第12話 嵐の前の………
その場がおさまったので、俺は事後処理を自分の店を破壊されて怒った様子の、ブラックス(74大魔王。俺の上司)の手勢に任せた。
雷鳴は、仕事の途中で抜け出してきたからと、自宅に帰るようだ。
あ、この人(フィアン)が会いたがっていたよ、と記憶球を渡しておく。
「車好きか。魔帝城で会えそうだね。友達になれたらいいな」
雷鳴は嬉しそうに帰って行った。
「さて、エリュール」
「ん?何?」
「分身や分体を操るのと、マネジメントは得意かな?」
「どっちもできるけど………あ、もしかして公的な身分を作ってくれるの?」
「そう。俺の本拠地、ブラックリリーはこの前マネージャーを首にしてね。
女の子のスケジュール管理、必要物の調達、衛生面での管理。
あとややこしい客をあしらうのも仕事のうちだ」
「基本分体や分身にやらせて、大事な時は本体が出ればいいんだね?」
「そう。本体は俺の護衛とか、秘書みたいな役割とかをやってもらう」
「うん、やるよ」
「じゃあ、制服と居住部屋を選ぶから、ブラックリリーに帰ろう」
♦♦♦
「じゃあこのグレイのストライプのスーツで良いか?」
「うん、俺、髪も目も肌も薄い色だから、黒よりそれがいいな」
「サイズは勝手にぴったり合うやつな。3着あれば十分なはずだ。もっと必要な場合は、ブランドに注文出すから言ってくれ。ポケットに黒いハンカチを忘れずに」
「さすが高級店だね。何もかも準備してある」
「俺がそういうの細かいからな。じゃあ部屋を選ぼう」
「ロフトがついてる部屋とかない?開放的な部屋がいい」
「あるよ。1Fが書斎と応接間で、大きな窓。ロフトがベッドルームになる。風呂は折角の温泉なんで、広いよ。キッチンもある。家具はこのカタログから選んでくれ」
「それ、くれるの?」「エリュール用だよ」「明るめが好みなんだよね………」
「こんなもんかな。足りなければ追加したいんだけど」
「カタログは個人個人に配布してあるから、それで。給料から天引きな」
「そう言えば聞いてなかったね、お給料っていくらなの?」
「マネージャーは金貨200枚(200万円)ボーナスあり」
「さすが高級店だね。結構もらえるんだ?」
「本職の方が稼げるだろう?」
「それはそうだけど、任務で働くのと表の仕事は気分が違うよ」
「はい、これ身分書。自然発生型悪魔って事にしてあるから、今から魔帝庁に行っておいで?フラフラしてた所、俺に見込まれて仕事を仕込まれたとか言えばいい」
「やったね、これで表を普通に出歩ける。行ってきます!」
エリュールを送り出して、準備にかかる。何の?バザーのだ。
俺の仕事はいつ空くかがなかなか分からないため、開催はいつも突然だ。
今回の開催は明後日、本当は明日にしたいぐらいなのだが。
扱うのは服飾品(アクセサリーや、身の回り小物、バッグなどを含む)
出店する可能性のある者全員に一斉メールする。返事はアルヴィーまで、っと。
取った場所は表淫魔街の中の広場だ。
よくイベントが開催される広場で、普段は自由に弾いていいなピアノが置いてあり「ピアノ広場」の呼び名で親しまれている。
よくバンドが演奏しているので、原石発掘も俺の趣味だ。
カーマ、メッサーラにはメールで直接お知らせ。
他の友人?出店者も客も女ばっかりなので、男は要らないのである。
次にちゃちゃっと看板とビラを制作。ビラはティッシュつき。
店のボーイは動かせないので、自分の分身を10体制作して配布を任せる。
エリュールがいれば、やってもらうのだが、多分まだ登録中であろう。
少しすると、次々に女の子から参加すると返事が返って来た。
慣れているので、ハンガーとハンガーラックの貸し出しの要望も多い。
もちろん買う側で、との返事もあるがそれもまた良し。
丁度いい所でエリュールが帰って来て、ニコニコしながら身分証を見せてくれた。
「へえ、向こうからは作るかどうか聞かれなかっただろ?知ってたのか?」
「勿論知ってたよ。身分を作る時は作るって決めてたんだ。同族喰いだと知っても、役人は嫌な顔をしなかったよ。綺麗な女性だったな」
「それはサイレンさんだな。女性の書記官はあの人だけだ」
「サイレンさんっていうんだね。覚えておくよ」
「ねえ、ところでアル、お願いがあるんだけど」
「うん?何?」
「初めて実家―――組織から離れて寝るんだ。添い寝して欲しいな」
そうだ、ませていてもこの子は未成年だったっけ。
「いいよ。俺の部屋においで。男だから本当に添い寝だけだけど」
「ちょっと!変な事は考えてないよ!あ………でも」
「どうした?」
「一緒にお風呂に入って欲しいな」
「いいよ、泡風呂にしようか」
「!楽しそうだね、それ」
さて、その前に夕食だ。普通は出前だが、今日は手料理を振る舞う事にした。
素材は闇淫魔領から仕入れた悪魔の肉だ。
変なもの(釘とか精子とか)がついていない個所という事で、今回は腕と足である。
悪魔のシチュー・赤ワイン風味とロースト悪魔の出来上がり!
