもジョージちゃんの瞳に映ってた映像が見れなくなっちゃった。ざーんねん」
男の視神経に貼り付けた追跡マーカーは和針の影響で映らなくなっていた。
「直視しないとビーナスは上手く操れないんだけど、追跡マーカーが役に立ったし、ま、いっか」
3分後、タイムゾーンリバースで時間を戻し地獄のようね苦しみから開放され、
2度めのピンチを凌いだ男は
「あのままじゃ数分後に俺は死んでた。生き返れたが、それはタイムゾーンリバースのお陰だ。死の淵に片足突っ込んだのはこれで3度めだぞ、次は死、、」
男はブルッと身震いすると激痛と死の恐怖が生々しく蘇る。
「怖えぇよ、怖すぎてチキン肌ブツブツだよ。この家にいたら頭のイカれたマゾ女の標的にされちまう。逃げるしか、、」
でもどうやって。
2度めのタイムゾーンリバースで地獄のような苦痛から開放された男は
とにかくここから逃げる。という選択しか浮かばなかった。どこか遠くへ。
未来視ビジョンは再びキャンセルされている。
「またなの~、最初は6分、今度は3分に短縮してるけど、何回も使えるのは厄介ね。逆行する度にやり直しってつまらないわ。じゃこれで最後にしましょ」
「あれあれ、ジョージちゃんたら3分後に車で逃げるつもりね。逃さないけど」
女の未来視ビジョンは3分後に起きる男の行動を捉えていた。
女との電話は繋がっていたが男はもう出たくなかった。話したくなかった。喋りたくなかった。そこへ
「わ、うわっっ」
ボールペンが男の足元へパッと現れた。そのボールペンには紙切れが巻かれていた。紙切れには(今すぐ電話にでないと殺す)と書かれていた。
男はうわずりながら、
「お、俺はお前には関わらない、だから俺にも関わらないでくれ。関わりたくねーんだ、2度と。頼むから」
「あら、随分嫌われたわね。でも、ダメよダメダメ、決めた。いま殺すわ」
「な、なんでだよ!ふざけんなよっ!」
「ふざけてないわ、本気よ」
「ひ、人殺しになるぞ!」
「あら、殺人犯はボールぺンよ。逮捕できるのかしら?」
「わ、分かった、金をやる、何十億でも好きなだけ持ってけ」
「要らないわ、お金なら腐るほどあるの」
「な、なら何が欲しい!」
「ジョージちゃんの・い・の・ち」
「ふさけるな!」
「だからふざけてないわ」
「テメー、ブッ殺すぞ!」
「そう、宣戦布告ね。あと数分の命かしら。じゃ行くわよ」
「まて!待ってくれ!今のはつい口にでちゃったんだ、冗談だ、冗談、本気にしないでくれ」
この女、こいつ狂ってる。狂ってるやつの相手なんかできねー
「それとね、逃げてもムダよ。何処へ逃げてもジョージちゃんの後ろにいるから」
「な、やめろっ!」
「止めて下さい、でしょ」
「あ、やめてください、そ、それと、は、話し合おう、な、そうしてくれ」
「その前に私の能力を教えてあげる。知ってると思うけど物体をテレポートできるの。見える範囲で。私は目がいいから1kmは余裕よ」
(うっそよ~)
「でね、未来が見えちゃうの。ジョージちゃんが力を使って私を殺そうとしても、
その場面が見えるの。何時何分何秒って。だから私を殺そうとしてもムダよ。
あとさぁ、内緒だけど、私ね、殺されても死なないんだよ。痛いからヤダけど」
(えっ、ちっとも内緒じゃねーし。死なない?殺されても?って不死身じゃねーか!じゃ俺この女から逃げられねーってこと?んなことよりこの場を何とかしないと)
「聞いてくれ、アンタと揉めようなんて思わねー、死にたくねーし」
「アンタじゃないわ、水沢響子よ。それとね、ジョージちゃんが見てるものは私も見れるの」
「あ、意味わかんね」
「だってマックさん、でしょ?早撃ちの」
(なにいってんだこの女?ワケわかんね)
「なんだよ、マックって」
「センズリっていうのよね。ジョージちゃんてさ、おちんちんシコシコするの40回位よね。シコシコピッピって20秒でイッちゃったでしょ。同期した追跡マーカーで見てて笑っちゃったわ」
早漏がバレて、いや、センズリしてるのが見えるマーカーって何だよ。
あーー恥ずかしいより、情けねぇ、、何でこんな女と関わっちゃったんだろう、、
やっぱ逃げる!もうどうでもいい。逃げる!
どっかの地下シェルターとか。あ、マーカーとかいうので俺の行動が見れるなら、、串刺しじゃん。ダメだダメだ。
いっそのこと海外へ逃げて、そうだ、あのジジィの所がいい!
赤か黄色の薬をまた打ってもらって新しい能力を得る!女に匹敵するような。
そうだ、それがいい!パスポートと金とクレカさえありゃどうにでもなる。
車庫と門の電動リモコンを押し、車のキーを取ると
男、いや、織戸譲二はタイムゾーンフリーズを起動した。
追跡マーカーで男の目を通して女に見られてることも、タイムフリーズを使うことも女の未来視ビーナスで看破されているということまで頭が回らない。
いま口にしたばかりなのに。
タイムゾーンフリーズが解けた瞬間、織戸譲二こと生田時緒はガレージの中で絶命していた。
水沢響子の手から放たれたボールペンで心臓を串刺しにされ、脳幹を砕かれた男は
目を見開いたまま死んだことにも気づいてないかのように。
「ジョージちゃんを解剖したお医者さん、きっとビックリするわね」楽しかったぁ。
そう言い残すと女はその場から何処かへ去っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます