第3話 薬漬けにされた男

ガンダ国の州刑務所内は自由だった。が、洗濯してシャワーが終われば異国人の俺は毎日何かをする事もないほど暇だ。


刑務所内でも金さえ払えば酒、麻薬、女、何でも手に入るらしいが今の俺はそれどころじゃない。如何にしてここを出るかだ。

恩赦など論外だし、いつ死刑になるかの方が現実問題だ。

 

ヤバいのはこの刑務所では囚人に対し堂々と違法治験がまかり通っていることだ。

 

接種後の気だるさが収まった1週間後に採血し終えると問答無用の2回目のワクチン接種だ。

で、俺はまた気絶した。気絶しながら俺の身体はウォーターベッドに包まれたような、海中を漂うような浮遊感に浸っていたのだが。。


目覚めると診察室のベッドに寝かされていた。

ワクチンの副反応で微熱とだるさでボーっとしたままの俺に気遣う素振りもなく

女医と老博士から矢継ぎ早の問診攻めには辟易したのだった。


同じ事を次の週、そしてまた次の週と同じワクチン接種の繰返しで

「まるで人体実験じゃねーか」と口をつく、が、

日本語は通じなくとも雰囲気を察したのかニヤつく看守。

我が運命を呪いたい気分だ。


毎度毎度、老博士が何か身体の変調や変化は無いのかと細かく尋ねてくるのが、

バカか!そんな兆候が有っても余計なことは言わねーよ!と心の中で毒づく。

だがワクチン接種の度に身体も頭も薬物に犯されてる気分だ。


そんなある日、ジュニア、ココ、マンという3人組のグループと仲良くなった。

(マンはガンマンという名を縮めたらしい)

俺が冬生利久(ふゆきとしひさ、利久を文字ったあだ名はリック)という24歳の日本人と知ると別の施設に日本人がいると教えてくれた。


その日本人も冤罪で投獄されたのだろうか。ここで自分以外の日本人を見かけたことはないが、時間は掛っても死刑囚監房では無いので生きてここを出られるのかもな。


日本人受刑者の素性も気になるがジュニア、ココ、マンの3人はもっと興味深い。

実はこの3人組との初対面では虎と見つめ合ったような衝撃を受けて身体が硬直したっけ。

そんな独特の雰囲気を持つこの3人組は他人から一目置かれているのだがお互い異国人同士だからなのか意外とフレンドリーで話しやすい。


3人共ガンダ国出身ではないらしいが何処の国なのかは笑って誤魔化された。

ま、いいさ、この刑務所で一々気にしてたらキリが無い。

ジュニア、ココ、マンとは何が好きで嫌いなのかという他愛の無い話ばかりだけど俺に付き合ってくれるここでの唯一の知人だ。


ここの死刑囚人はギャングと元不良警官の占める割合が高く、俺のようなフリーは少ないので面倒臭い問題が起きないようギャング別にグループで分けられている

と言ってもこの刑務所では喧嘩、傷害、殺人が日常的に起る。トイレで用足しの最中うしろからサクッとスプーンを削った自作のナイフで刺される、なんて珍しくもない。

俺だって拘わりたくもない、けど日本人と言うだけで金持ちというレッテルから見知らぬ囚人から金貸せのトラブルが頻繁に起る、

貸した金は返ってこないので断るとその場はいいが後で襲われる。「逆恨みかよ」と罵っても助けなど来ない。ひとりぼっちにゃ辛い日常だぜ。


ここに入れられて1ヶ月ほどが経ち、6回目のワクチン接種後のある日、3人グループのジュニアが独り言のように俺に言う。


フユキは死刑囚という名目でモルモットとして人体実験中とのことだぜ、と。


この刑務所では主に日本人をターゲットにコロリウィルスのワクチンだという名目で謎の液体を注射してるのだという。

多くの日本人は死ぬか廃人になるかまたは、、化け物になる、、らしい。


アメリカンコミックのハルクって知ってるか?いるらしいぜ、あんなのが、

生死は不明だが。とジュニアに告げられたて顔が引きつる。


どうやらジュニア達はワクチン接種を回避するための賄賂を看守長へ手渡す際に俺のこともそれとなく聞き出してくれたらしい。

有難いが、それより先に「ウソだろ」と言っていた。


冗談じゃねーふざけんな!無罪もへったくれもねーや!ここを逃げ出すしかない!

でもどうやって?!ジレンマと焦りで汗が引いていく。


ムカつくと同時に殺意が湧く!腐った警察に、裁判官に、検察に、いやこの国の司法そのものに!この怨みは死んでも忘れない!


金なんかとっくに底をついている。栄養もない配給食だけの、骨皮筋ェ門のこの身で命ある限りここを抜け出しヤツらに復讐してやる!

 

この日は10回目のワクチン接種だ。当初のように気絶こそしなくなったがワクチン接種後の副反応が続く中、

音が聞えなくなる症状が出始め暫くすると耳鳴り目の痛み酷い偏頭痛と船酔いに似た気分の悪さに辟易する。


いよいよお迎えか、気が触れる前兆かと半分諦め、半分マジな気持ちになる。


尚且つ博士と呼ばれてるクソジジイが「君は明日から毎日ワクチンを打つからの」と聞かされ卒倒しそうになった・・・

「なんの実験だよ!ナニをやってもいいのかよ!」と叫ぶもそんな戯れ言など問答無用と部屋の外へと看守にほっぽり出された。


「なんてこった・・・」あまりの口惜しさに涙もでねぇ、俺はこの先、得体の知れない薬物を何回打たれるんだ!ワクチンなんかじゃないだろクソッ

絶望するしか無いのか?どうにかここを抜け出せないのか?脱獄できるのか?いや、ここを出る!必ず!


思いと裏腹に脱獄の目処も立たないまま時間だけが過ぎてゆく。薬物投与の副反応で食欲など湧かないからと刑務所内の売店で冷たいコーラを飲む。

なぜか涙が零れてきた。

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