第15話 水晶の花園で・決戦! 前

次の日の朝。


 隣のベッドで真っ直ぐ動かずで眠っていたカーマが、ぱちりと目を開ける。

「相変わらずヴァンパイアみたいな起き方と寝方だよな」

 はそんなことないくせに。


「そうか?おはよう」

「はいはい………昼には出撃だな」

「そうだな。………着替えて朝ごはんを食べに行こう」

 緊張感がないにも程があるな。


 それぞれ戦闘服に着替える。昨日と同じ格好だ。

 俺はブラウンのパンツスーツに革の運動靴、トレンチコートだ。

  

 カーマは超際どい黒のボンテージドレス。

 はっきり言って乳首と秘所しか隠してない。その代わりというように全身に刺青。

 しかしわボボン・キュッ・ボンのわがままボディだ。

 部屋から出たら男共の視線は釘付けだろうな。


♦♦♦


 朝食はダイニングだ。すでにフィアンとガンザル、エリュールは来ていた。

「ボンジョルノ、シニョリーナがた」

 さっと近寄ってきたガンザルが椅子を引いてくれる。さすがだ。

「おはよう、アルにカーマさん。2人の恰好に落差がありすぎるよね」

 エリュールがカーマから微妙に視線を逸らしながら言う。まだかわいいな。


「ボンジョルノ、お二人さん。少々奇妙な気がするね」

 そういうフィアンの恰好も、イタリア紳士の服装ではない。

 白い燕尾服で、フリルシャツだけが黒。鏡で出来たステッキを持っている

「それは裏の仕事用かい?」

「そうだよ、アルヴィー。ザ・ミラーとしての服装だ」

「マジシャンみたいだな」

「ま、やる事は似ているね」

「昨日聴いた限りではもっと凶悪な能力だと思うぞ」

「はっはっは」

 笑って流されてしまった。


「戦闘用の服、それでいいのかエリュール?」

 エリュールはジーンズに黒いTシャツというラフな格好だ。

「うん、わからないだろうけど人型でも皮膚装甲あるから」

 なるほど。本性はドラゴンだもんな。


「運転手さ………ガンザルは、変わらないんだな」

「へい、いつもこれでやってますからね。違うのはコイツの手入れをしたぐらいで」

 スーツの内側に2丁のごついサブマシンガンと弾薬。

「FN P90でさ。シニョリーナの銃とは弾薬が一緒ですな」

「ああ、言われてみれば」

 よく見てみればメーカーが一緒なのか。


 殺伐としてるようでしてない会話と共に朝食は進んだ。


♦♦♦


 正午、俺たちは庭に集合した。フィアンが口火を切る

「では私の能力で「鏡」―――いや「反射」を渡っていくよ」

 そう、フィアンの能力は鏡から鏡の移動ではない。像を映すものがあれば何でもいいので、この能力を使って目的地まで行くのだ。

 暗殺任務とかに物凄く重宝しそうだ

 ついた後は普通に移動するが、鏡の中の世界は緊急避難に使えるので頼りになる。


 みんなで、鏡の中―――遺跡群の中を歩くような風景―――をてくてく歩いていくと「窓(反射する何かから見える景色)」から目的地が見えてきた。

 酸の雨が降ってこないほど近くまで寄って「反射」から外に出る。

 しかしでかい壁と門だな。この輝きはダイヤモンド製だぞ。


「カーマ。こんなところでエリュールを竜にしても仕方ない。いけるか?」

「任せろ」

 一言いうなりカーマは右腕を後方に引き、力を溜め始める。

 全身の刺青が輝いて見え、とても幻想的だ。

 全破壊する必要は無いんだぞ―――と言おうとしたが間に合わなかった。


 強烈なインパクトが正門に直撃。扉が凹む。

 それだけではない左の手もいつの間にか「溜め」に入っており、もう一撃。

 巨人の拳と言われても納得のいく拳の質量を伴ってが正門にめり込んだ。

 ………カーマは左利きだったな(現実逃避)