「アルは、料理上手いんだね。素材が悪魔だから、僕にもわかるよ!」
「やっぱり普通の素材とは全然違うのか?」
「匂いの時点で違う。本能的なものじゃないかな。アルも食べるでしょ?」
「自分の腕を信じて食べる事にするよ」
悪魔の味は個体差がありそうだけど、こいつの味はビーフに近いな。
その後風呂で、石鹸ローションでツルツル滑りながら体を洗いっこして遊んだ。
大容器1つ空にして、床を滑って遊んだりしてはっちゃけたのである。
ウケたようで何よりだ。
風呂は泡風呂。もちろん、泡モンスターになって遊んだりした。
もちろん「温まっておけ」と湯船にも漬けたが。
このへん、娘を育てた時の癖がまだ残っている。ううむ。
就寝は、要望通り添い寝だ。胸元に抱き寄せて抱き枕にして寝た。
本人からは「ドキドキして寝られなかったよ!」と苦情?をもらった。
だが「胸が柔らかくて気持ち良かった」と笑っていたので大丈夫だろう。
エリュールは分かりやすくて可愛いな。
というかアルテーロには胸の豊かな女性はいないのだろうか?
フィアンは、エリュールはメンバーの細胞から作ったと言っていた。
ならメンバーに1人ぐらいはそういう女性がいそうなものなのだが………本人に聞いてみた。すると「女性はいるけど胸はない」とのこと。納得。
ちなみに女性とははベイビィ・フェイスのことらしい。確かに彼女はぺったんだ。
「ところで、ドレスのバザーをやるんだよね?メローネも呼んでいい?」
「?誰のことだ?」
「あ。ベイビィ・フェイスの本名だよ」
「なるほど、一向にかまわないが」
「じゃあメールを………あ、結構人ごみ?」
「うん、人気だからな。ドレスってある程度以上の淫魔にとっては必需品だから」
「ならそれも入れて、と。送信!」
「メローネさんって人ごみが苦手なのか?」
「誰かに触られるのが大嫌いなんだよ」
「え?画面越しだと淫魔に見えたが違ったか?」
「違わないよ。闇淫魔なのにそれだから裏の住人になったんだってさ」
「納得………」
そんなお喋りをしながらも、明日のバザーの準備を進めていく。
ハンガーラックに色分け・丈分けしたドレスをセット。
POPに「全てサイズ変化する品です」と明記する。だからサイズ分けはない。
バッグ、アクセサリーもある程度出品するものに入れつつ準備を完了した。
全部まとめて亜空間収納へ放り込んでおく。
あとの時間は、マネージャーの仕事をエリュールに指導する。
仕事を覚えたら臨時集会をして、エリュールを女の子やボーイに認知させたり。
ちなみにエリュールは、かわいい、と女の子達に大人気だった。
エリュールを仕事に就かせたあとは、他の店も含め女の子たちの相談に乗ったり。
と、忙しいが俺にとっての日常が過ぎて行った。
♦♦♦
バザー当日は、いつものごとく客の相手でてんてこ舞いだった。
おかげで彼女が近寄って来るのを見逃してしまった。
「盛況ね、ハニー?」
「ウルファイン!来てくれたのか。今日も綺麗だね」
蟲魔領のモスキート蟲魔、ウルファイン。相変わらずのシャープな美人だった。
「あら、ありがとう。あなたに用があるのだけど、ここだと聞いて………この後時間はあるかしら?あなたにとっても大切な用だと思うわよ」
「用がなくたって時間なら空けるさハニー。魔帝城での時間を忘れたりしないとも」
「本当に忘れないでいた?」
「誓って忘れてなんていないとも」
悪魔の誓いは破ってたら死ぬ、が、本当にウルファインはタチの女性としては俺の好みぴったりなのだ。自然と日常で思い出していた。
「誓いの使いどころを心得ているのねハニー。信じるわ。私も貴女を忘れた事はなくってよ。だったらバザーの終わりまで待つわ………ところでこのブルーのロングドレス、素敵ね。1度2度着ただけで売りに出すなんてもったいないこと」
「暇なら手伝ってくれないか?給料の代わりに好きな服を持って行っていいよ」
「あら、魅力的だわ。社会体験のつもりでやってみようかしら」
ウルファインはかなりのお嬢様だ。初体験だろうな。
「じゃあ「手伝い」の腕章をつけてくれ(その間に、衣装代は俺持ちなので融通するように皆に念話して、っと)念話で全員に通達しておいたから」
「わかったわ。主にあなたを手伝うわね、一番忙しそうだもの」
ウルファインはその後、皆の店を回って、ブラックリリーのフィーフス(黒人系の淫魔。カッコいい系)と仲良くなったらしく、結局そこを主に手伝っていた。
お互いの服を交換する約束などもしていたようだ。
♦♦♦
バザーは盛況のうちに終了した。俺の店は完売である。
皆に貸し出した道具を亜空間収納に回収していき、さっさと片づけを済ませた。
エリュールには何かあれば念話する、と約束した。
俺はウルファインとのデートに備える。
移動フィッティングルームの中で、髪と目の色を戻し、ダークブルーで長袖だがマイクロミニのドレスに袖を通す。
「あら、とても魅力的になったわ、アル。何故いつもは染めているの?」
「親と一緒は嫌なんだ。深くは突っ込まないでくれたら嬉しい」
「あなたが嫌なら、詮索しないわ。それよりもどこかに食べに行きましょう」
「そうだね、いいステーキハウスがあるからそこに行こう」
「血の滴るレアでね」
その後はもちろん、ブラックリリーの俺の自室にご案内だ。
しばし、貪るように愛の交歓を交わした後、彼女から出たのは大変な事実だった。
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