第11話 超高能力者への道

 朝6時、目が覚める。自室のベッドの上だ。

 俺が身じろぎすると、和正が目を覚ました。

「おはよう、ダーリン。汗臭いから、俺シャワー浴びる。………そのあと朝ごはんの用意をするから、和正は風呂にでも入るといい」

「俺もシャワーでいい」

「じゃあ、洗ってあげようか?」

「その気になるぞ?」

「困ったな、今日は忙しいから」

「ならやめとけ」


 仕方ないので、普通にシャワーを浴びる。

 俺の部屋の風呂にはシャワーは二つあるから、待ち時間はない。

 一緒に風呂場を出ると、俺はTバックとエプロンだけ身につけて、キッチンへ。

 朝なので作るものは簡単だ。ベーコンエッグと目玉焼き、トースト。

 それとカリカリに焼いたベーコンを乗せたシーザーサラダ。


 煙草は新しく封を切ったものを置いてきた。灰皿も綺麗にしてある。

 和正は新聞を読んでいるようだ。一体どこから出てきたのかは分からないが。

「おまたせー」

 朝食を机に置くと、和正は健啖家ぶりを発揮した。全部食べて貰えて嬉しい。


 俺はいつもの仕事着を身につける。

 別のテーブルを出してパソコンを取り出すと、和正が立ち上がった。

「帰るのか?」

「ああ」

「………寂しい」

 そういうと和正は俺の唇に濃厚なキスを落としてくる。

 これで我慢しろと言いたいのかな?


「また来る」

「待ってる。あんたなら決闘の最中でも相手を放り出してそっちに行くよ」

 頭をくしゃっと撫でられた、くすぐったい。

「じゃあな」

「うん」

 和正はドアから出て行った。出た瞬間『テレポート』したのは想像に難くない。

 俺は朝食後の食器に『ウォッシュ』をかけ、念動を駆使して食器棚にしまった。


 出した簡易テーブルを「亜空間収納」に放りこんで、俺はソファに座る。

 ノートパソコンを起動。

 検索画面に「24α59Ω73β19」と入れ、出てきた黒いカーテンの画面に「誇り高い」と入力。しばし待つ。

「はぁい♡ベイビィ・フェイスでっす☆」

「お早うございます、特効薬はできそうですか?」

「もち!完成済みよん」そう言って紫色の液体で満たされた小瓶を振る。


「どれぐらい欲しい?」

「余裕を見て2000人分」

「OK。ブラッドドラゴン!」

「こんにちはタータおねえちゃんまた会えたね」

「うん、また会えたな」

「すぐに増やすから待ってて」

 

 そう言ってブラッドドラゴンは小瓶の中身を一気にあおる。

 差し出されたコンテナに、手のひらから封入済みの注射器が凄い勢いで出てきた。

 どうなってるんだろうか、この子の体。

「………っし、2000本だよ」

「どうぞ~♪」


 パソコンから大きさを無視して―――というか画面を通るとこだけ縮む―――コンテナがにゅっと出てくる。俺は慌てて受け止めた。

「ありがとう、2人共。これほんの御礼な」

 ベイビィ・フェイスにはカルヴァドス ポム・ド・イブという変わり種のブランデー。リンゴがボトルの中に丸ごと入っているブランデーで、実がまだ小さいときにビンを1つ1つに取り付け、果実が大きく育ったあとにカルヴァドスを加えるこだわりの製法の製品だ。マイルドでフルーティな味わいが楽しめる。

「前回に続いてグラ~ッツィエ!」


 ブラッドドラゴンには魂(封印具に入れてある)つきの悪魔(男)