「すごいよ、単なる悪魔の体を超えてるよ」

「ありがとうエリュール。後は連撃で瓦礫にしてみせる」

 その言葉にたがわず、門にはラッシュがかけられた。門が開く。いや壊滅か。

 いい感じに、門は粉砕された。


 中に入ると、2つの川があった。城までは直通コースと迂回ルートである。

「川沿いに行こう。直行コースだ。面子は俺、カーマ、フィアン。あっちの森林添いの川地帯からはエリュール、ガンザルはが進んでくれ」

「一族郎党、降伏か殲滅だ。正面からぶつかるぞ!」

「救援はお互い、切羽詰まったら求め合うということで」

「ふーん。僕は構わないよ。ガンザル、竜化するから背に乗って対地攻撃しなよ」

「いいんですかいエリュールの坊ちゃん?………じゃお言葉に甘えて」


♦♦♦


 俺たちの戦線は、化け物のオンパレードだった。

 巨大な色とりどりのゴーレムが大量邪魔してくるのだ。曰く

「あなたたちは主の領域に踏み込んでいます。先に進むに値するとは思えません」

 ああ、そうかい。


 おれは相手の足の間を潜り抜けながら「キリサキ」を糸にまとわせ全ての足に纏いつかせていく。最後に引っ張れば、足のないゴーレムは地に落ちる。

 その核を「キリサキの弾丸」で破壊していく。

 もちろん、フィアンもカーマも協力してくれた。


 ついでに水晶蚊と水晶蠅がスクランブル発信してきたが………公爵様に状態異常無効の腕輪を貰っているので、問題ない。

 3人3様の面制圧攻撃で沈黙させる。

 問題はその後だ。


「あー、じゃんけんに負けて見回りにきたけど、本当に侵入者だ」

 男とも女ともつかない、明るい声。

 だが本能に警鐘が流れている、これこそ強敵だと。

 性別を感じさせない細身の体。

 赤紫と白のメッシュの髪をしており、瞳は赤。やや気だるげだがかなりの美形だ。

「イクよ。耐えて見せてね」


 その声についで放たれたのは水晶の弾幕。

 俺とカーマは迷いなく鏡の空間に避難する。

「あれれ?手ごたえがないね、じゃあ、これてどう!?」

 鏡の世界から出た俺たちに、レイピアの突きのラッシュが襲い掛かる。

 俺は受け流しと回避に必死だ、こいつ、かなり強い。


 だがカーマは片手で受け止めた。フィアンは鏡の中からの銃撃で相手の剣を折る。

 瞬時に折られた剣を回復させた相手は

「わたしの名前はフリック。メリュジーヌの『子供』の一人さ。悪いけど通すなって言われているんだよね。水晶の苗床になってくれても大丈夫だよ」

「悪いが、公用でね。君達の「お母さん」を殲滅しないといけない」

「そう、なら仕方ないね」


 相手の加速は急激だった。

 まず俺の腹にしたたかに打ち込まれた拳。目がチカチカする。

 カーマは、何とかしのいだが腕にかなりの損傷を受けた。

 フィアンは、鏡の世界に入った事で事なきを得たようだ。


 くっ、何とかキリサキの刃を繰り出したが、それで相殺か。

 ピッ、と頬が切れる。鮮血が伝った。

「ああ、いいね。もっと血を流して。水晶を育てよう」


 息もつかせず2撃目。3人に分裂しての攻撃だ。

 フィアンが俺たちを鏡の世界に隔離してくれた。相手は空振り。

「ふふ、異空間ごと爆砕してあげるよ」

「いかん、この空間を破壊できるとも思えないが、空間を出て全力攻撃だ」


 フィアンの次元断裂の刃、カーマの全力を込めた拳、俺のキリサキの弾丸が炸裂した。結果は―――

 体の多くが削れた姿でフリックはまだ立っている。

「うそだろ?淫魔領にこんな戦力がいるなんて聞いてないよ。でもまあ、アレかな。この後頑張ってね。一定以上ダメージを受けたから暴走モードに移行しまーす」


 そういってフリックは、見覚えのある巨人になった。

「アレの弱点は格のハズ………」

「見えないぞ」

 カーマの言う通りだ。あの時の巨人とはケタが違う。

「あたりをつけて削って、見えるようにするしかないか」

「フィアン、削るような手札があるか?」

「安心したまえ、着弾と同時にインパクトをばらまく銃弾がある」

「じゃあ、敢行!」


 戦いは熾烈を極めた。

 相手が自己再生能力を持っているからだ。

 戦いの中で、俺が『再生阻害』の特殊能力に目覚めなければヤバかった。

 その後は順調に削り、キリサキの弾丸でとどめを刺した。


