第4話 覚醒した男
月日は経ち100回目の薬物投与後、今までに無い症状に襲われ朦朧として歩けない俺を看守らが監房まで運んできた。
暫くすると頭が割れるような猛烈な頭痛に加え40度を超してると思われる高熱に天地がひっくり返ったような目眩と嘔吐感、手足の痺れ、極めつけは脳が膨張し頭蓋骨を突き破り破裂するという幻覚に襲われて吐き気が止らない。
「俺は死ぬのか?報復もできずに・・」
「悔しい!この国もアイツらも・・・くそっ!復讐するまでは死に切れねぇ」
高熱に冒されながらも意識があるので気絶もできずそれこそ棺桶に両足を突っ込んだかのようだ。
見かねた同房の囚人が看守に伝え、俺に薬物投与した診療室へと走ってくれたが診察室に居るヤツらに取っちゃこんなことは茶飯事なのか馬耳東風だ。
「あぁ、死ぬ・・・」と思った瞬間気を失った。
4日目の午前中に目を覚ました俺はどうやら3日3晩生死を彷徨っていたらしい。
そう同房の囚人が教えてくれた。
あの苦しみは何処へやら、シャキッとしてるのが不思議だ・・・それに他人の動きが遅い、ゆっくりと、瞳に映る他人の行動がまるでスローモーションのようだ。
「なんだこれは?」
俺の動きもスローなの?
「とにかく動いてみるか」
起きあげるも身体が軽い!まるで、そう、羽が生えたような。
が、自分の背中に羽根などない。当り前か、天使じゃあるまいし。
起きて歩き出すと動作の鈍い人の波を掻き分けるようなスピード感溢れる身体の動きに驚くと同時にすれ違う囚人達からは、
「何かすれ違ったぞ」
「俺も風圧を受けたし、カーテンが揺れてるし、、」
「見たか??」
「いや見えなかった・・・」
すげぇーーけど、なんだこりゃ?でも面白れーー水を得た魚のように囚人らの間をすり抜けて行く。
誰にも俺だと気づかれずに。
脱獄できるんじゃないかと、普段囚人さえも近づかない看守の居る鉄格子まで進んだが当然外へ出る為の鉄格子には鍵が掛っている。
しかも外へ出るのに2っの鉄格子をクリアしなければならない。
「鍵はどこだ?」
「所長室かな?」すると
「おい、おまえ!こんな場所で立ち止まって何してる!急に現れやがって!どんな手品を使ったんだ!」
やばい誰何された。立ち止まったら普通に見えるのか?当り前か。脱獄したさの嬉しさの余りそんなことにも気付けないとはバカにもほどがある!
この看守に顔を見られた?どっちだ?
長髪に隠れ俺の横顔さえ見えない筈だ。じゃここはトンコだな、逃げるーーー
『まて!』って、あれ何処行った??消えた??お、おばけ、、ゆ、幽霊、、
首に下げた十字架を握りしめ『アーメーン』だってさ、看守もおばけは怖いらしい。
この刑務所の看守は皆拳銃を携帯してるし、ゲートの看守など暴動鎮圧のためかAK-47を装備しているらしい。君子危うきに近寄らずと念を押す。
あれから刑務所内野外広場で人気のない場所まで移動してきたのだが、
「ずーとこのままか?!」
脱獄には便利そうだが常時このままじゃ不味い。
さっきも看守に見咎められたばかりだし。前途不安に陥り、明日から再開されるであろう薬物摂取の回避もしたい。頭の痛い話だらけだ。
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