 闇淫魔領からかっぱらってきたのである。

タータおねえちゃんこれ………!いいのっ!?」

「うん?もちろん。好物なんだよな?」

「そうだけど、まさか貰えるなんて思わなかった。ありがとう!」

「いいっていいって。じゃあ、おれはこれを各所に配りに行くから」

「ありがとうございました♡」

「またね!」

 通信は終了した。予想以上に喜んでもらえて良かった。

 え?同族喰が怖くないのか?もっと怖い奴はどこにでもいるさ。


 俺はコンテナの中身を10本づつに束ねて、クラッチバックに全部収納した。

 シェルと金で出来た固定電話に手を伸ばし、×××-××××とダイヤル。

Halloもしもしペルヴェローネ」

「表淫魔街のアルヴィーだ」

「!ボスにおつなぎします!」


Halloもしもしフィアンだ」

「例のブツを受け取った」

「2時間後に迎えに行く」

「OK」

Appoあとで

 電話は切れた


 確かフィアンはチーズも好きなはず。

 いつもと目先を変えて「ドンキーチーズ」でも持って行こうか。

 ちなみに「ドンキー」とはロバの意味だ。

 ロバのミルクからつくられるチーズで、塩気が強くチーズ特有の香りをもつ。

 世界最高級と呼ばれているのは、ロバの乳が少量しか採れないためだ。

 ロバは、1日わずか2デシリットルしか搾乳できないらしい。


 次、着ていくドレス。肌の色を青に戻すので、着られる色が限られる。

 黒系・青系かな?赤を着た事もあったっけ。


 選んだのはネイビーのぴったりしたドレススーツ。

 ウエストの細いベルトで無地の上半身部分と、全面刺繍のスカートが分けられており、上着はボタンは無く端の部分が全部刺繍だ。

 ちなみにベルトは上着の上からつける。

 かっちりしているように見えて、胸の谷間は強調されている。


 クラッチバックはそのまま、黒のクロコダイルで。

 靴はネイビーのハイヒールだ。


 外からクラクションの音が聞こえたので、窓からのぞいてみると。

 デ・トマソのパンテーラ(イタリア車)が止まっていた。スポーツカーである。

 ビックブロックのフォード製V8をイタリアンスーツに包んだクルマで、見事なデザインであり、製造は1990年代まで続けられたという。

 このパンテーラは漆黒のボディに、赤い内装が綺麗だった。

 で、スポーツカーということは………


 運転席からフィアンが出て来て、窓からのぞいている俺と視線が合った。

「やあ、今日も綺麗だねシニョリーナおじょうさん

「グラッツィエ。すぐに下りるよ」


「ボンジョルノ、フィアン」

「ボンジョルノ、アルヴィ」

「いい車だな、フィアン」

「お気に入りだから、たまには飛ばしたくてね。さあ、乗って」

 エスコートされて助手席へ。

「行こうか」

 V8エンジンの重低音と震動がたまらない。

 車は郊外への街道を真っ直ぐ突っ走っていった。


 今日は物が物だけに、ガーデンパーティーではなく応接間へ通された。

「重要な事はさっさとすまそう。1000本渡しておくから俺の直営店も含めてすべての店に頼む。裏と闇は管理の74大魔王に俺からこの後渡しに行く」

 そう言って、クラッチバックから1000本の注射器を取り出した。


「君が詰めたのかい?」

「まさか。ブラッドドラゴンが詰めた状態で渡してくれたんだ」

「そこまでサービスするとは珍しい」

「そうなのか?」

「難しい年頃でね。とにかく、確かに受け取った」

 フィアンはそう言って、バトラーに注射器をスライドし

「仕事にかからせろ」と言った。


「昼食は食べていくだろう?」

「ああ、いただくよ」

 ただしイタリア人の食事は長い。

 早めに出てきたから昼には終わるだろうが、食後酒までに3時間はかかる。

 ただフィアンは話し上手なので、退屈に感じる事は無かった。


♦♦♦


「そろそろ行くよ。車は自分のを使う」

 出口に向かいながらそう言うと

「モーリス・ミニだったかな?」

「いや、最近の気に入りはフィアット・パンダ4×4の改造車なんだ」

「ほう?」


 出口で「亜空間収納」からパンダを取り出すと、フィアンは目を丸くして。

「いいね、ワイルドなのに小さいからかわいい」

「シュトルム公爵様の作品を貰ったんだ」

「ほう………一度話してみたいな」

「きっと喜ぶよ。じゃあ、またな」


♦♦♦


 裏淫魔街に向けて車を飛ばしていると、境界線上の広場で、大人数に囲まれた。

 何人か跳ね飛ばしたが、向こうはそんなことは意に介さないらしい。

 皆体のどこかが水晶化している連中だった。

 そして、水晶?でできた巨人が1体。屋根よりデカい。

 覚悟を決めて車から降り、戦闘を始める。


 何だコイツら!ほとんどゾンビかってぐらい耐久力が高い。

 水晶に操られているのだとすると納得だが。

 クラッチバックがはねとばされた、まずい!