 倒すと同時に、ゴーレムの核はすうっとどこかに転移するように消えた。


♦♦♦


 途中、空間がどうなっているのか、反対側に行ったエリュールとガンザルを見つける。向こうも驚いた様子だった。

「マジ?反対周りでって事で別れたよな?」

「はい、その通りでさあ」

「空間が歪んでるにも程があるよね。あのお城、たどり着けるの?」


「迎撃が出て来てるから、見当はずれじゃないと思うんだが………そういうえば、そっちはどうだったんだ」

 話を聞いてみると、風属性のドラゴン型に変身する『子供』だったのだと。

「エリュールさんがいなければ、自分では太刀打ちできませんでやしたね」

「まあ、ほとんど俺と向うさんの格闘戦(ドラゴン形態で)だったからね。ちょっと疲れたよ。しぶといのなんのって。風は俺には効かなかったけど」


「風が効かない?何でだ?」

「風耐性MAXを持ってるからだよ。おふくろが「能力を重複して奪取してしまったからおまえにもやる」ってさ」

「確か、エリュールがおふくろ扱いするのはエメラルドドラゴンだったよな。どんな化け物なんだ………」

「多分、この作戦を一人でこなすだろうね」

 フィアンの言に目まいを覚える俺。どんだけ化け物なんだ。


 目指す城下に、3人ほどの人影が見えてきた。

 一人は赤毛のショートに、紅いトレーナーとジーンズ。赤い靴。たぶん男性だ。

 あれ、でも水晶蚊の一族の男性って戦えたっけ?

 彼はこちらを認めると。


「いらっしゃい、母さんを止めに来たんでしょ『誓って』敵対しないから、話を聞きなよ。悪い話じゃないはずだ」

「………誓いがあるなら話を聞いても良さそうだ」

 フィアンの一言に頷く俺達。


「母さんは、父さんを元に戻そうとしてるんだけど、その過程で怒りのあまり殺してしまってね。魂を取り逃がしてしまったんだ。普通それじゃ蘇生なんてできないんだけど、多くの魂の全てを生贄に目的の魂を呼び戻すっていう禁呪に手を染めたんだ」


 確かに、そのやり方は悪魔と言えども禁呪だ。

 悪魔には輪廻の話を潤滑に回すというお役目もある。だから人を殺すのだ。

 魂を食べたりすることもあるが、それはあくまで「その魂に用意されていた今生分の寿命の残り」を食べたり、利用するにとどまる。

 来世の分の魂を消費するのは禁忌に当たる。


「見てられないから、母さんを止めることにした。

 残りの子供は僕ライトナと、モモとキーナの2人。この2人は一緒に出てくるよ。

 炎使いと水使いで………」


 その後俺達は、この後出てくるであろう敵―――モモとキーナ、そしてメリュジーヌその人―――の能力を聞いた。

 メリュジーヌは城ごと飛び立とうとしているそうで、行く先は淫魔領だ。

 淫魔領で大量の魂を集めるつもりらしい。

 それまでに城に到達しないと。


 俺達は分散行動することにした。

 城門前に待ち受けているモモとキーナはこの城の最高戦力だ。

 なので相手はエリュールとガンザル、フィアンに任せる。

 俺とカーマは6階建ての「浮遊城」が飛び立つ前に城に入り、メリュジーヌを探し打ち取る。カーマは1F~3F、俺は4F~6Fだ。

 メリュジーヌを見つけてしまいそうであるが仕方ない。


 ライトナの案内で、空間の曲がった地帯を抜けて、城門に辿り着く。

「ライトナ!なぜおまえが侵入者と一緒にいる!?」

 水色の髪をしたスレンダーな女性が誰何してくる。

「ライトナ?裏切ったわけじゃないんでしょう?早くこっちに来て」


「裏切ったわけじゃない。けど、母さんを止めたいのも事実」

「そのために手引きしたっていうのか?」

「うん、そうだよ。でも僕は戦わない。彼らが止めてくれるのを祈ってる」

 殺気立った2人がこちらに視線を向けてくる。


「3人共手はず通りに」

「「「了解」」」


 まず、俺とカーマはフィアンの鏡の世界に入り、移動してもらって、正門から大分離れた城の入口に出して貰う。

「あの二人は頼むな」「よろしく」

 フィアンは俺とカーマの声に頷き、鏡の世界に入った。

 彼の気配が遠ざかっていくのがなんとなく分かった。


 さあ、クライマックスだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る