第13話 水晶蠅 イメージ☆はうす

「アンジェリーナが本気になったようなの。74大魔王を獲ったわ」

「それって、あちらさんの部下が増えるってことだよな………」

「それだけじゃないわ。水晶蠅と自分の子供、魔法兵器を投入するつもりみたい」


「ターゲットは分かるか?」

「どうも、例の高級娼婦と、74大魔王直轄の店がターゲットね」

「高級娼婦………旦那をダメ悪魔にした、ルティーナのことか」

「そういう名前だとは初めて知ったけど、そうみたいね」


「参ったな、彼女はブラックスの担当だけど、いい娘なんだ。ブラックスに守るように連絡を入れといてやらないと」


「あと、直轄の店は10店あるから、俺もバックの組織に連絡を入れなきゃ」

「明日から忙しくなる?」

「電話だけは、悪いけど今入れさせてもらっていいかな?」

「良くってよ」


 俺はブラックスとフィアンに連絡を入れた。

 ブラックスの希望で、手元の水晶蚊の特効薬を50個『テレポート』で送っておく。

 ルティーナには手厚く防御を敷いてやるそうで、一安心である。


 フィアンの方はちょっと問題があった。つながらないのである。

 俺の番号でかけて繋がらないことはまずない。

 念のために『念話』も送ると「余裕ができたら連絡する!蠅が来た!」とノイズまじりに返答が返って来る。………こりゃ今夜は寝れないな。


 ベットに戻り「終わったけど、問題が」とウルファインに抱き着く。

「あら、何かあったのかしら、子猫ちゃん?」

「かくかくしかじかで、多分向こうさんと戦闘中」

「あら、困ったわね。水晶蠅は刺しバエで、水晶蚊の10倍ほどの毒を注入する上に、水晶蚊のお薬は効かないのよ」

「それは参った………うちの店を守る戦力が残るか疑問だな」


「ここだけで良ければ、私の部下を貸してあげてもよくってよ?毒は効かないわ」

「マジ?凄く有難い」

「なら、朝には着くようにしましょう。10人程よ。ただ………代わりに定期的にデートしてちょうだいね?報酬はそれでよくってよ」

「もちろんだ。ありがとう」


 その後は、寝ると念話が通じなくなるのでまんじりともせず朝を迎えた。


 朝だ。まだ連絡は来ないので、そっとベッドを抜け出して朝食の準備をする。

 風呂に入る気はしないから『ウォッシュ』と『ドライ』で体を綺麗にする。

 メニューは肉食寄りのウルファインに合わせて、ハムステーキと目玉焼き、鶏がらスープ(具は鶏肉)、ロールパンにバターとジャムである。

 匂いがしてきたらしく、ウルファインが起きてきた。


「おはよう、ハニー。料理も出来るのね」

「おはよう。良かったら本格的な奴を今度ご馳走するよ」

「あら、嬉しいこと。そういえば連絡は来たの?」

「まだなんだ。いい加減来てもいい頃なんだけど。まあ今は朝食にしよう」


 8時ぐらいにウルファインの部下が来たので、ボディーガードの制服を配布し、ウルファインがこの店と従業員を守るよう指示してくれた。

「次に来る時は電話で相談しましょう。その時は1日付き合ってねハニー」

「色々ありがとう。顛末も電話かメールで報告するよ、ハニー」

 キスを交わして別れた。


 部屋に帰ったのを見計らった様に、スマホの着信メロディーが鳴る。フィアンだ。

「もしもし、フィアン。大丈夫か?」

「大丈夫ではないね。悪いがこちらに来てくれないか?詳細を話す」

「分かった。迎えは出せるのか?」

「それぐらいは大丈夫だ。1時間後に迎えをやるよ」

「分かった、準備しておく」


 電話を切って、着替えに向かう。動きやすい服にしておこう。

 パンツドレスをチョイスする。ハンサムな感じのオールインワンだ。

 袖はワイドで総レース。 色はグレイッシュブルー。靴は青いヒール。

 クラッチバッグはいつものクロコダイルをブルーに染めた。

 緊急事態のようだし、土産は持って行く方が嫌味なのでやめておいた。


 1時間後、外からクラクションが鳴ったので、部屋から出て階段を駆け下りる。

 よく送迎に利用されるフェラーリ250カリフォルニア・スパイダーが来ていた。

ベナルツァートおはようアウティスタうんてんしゅさん

ベナルツァートおはようシニョリーナおじょうさん

 俺は後部座席に滑り込む。

 何があったかは聞かずに、他愛ない話に興じているうち、目的地に着いた。


