第7話 神をも凌ぐ男

脱走した俺は空車のタクシーに乗り込むとロコ州国際空港へと向うが、タクシー車内に備え付いている小型テレビでは臨時ニュースが流れており、俺の顔がアップで映し出されていた。


本日早朝、ロコ州ロコ刑務所で大量殺人事件発生。日本人死刑囚として収容中のトシヒサフユキ容疑者は刑務所長及び看守2名を含めた5名の殺害容疑で警察は日本人トシヒサフユキの行方を追っている、と。


不味いな、正体バレバレだ。前を見てるタクシー運転手は俺だと気付いていないがこのまま空港へは行けない。


『この先検問だらけだろう。電光石火ライトニングで移動できる範囲も時間も限りがある。つまり空港のライブカメラに発見されれば機内点検終了まで旅客機は飛ばないだろう。それまで隠れる場所もない。フライト時間を遅らせるだけだ。それでは意味がない。空港へは向かわずコンビニへ向かう』

「コンビニ?」

『ドライバーに伝えろ』

「あ、運転手さん買物するのでコンビニまででいいです」


長距離だった当てが外れて失意顔の運転手に釣りは要らないと女医の財布から料金を支払いコンビニへ向かう。


「で、何を買うんだ」

『2日分の食料と飲料水。サングラスにマスクと時計に虫除けスプレーを買い山へ行くぞ』

「山へ?」

『とにかく行くぞ。東洋人は目立つ。電光石火ライトニングを解けばバレるのも時間の問題だ』

「時計?時計は小型の置き時計しかないぞ」

『時計の秒針は何秒を指ししている?』

「秒針は10時の位置で止ってるよ」

『行くぞ』

「それでいいとか、、何だよ、もう」


商品を女医から奪った鞄に詰め、レジに金を置いてコンビニを出ると、誰にも見咎められずに目の前の山へ向かった。捲きあがる風を置き去りにしながら。


ここはさっきのコンビニから数キロメートルも離れた山の中だ。

神速領域での速さはどの程度なのか分からないが、単純に時速600キロと仮定して障害物のない平坦地なら分速で1万mは移動できそうだけど、空力抵抗凄すぎ。。


マスクすっ飛ぶわ虫は口に入るわ、サングラスは無事だけど、無かったら目ん玉虫だらけじゃん。


『時計の秒針を確認しろ』

「なんで命令口調なんだよ、俺の脳味噌のくせに」

と毒づくも知らん振りだし。


鞄から取出しておいた置き時計の秒針はほぼ10時の位置のままだ。

つまり一周して1分が経過している状況だ。

ゼン曰く、何分で電光石火ライトニングが自動解除されるのか、その時間が知りたいらしい。


木漏れ日の中、雨露を凌げそうな場所に腰掛ける。電光石火ライトニングは自動解除されないままだ。


1分1秒が長い。時間経過においては人の30倍速さは人の30倍の遅さでもある。ウルトラマンがこの能力を使えればゼットンに勝てたのだろうか?などと考えてると

6分過ぎた辺りでやっと電光石火ライトニングは自動解除された。


「なぁ、俺さぁ、予想ついたんだけど間違ってないよな。」

『ああ、予想通りだ』

反対はしないが不安だ。けど、生きて再び日本の大地を踏みしめたい。緊急配備の包囲網、空港の捜査網を潜り抜け帰るんだ、日本へ。


緊張でメシが喉を通りそうにない。コンビニで買ったペットボトルの水を飲むと、

虫除けスプレーを顔や手足、身体にかけた後、女医の鞄から緑色の液体と注射器を取出し、その液体を注射器に流し込んだ。


「じゃ、やるぞ」

『未来のために』

「人生のために」


地面へ横になるとTシャツを捲り、緑色の注射液を上腕に打込んだ、、


「身体が硬直して動かねぇ」

『ナノウィルスが身体を再編成してる。その副作用だ』

「身体中にミミズが、虫が這ってる、虫だ、虫!」

『ナノウィルスが神経を再編成しているだけだ。心配するな』

「いつまで続くんだ、き・も・ち・わ・る・い」

『あぁ、ダメだ、、意識が霞んでいく、、」俺は闇の底へと落ちていった。


【再編成が完了しました。血液及び肉体のナノマシン化に成功しました】


女性の声でアナウンスが頭の中に響く。意識が戻り薄目を開けると、ジンと呼びかけてみる。

『無事に全ての再編成が完了した。起きてみろ』

「さっきのアナウンスはなに?」

『ただのインフォメーションだ。起きてみろ』


硬直してた身体が軽く動く。俺は起き上がると違和感に気付いた。高速領域を起動してないのに身体が空気のように軽く動く。


虫除けスプレーが効いたのか身体に違和感もない。

置き時計を見るが日付の表示がないのでどのくらい失神していたのか定かではないが腹の減り具合から丸二日は経っている感じだ。


鞄からコンビニで買った弁当を取り出すが弁当からは饐えた臭いがした。

食えねぇじゃん、、仕方なく水で喉を潤すのだがペットボトルの水は温かいお湯だ。


「冷たーいコーラが飲みてーー」 


『コーラもいいがこれを見てみろ。目の前にあるように見えるがそうではない、脳内の映像だ』

そこには脳内で作られたスキルボードみたいなのが映し出されていた。


「これは一体、、」

『新たに編成した超次元能力が表示されているだろう』そこには、、

[神をも凌ぎし者 固体脳力 自動反撃デスタイム+反魂 +素粒子生成+]

[固有能力 森羅万象]とあり、

他に神速ライトニング ラブドール ファントム パラダイスと表示されていたが、 

ホークアイなどの普段使いの能力は表示されていなかった。


「ジン、これは、、」

『ファントムはステルスが進化したモノだろう。電光石火ライトニングは神速ライトニングへ、森羅万象は任意の年齢に転生する。これは使えるな』

「神をも凌ぎし者  固定能力 自動反撃デスタイム+反魂+は?」

『反魂は死んだ後のお楽しみってやつだ』

「なにそれ、楽しくないし、、」

『神をも凌ぎし者は称号だと思うが、 自動反撃デスタイム+は不明だ』

「不明って、どうして?」

『その場面になれば自ずと解るだろう』

(だよ、答えになってないじゃん)


「ファントムとかの後ろにある+は?」

『+は成長の度合いを示す評価基準らしい』

ひとつ足りないじゃん。あのジジィ不老不死だとか言ってたのに不死がないし。


何だよ、ボケジジィ。


素粒子生成って何だろう?生成してどうするの?ジンにもどうなるか生成するまで解らない謎の能力だとか、、謎だらけじゃん。 


「ジン、脳が100%開放されたということは右脳左脳の人格も(人格なのか?)形成されたの?」

『騒がしいのが好きなのか?オレと同じのが2組増えるぞ。頭の中でトリオ漫才でも披露しようか』

「え、いや、やだ。だって脳機能障害で発狂死する自信があるもん」

『100%に満たない。限りなく100%に近いがな。右脳左脳に自我に芽生えるかはその時の運だろう』


「じゃ、もう芽生えなくて結構日光月光天候」



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