 頭上から巨人の一撃が降ってくる。思わず目を閉じた。


タータおねえちゃん!」

 聞き覚えのある声と共に、俺は腰を抱かれて巨人の一撃から逃れ、空にいた。

「バックが!」

「大丈夫だ、拾ったよ。壊れてるけど」

「え?公爵さ………雷鳴!それにブラッドドラゴン!」

 混乱する俺。


「いや、助けようと思ったんだけど、その子の方が早かったからバッグをサルベージしてみた。見事に壊れてるけど」

「どうしよう、注射器をしまったのはそのクラッチバックなのに」

「安心してくれ、俺が直せる」

「え?亜空間なんて星の数ほどあると思うんだけど?接続切れてるだろう?」

「大丈夫、修復するから、それよりその子にお礼言いなよ」


「あっ、ブラッドドラゴン。助けてくれてありがとう」

「遅いよ、もう。それとエリュールだよ」

「?」

「僕の名前。エリュール」

「………ありがとう、エリュール。俺のこともアルと呼んでくれ」


「うん。ねえ、アル。僕を雇わない?」

「え?」

「今なら公的身分と、時々の美味しい食事で働くよ」

「………本来ならもっとするだろうに。いいのか?」

「俺はアルが気にいったの」

「………わかった。願ってもない」

「よし、じゃああれを片付けてくるから、アルは公爵と一緒にいて」

 そう言ってエリュールは下降していった。


 俺は飛んで雷鳴の横まで行く

「そうそう、隣にいてよ。守りやすいから」

「そのクラッチバック………直りますか?」

「時魔法も空間魔法も得意分野だよ………ほら直った」

 俺は目を丸くする。この世界に亜空間がどれだけあると思ってるんだ。

 恐る恐る手を突っ込んだが―――


「直ってる」

「もち。それより、そこに大事なものを入れる事が多いなら自分自身にも空間を紐つけしておいた方がいいよ。でないと壊れただけなら治せるけど、消滅させられたら打つ手がないからね。」


「どうやればいいんだ?」

 雷鳴は俺の後ろに回って腕を取った。

「クラッチバックに手を入れて」

 素直にその通りにする。

「俺が今から魔力を流すから、その通りに模倣してみて………そう、うまいよ」

 手が空間を記憶するのが分かる。

 恐る恐るアクセスするとクラッチバックの中の空間だった。


「ありがとう、雷鳴」

「大したことしてない。もうどんな空間でも同じことができるはずだよ」

「コツは掴んだよ」

「よかった。ならあっちを見てくれ」


 エリュールは、水晶人間を完全に圧倒していた。

 殺さずに無力化しているらしく、1人、また一人と行動できなくなっていく。

「今のうちに特効薬を打ってしまおう」

「それがいいよ。でも、あの巨人はちょっと厄介だな。水晶じゃない。あれはダイヤモンドだ。しかもブレスで対象を汚染できるみたいで………あの店なんか完全にダイヤモンド化してる。多分中の人も」


「あれは………ブラックスの店だ。表・裏・闇のまとめ役の」

「つまりは、狙いは淫魔街全体。メイン標的はまとめ役って事かな」

「ダイヤモンド化は、解くことができるか?」

「まあ俺本人がいればね。テレポートで間違えて壁の中に出た人を救出するのと変わらない。一回原子分解して、組み直す」

「俺はそんな離れ業使えません」

「ダメダメ、マスターしてもらうよ」


 雷鳴は俺の手を掴んでダイヤモンド化した店へ向ける。

 俺はそのまま実地で、原子分解と抽出、再集結をやる事になった。

 ………なんだ、やろうと思えばできるんじゃないか、俺。

「もうできるようになったよね?」

「できるね………マジありがとう。不可能なんてないんだな」


「あ、水晶人間がいなくなった」

 慌てて『念動』で、まだ打ってない奴に注射をする俺。

「決戦に入ったね、核は頭だな。撃ってみたら?」

「俺の銃はそんなに威力ないよ?」

「どんなものでも切り裂く「キリサキ」の能力を持ってるでしょ?」

「あるけど………?」

「銃弾に付与してみれば?」

「雷鳴が言うと簡単に聞こえるな」

「そんなに難しくないと思うし、何より遠距離戦ができるようになるよ」

「魅力的だな………やってみる」


 俺の銃は、ほとんど威嚇で持ってるだけだ。

 だが選んだのは和正なので、威力は高いはずだった。

 

 FNファイブセブン。ライフル弾を小型化したような新型の弾を使う銃。

 マガジンが1つしかなかったので、コピーして増やしておいてから装填する。

 何と装填数は20発。

 現行ハンドガンの中で最多で、しかも強力な弾丸をたくさん撃つ事ができる。

 ………こうして並べてみると、和正は真剣に選んでくれたんだな。

 飾りにしてたことを謝らないといけない。


「切り裂きの弾丸(になってるはず!)いけ!」

 キイィンと―――ドンドンでなく―――空気を切り裂いて飛ぶ弾丸。

 3発放った。………ダイヤモンドの巨人の頭を貫通した。

 いや、確かにナイフなら切り裂けるのは分かってた。

 けど、弾丸に付与するとこうなるとは。

 俺は自分でやっておいて呆気にとられる。

 ―――俺に強力な遠距離攻撃手段ができた瞬間だった。


 残った体をエリュールが影の竜で食って粉々にする。

 あとは店の中の悪魔達をさっき覚えた『原子分解』『抽出』『再構成』で助け出すだけだった。死人はゼロ。エリュールが

「さっきの弾丸、なんなのさ!?」と聞いてきた。

 説明すると「アルは絶対、超高能力者になるよ」と呆れたように言われた。

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