第14話 生き返った男


女は自分が襲われるはずだった場所で立ち止まっていた。


「ここね、私が襲われるはずだったのは」


女の能力、未来視ビジョンの予告した映像が6分間キャンセルされていた。


「ビジョンの予告が変わるなんて、こんなの初めてよ。どうしたのかしら」


でも、、そういえばおかしな所が一箇所あったわね。

覗いたビジョンの映像にかすかなノイズがあったわ。


女の能力、未来視ビジョンはパッシブ型セルフディフェンスを共有し、

6分後の世界を覗くことができる未来予知能力の一種だ。


襲われるのであれば回避すればよいのだが女はそうしなかった。

未来視ビジョンに映ったあの男の顔には見覚えがあった。

それを確かめたいという好奇心からの行動だった。


「内容が変わったにせよビジョンに映ってた私の襲われるシーンは生々しかったわ。それに、あの顔どこかで、、」


あの男どこで見たのかしら?レストラン、銀行、居酒屋、いいえ、違うわ、もっと大勢で騒ぐ、、コンサート、ナイトクラブみたいな、、


競馬、競艇、ボートレ、、

「そうよ、そこで見たのよ!」

大金を稼ぎまくっていたから憶えているわ。私もだけど、エヘッ。


この男、私と同じ能力持ちね。

でもどこで身につけたのかしら?どんな能力なのかしら?私と同じ未来視?

だったら自分の未来が見えたはずね。これは違うわきっと。


他に何があるかな?

ちょっと待って、あの男まだ近くにいるんじゃない?

女は未来視ビジョンの映像を頼りに男を捜した。


「いたわ、みーつけた」


危険な男。でも、様子が変ね。ま、いいわ。

今後のためコイツの目に追跡マーカーを貼り付けてと。


視神経に貼り付いた追跡マーカーは、貼り付けた相手の目と同期できるという優れものだ。つまり貼り付けた相手の視点を覗くことができる。


その追跡マーカーが男の視神経へと張りついた。


タイムリバース以前に女が貼付けた追跡マーカーは時間の戻りと共にキャンセルされているのだが、時が戻ったことを女は知らない。


「これで何処に隠れてもターイホよっ」

「ま、興味深い男だわ、悪い意味で」


女は再び未来視ビジョンを起動すると6分後の自身の安全を確認した。

そのビジョンの映像にはノイズは見当たらなかった。


┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈


「俺生きてる。生き返えった、いや生き返れた!」 


痛い、想像を説するほど痛かった。血の海でのたうつ死の恐怖、 

俺の大事なモノが切断された痛みと恐怖、廃人にされた恐怖。全てが怖かった。


あの時俺は出血多量で確かに死んだ。心臓も止った、、ハズだ。だが生き返れた。


「心停止直後にタイムゾーンのオートリバースが発動し6分前に戻れたんだ。ギリギリだった、、」


男のタイムゾーンリバースは発動した時間から6分後に時を戻すことができるが、

タイムゾーンリバースの連続使用には制限があり、連続使用可能も欠点がある。


倒れていた男は気だるそうにのそのそと起き上がると、力を失ったような瞳で数メートル先の女を見つめた。


連続してタイムフリーズは使える。が、男はタイムフリーズが使えても使う気になれなかった。 


男の身体がブルッと震える。男の脳は死の恐怖を覚えていた。男の脳は死の苦しみを憶えていた。


この女は危険だ。男の本能がそう告げていた。


男は考える。時が戻ったことを女は知らないと。つまり女との諍いは起きなかったことになるのだと。なら、、


男は女の視線を逸らすと、背を向けて肩を丸めるように歩きだした。

それを見送った女は、男の視神経に貼り付けた追跡マーカーを駆使して、男の目に映る映像を頼りに男の後を追って行く。


自分が追跡されていることを知らない男は、タクシーで帰路につくと冷えたビールを煽りながら思案し始めた。


あの女は俺と同じ能力者だった。

能力は違うが同類だ。だがどこで? 日本で? くだらねぇ、そんなわきゃねーか。


あの国の隔離施設以外考えられねー!でもなぁ、仮にそうだとしても、施設にいたのは男だけだった。

他の隔離施設に女の生き残りがいたのか? 博士だというクソジジイに聞いときゃよかった、クソっ!


あっ!そうか、そういうことか、俺らの隔離施設とは別の、あの隔離施設は男女別だったんじゃねーか? だとしても、判ったところでどうなるもんじゃねーけど、、


男は日課の女漁りをする気になれなかった。

あの女が近くに隠れているような気がして。だが性の欲求は止められない。

それとこれとは別だからだ。


男はズボンをとを下げると、勃起したモノを手で上下にシゴきだした、が、

「ウッ」

20秒ほどでイッてしまった。。 


追跡マーカーで男の行動を覗いてた女はそれを直接見てしまった。。


「おもしろーい。男の自慰なんて初めて見たわ。ホント長いわね、アレが。

あらら、もうイっちゃったの、、もろっぱやっすぎ、、マックさんだわ~」

 

男は女に殺されかけてから3日間控えてた日課の女漁りを始めた。

女は追跡マーカーで男の行動を監視している。本日2度めの監視だ。

だが、


「あら、まただわ。今度も30秒間だけビジョンの予告がフリーズしているわ」

女の能力、未来視ビジョンは6分後の未来の映像を捉えることができる。


「男が電車に乗り、電車を降りる、すると女の悲鳴が。おかしなところはそこね」


「男の行動パターンは変わらない。でも、、ヒントは女の悲鳴ね」


「電車に乗る、ビジョンの画面が30秒間フリーズする。次の駅で降りる、女の悲鳴。ワンパターンなのよね」


ビジョンを使うまでもなく、男の行動パターンは読めていた。


次の日、女は未来視ビジョンと追跡マーカーで男が降りる駅へと先回りし、

向かいのホームから悲鳴を上げた少女に追跡マーカーを貼りつけた。

少女の行動を追跡マーカーで覗いていく。


少女は男の性被害者だと判明した。


30秒間の間に少女は電車内で犯された。その30秒間の間、私の未来視ビジョンはフリーズする。未来視ビジョンで映るはずの30秒間の映像もフリーズして残らない。


「ああ、そういうこと。判ったわ、ビジョンの映像が30秒間フリーズした理由が」


「もうひとつは後でゆっくり検証するわ」









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