 庭園も屋敷もいつも通りだが、あちこちに魔力の波動―――つまり修復のあと―――があった。案内されたのは邸内の応接室だった。

 案内されて2~3分でフィアンがやって来て、向かいのソファに深く腰をかけた。

「裏と闇の契約組織はつぶれたよ」

「は?」


「昨日の夕方に、組織にダイヤモンドゴーレム3体と、水晶蠅が無数にやって来た。

 混乱はあったものの、ゴーレムを私が倒したのだが、水晶蠅は厄介でね。

 私と、範囲攻撃を持っている構成員が何とか全滅させたが、その後が問題だ。

 遅効性の毒だったらしく、水晶に侵されて次々構成員が倒れたんだ。

 しかも、水晶蚊の特効薬は無効だった」


「うん、昨日はそれを連絡しようとしていたんだ。あと、アンジェリーナが74大魔王を獲った事と、自分の子供を動かそうとしていることも」

「そうだったか………少し遅かったな。今日、君を呼んだ理由は3つだ。

 1つは君が治療できそうな者が多数いるので、お願いしたいという事」

「うん、それは予想してた」


「もう1つは公爵様へのつなぎを頼みたいということだ。出来れば薬を作ってもらえればありがたいのでね。頼めるかい?」

「構わないよ。俺も頼る事になるかもとは思ってたし」


「最後は、裏と闇の契約組織が壊滅した。

 なので、うちが淫魔街全体の契約組織になるということだ。

 闇と裏の74大魔王と接触するのに最初は仲介がいる。頼んでも?」

「ああ、いいよ。どれからやろうか?」


「感謝するよアルヴィー。3つ借りだな。まずは公爵様に連絡できるかい?」

「お安い御用。ちょっと待ってな」


 俺はスマホを取り出し、雷鳴をコールする。

「はい。アル?雷鳴だよ」

「悪い、雷鳴。今手を空けられるかな?」

「問題なし。どうしたんだ?緊急事態?」

「そうなんだ、実は………というわけで、ペルヴェローネファミリーの首領ドンに紹介して欲しいと言われて。迎えは―――」


 俺はフィアンを見る

「スパイダーなら転移できるから、1時間後で大丈夫だ」

「ファミリーが迎えの車を行かせると言ってる。1時間後にフェラーリ250カリフォルニア・スパイダーが行く。オープンカーで、ボディは黒、内装は赤だ」

「へえ!それは楽しみだ。待ってるよ」

「それじゃ、後で」


「来てくれるよ。先に治療を始めようか?」

 フィアンは部下に指示を飛ばしてから

「グラッツィエ、アルヴィー。ああ、大広間に集めてあるから頼む」

「了解」


 ペルヴェローネ・ファミリーの構成員は末端まで含めると1000人ほど。

 中心メンバーは400人ほどだ。その半分が大広間に寝かされていた。

 見ただけで違う………なにせ水晶が紫水晶なのだ。

 硬度も水晶のものではないし、何よりも根が深い。

 体のパーツごと取り換える必要があるな………これは。


 頭部だけは俺では治療できない。脳は俺には複製できない唯一のパーツだし、顔面は水晶で隠れてしまっているので、元が分からなくて治しようがないのだ。

 なので、まずは軽傷(それでもパーになっているが)の奴から順番に………


 20人ほど治療した(全員から感謝のハグとキスを頂いた)頃、雷鳴が到着したので、一旦場所を応接間に移す。

「や、アル。こんにちは、フィアン・メオさん」

「ボンジョルノ、ミスター。来ていただいて感謝にたえない。どうか気軽にフィアンと呼んで欲しい。これは名刺だ。連絡先はここに」

「嬉しいね。話してみたかったんだよ、フィアン。あ、これ俺の名刺」

「慎んで頂こう」

「友人になってくれるという事かな?」

「勿論だ、ミスター。いや、雷鳴でいいのかな?」

「ああ、そう呼んで貰えた方が嬉しいよ」


「ところで、性急ですまないが、頼みがあって呼んだんだが………」

「ここに来るまでが暇だったんで探っておいた。水晶蠅だね?毒った人の症状を見せてくれ。多分何とかなると思うよ」

「分かった、案内するよ。こっちだ」

 俺達は場所を大広間に移す。


「うわ………ある意味壮観だな」

 まあ、黒服の集団がこれだけいて、そこに水晶が生えてたらなあ。

「これ、要るかな?」

 さっき治療した時に出た、水晶の生えた体のパーツをつまんで差し出す。

「要る。繋がってるパーツをいじったら拡大しかねないし」

 

