第16話 水晶の花園で・決戦! 後
城の中は総クリスタルだった。
事前の相談通り、虫は炎に弱いが水晶は燃えないので「物質創造」で大量のガソリンを作り出し、魔法で気化させ一階から6階まで充満させ、火をつける。
俺たちはもちろん結界の中である。
いや、えげつない爆発だった。
敵だけじゃなくて割れた水晶も崩落してきたのである。
それらを『生活魔法:リペア』で修復しながら先に進む。
床に散乱する水晶蚊や水晶蠅を踏みつぶし、俺たちは階段を探す。
開けたホールに出て―――あった。階段だ。
ここからはカーマとも別れて単独行動だ。
その後も入り組んだ―――もれなく焦げていた―――城の内部を4階まで上がる。
カーマとは6階で再会予定だ。
カーテンなどが未だに燃えており、ドアも倒れているが、兵隊は健在だった。
小型のゴーレムが、千体以上わらわらとおしよせてきたのだ。
だが、水晶であるという事はロックゴーレムだ。なら衝撃系の技が効く。
「「属性魔法:上級:インパクト」広範囲化・キリサキ乗せ!」
それでゴーレムの3分の1は粉々になった。後3回必要なのか………
挙句の果てに、インパクトの効きそうにない大型のゴーレムも出て来て、かなり苦しい戦況になった。核の場所は見えたからそれが救いか。
手傷は追わずにすんだが、4階の制圧にかなりの時間がかかってしまった。
どこにメリュジーヌが居るか判然としないので、仕方なく全部の部屋をざっと見ていく。途中、すり鉢状になっている部屋で、水晶に侵された悪魔がだらしなく幸せそうに水晶のすり鉢でほぼ水晶化しかかっているのを見つけた。
こんな風に飼ってるという事は、水晶化には攻撃以外の使い道もあるのだろうか?
♦♦♦
3階を踏破して―――すり鉢は10個あった―――4階に。
ここの扉は爆風に耐えたようだが、見て回るのに面倒くさい。
カーマのいる階には気化したガソリンが行かないように気をつけつつ、もう一度広域爆破する―――と少し上階から押し返された気がした。多分メリュジーヌ。
がしゃり、と音がして、吹き飛んだ扉から何かが出てきた。
今までとは、比べ物にならない
ゴーレムとは比べ物にならない。動きの滑らかさが違う。
それが三体だ、大丈夫か俺。
核が見えなくて攻撃し辛いので、まずは手足を落とす―――。
まず一体目、3体からの攻撃を素早く躱しながら肩口を「キリサキ」する。
すぐくっ付きそうになったが『特殊能力:再生阻害』で阻む。
するとその腕はだらんとなり、動かせなくなったようだった。よし!
その後も徹底して1体目の腕と足の付け根を狙い、成功。
動けなくなった体に『戦技:微塵切り』をしかけて粉みじんにする。
これならどこに核があっても関係ないだろう?
だが後2回、いや後続が出てきたのであと4回、同じことをするのは大変だった。
仕方なく戦場跡でしばらく休んでいると、カーマが顔を覗かせた。
「お疲れさん」
「アル、お前の方が疲れているように見える。それにこっちはほぼがらんどうの部屋ばっかりだったし、敵も弱かった。お前の方は?」
「あー、かくかくしかじか。敵も多かったけど、気になるのは水晶のすり鉢状の部屋かな。水晶化させるだけならあんなものいらないだろう?」
「私見だが………あれは、魂のエネルギーを搾取しているのだと思う」
「例の禁呪絡みだっていうことか………」
「そう思う」
「じゃあ、そろそろ行かないとな。さっき城が震動してたし」
「?この城塞ならもう浮き上がっているから今は震動しなくないか?」
「浮き上がってるのかよ………とっとと行くか」
♦♦♦
6階は謁見の間というやつだった。
だが本来玉座に続いているはずの赤い絨毯は、ガラスの棺に続いている。
「はじめまして、メリュジーヌ殿。両名共に初にお目にかかるが、そちらの棺に眠るのが夫のドミナティウス殿かな?」
ドミナティウスの体は、魂が入っていないだけで、ごく普通の悪魔のものだ。
すこぶる付きの美形である、という追加情報を今見て脳裏に入れた。
「そうよ、いろいろ邪魔をしてくれているおじょうちゃん?今日は人間の彼氏はいないのかしら?赤毛のお嬢ちゃんと二人だけで私を討てるとでも?」
「彼氏は悪魔同士の抗争に興味ないと思うよ。それに、俺もそれなりには強いんだ」
「わたしも、弱くはない」
そう言って俺をかばう位置にカーマが出る。
先制はこちらだった
「リッパーガール・シューティング!」
『物質創造』で生み出した大量の投げナイフが、キリサキの力を纏い飛んで行く。
それは周囲のものをスパスパとキリサキながら弾幕となってメリュジーヌに迫る。
メリュジーヌはそれに結界で対処した。