「………うん大丈夫だ。特効薬は作れるから、大きいテーブルと、注射器を入れる大きな箱をくれる?滅菌は自分でやるから、バスケットとかでいいよ」

「持ってこさせよう」

 届いた大きなテーブルに、雷鳴は亜空間収納(と思うが違和感が)から、よく分からない材料を取り出しテーブルの上に置く。

 それを削ったり砕いたりして調合を始めた。


 軽症者の治療をしながら待つ事しばし。

「よっし、できた。注射器にこれだけ入れて………次にこれを複製」

 そう言って無詠唱で何かの呪文を注射器にかける。

 すると、凄い勢いで注射器が増殖し始めた。

 すぐに箱が一杯になったので、新しいものが持ってこられる。


「表淫魔街1000本、裏淫魔街500本、闇淫魔街500本、ここに置いとくのに1000本ってところでいいかな?言ってくれればいつでも量産するし」

「「助かる」」

「ただここに居る人たちは戦闘員なんだろうから、できるだけアルに何とかしてもらった方がいいよ。この薬はきついから、治る代わりに2~3週間は高熱が出る」

「頼めるかな?アルヴィー?」


「ブラックリリー以外のうちの店の警備も頼みたいし、頑張るよ」

「すまないが頼む………ブラックリリーはいいのかい?」

「ウルファインが、毒が効かない手練れの部下を貸してくれたんだ」

「なるほど、水晶蚊の人型か」

「どうもそうみたいだな」


「アル、注射は脳をやられてる奴だけにする。悪いけどアルの特殊能力をラーニングしてもいいかな?手伝いたいんだけど」

「そうだなあ………まあ、雷鳴ならいいよ」

「ありがとう。じゃあ遠慮なく」


 その後はしばし、2人共無言で治療に専念した。

 直った者は、フィアンが指示して大事を取って1日休みになっていた。

 特効薬で治った奴(26人)は、強制的に熱が下がるまで療養だが。


 全員治した後は、応接間に戻って休憩だ。

「食事を用意させようと思うが、雷鳴は血の方がいいかい?」

「いや、新しい友人が出してくれるんだ『定命回帰』して、有難くいただくよ」

「それは嬉しいな。ではフルコースを用意させよう」


「ところでアルヴィー。闇と裏の74大魔王には、会談ついでに私から特効薬を渡しておくから、連絡をつけてくれるかな?その2人、仲はいいのかな?」

「大丈夫、飲み仲間だ。

 気を付ける事と言えば、見た目に反して闇の代表者のカーマの方が年上。

 実力は全現代淫魔の中でも3本の指に入ることぐらいかな。

 メッサーラは、知ってるだろうけど今代生まれで、まだ経験が浅い。

 フォローしてやるならメッサーラの方だ」


「なら、明日の11時と11時半にそれぞれ迎えに行かせると伝えてくれるか?

 同時の方が連携も取りやすいだろう?」

「74大魔王ブラックスはどうする?彼は事務方の方が特に優秀で、手勢もアスモデウス様が与えてるから、無理に来させる必要はないと思うけど」

「なら、君からよろしく言っておいてもらえるかい?」

「了解、言っとく………ところで今回の功労者たち―――特に復活した連中をねぎらう必要はあるんじゃないか?いつもの「ご招待」をしようか?」


「いい所があるか?」

「任せろ。新婚夫婦のイメージプレイの店だ。普通の店と何が違うかっていうと、きっかり2時間の間、本当に新婚だと錯覚する特殊な術がかけられるって事だ」

「面白そうだな。でも200人強居るよ?」

「別のイメージプレイだが、系列店が出てるから振り分け可能なんだ。イメージ☆はうすっていう店が展開している。聞いたことがないか」

「言われてみればあるな。種類を展開してるのか………例えば?」

「ええと、熱愛中の恋人、ロミオとジュリエット、お姫様と王子様、ご主人様とメイド、兄と妹、先生と生徒………などなどのシチュだ」

「なるほど、紙に書きだしておいてくれ。振り分けよう」


 言われて、紙に全部書き出す俺。

「その中の「先生と生徒」のシチュエーション、俺も気になる」

「え!?雷鳴もこういう店に行くのか!?」

「行ったことないよ。でも面白そうだなと。ダメかな?」

「はあ。別にダメじゃないと思うが。お忍びの貴族が来ることは多いし。興味あるんだったら、1枠取っておこうか。功労者には違いないし」

「ありがとー。初めてだけど楽しそうだ。あ、変装しないと」


 こうして1日は予想外の終わりを迎えたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る