威力は減衰したが、それでも彼女に浅い傷を負わせることに成功する。
メリュジーヌは早々に本性を現す事にしたようだ。
水晶で出来た家ほどもある蚊、それが彼女の本性だ。
頭の上に人の上半身がついている。
戦闘は長期戦になった。
いや、このままでは勝てないだろうからわざとそうしたのだ。
城の飛ぶ速度が遅いので、戦闘中には淫魔領に辿り着かないだろうと踏んからだ。
待っていたのは城門の戦闘を終わらせて、残りの面子が駆けつけて来ること。
全員そろった時点でチェックメイトだ。
目論見通り、門前での戦闘を終わらせたフィアンたちが飛んできた。
だが、ここに集まったのは自分たちだけではなかった。
ライトナが一緒について来たのだ。
「母さん、もうやめて投降しようよ」
「ライトナ………唯一あの人との子でないお前がそれを言うの?」
「命は助かるでしょ」
「無理ね………私は既に魂を使った実験に手を染めているもの」
ライトナの表情が驚愕と―――悲しみと諦めに染まる。
「わかった。サヨナラ母さん………兄弟たちの核は僕がもう一度育てるよ」
今生分の魂だけでなく、丸ごとの実験に手を染めているなら―――救う術はない。
不毛な戦いが始まった。
♦♦♦
エリュールが一声咆哮すると、漆黒の竜の姿になる。
そのままアンジェリーナをがっしりとくわえ込んで振り回す。
他の者の出る幕はないのでは、と思ったが、変なおたけびをあげて顎を開いた。
口の中にびっしりと水晶が刺さっている。かなり痛そうだ。
エリュールは涙目で人型に一度戻り、もう一度竜化する。
それで、口内の水晶は消えるらしい、便利だ。
慎重にエリュールがアンジェリーナの動きをけん制するが、決め手に欠けている。
「リッパーガール・シューティング!」
俺は巨大な複眼を標的にして、短剣の弾幕を放つ。
「ギャアアアア!!」
巨大な水晶蚊、アンジェリーナの絶叫が響く。
カーマは飛翔して、足を抱え込み、その怪力でへし折っている。
「アルヴィー。考えがあるから、鏡の中へ!」
「フィアン?分かった!」
「君の「キリサキ」はどんな武器でも付与できるんだったね?」
「この間それが分かったところだな」
「このクレイモアを持って、アレの上へ飛び降りて首を切断して欲しい」
「でっか………」
「私がさっき作った特別製だからね」
「そういう事を言ってるんじゃないけど、まあいい、やるよ」
血論から言うと、俺はメリュジーヌの首を刎ねた。
けれど彼女は即死はしなかった。
「私の負けね………まさか私が剣で切られるなんて」
人型に戻り
「お願いがあるの、夫と同じ棺に入れて下さらない?謀ではないわ。純粋なお願いだと誓いましょう。だからお願い」
「わかった………」
愛する者がいる身として、彼女の置かれた立場だったら辛すぎるのは分かる。
一夜にしての心変わり、手にかけた後悔、全てを正常に戻したいという願い。
淫魔領はそういう怖さのある所だ。ここは魔界、残酷な世界。
そして住人の俺達は悪魔、悪徳を良しとする種族だ。
でも、彼女の最後の願いを聞き届けてやろうと思う。
「カーマ、棺の蓋取ってやって」
「ありがとう………」
棺の中、彼女は彼の胸に寄りかかるようにして眠りについた。
さて、このままにしていくとここを見つけた奴らに引き離されかねない。
「『上級:火属性魔法:呑み込む火柱』威力増大3倍!」
「ふ、火葬にしてあげるとはね優しいじゃないか。ならば灰は私が引き受けよう。誰も来ない所に埋葬すると誓うよ」
「ザ・ミ………じゃないフィアンもほだされた?リーダーでも思い出したの?」
「エリュール。そういう事を言うと、ハリネズミに噛みついた犬の如き醜態をエメラルドドラゴンに報告するよ?」
「げ!やめて!ごめんなさい!」
軽く笑っていると、無表情ながら少し寂しそうなライトナの姿が目に入った。
「なあ、お前行く当てあるのか?」
「ないよ。
「それだって一人じゃ結構大変だぞ」
「僕は姉弟たちの核に再び命を宿せればそれでいいんだ。もちろん全然別人になるだろうけど、愛着があるから。そんなものを感じられるのは彼らだけなんだ」
「アスタロト領民らしく、感情が薄いのか………お前、良かったらうちに来ない?」
「え?」
「魔法は達者なんだろ?」
「うん、全部上級までは使えるけど」
「なら、うちのボーイとして働いてみないか。ノウハウはエリュールに学べ」
「………いいの?敵だったんだよ?」
「今敵意があるか?」
「それはない」
「じゃあ、いいじゃないか」
「………わかった、お世話になります」
さあ、後は面倒な事務手続きだ。
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