第10話 愛しのダーリン
朝5時。
最近は忙しくて睡眠不足だ。
昨日はメッサーラとカーマ、フィアンの所に行き、その後「ご招待」でコンピューターガールにも行って、店長から色々相談を受けた。
その後俺の直営の店―――10店ほどだ―――を回り美容整形したり、女の子の悩みを聞いたり、厄介な客の相手をしたりして帰ってきたら0時。
俺が丈夫だからいいものの、並の淫魔ならへばっている所である。
だが俺は元気だ。
一人で風呂に入るのは味気ない。俺の部屋の風呂は大浴場なのだから。
なので、ブラックリリーに勤務する「さっきゅん」のひとり、玲奈を叩き起こす。
眠そうだったが、時間手当と出張手当、特別手当を出すと言うとしゃきっとした。
時間手当と出張手当は店の規定通りで、特別手当は女の子へのチップにあたる。
今回の場合、チップが一番高いのはご愛敬であろう。
20分ほどで、玲奈はやって来た。
オリエンタルで、背中までの黒髪、大きな黒い瞳、16~17歳の見た目。
控えめだが可愛い。オリエンタルは年齢が分かりにくいな。
可愛い黒のベビードルを着てきている。
「玲奈、風呂に入るから背中を流してくれ」
「かしこまりでーす。リュアンヌから聞いていますよ。店長とお風呂に入ると美容整形の料金なしで得するって!私も気になってる部分をいじってもらっても?」
「風呂に入りながらで良ければやってやる」
「やったあ☆」
俺は風呂に、足を伸ばして座り、その上に玲奈を座らせる。
「店長、胸大きーい。柔らかいです。お客さんの気分が分かるかも」
「お前も結構あるじゃないか?」
胸を揉むついでに、乳首をベビーピンクに変えてやる。玲奈はその方が似合う。
「あ………気持ちいいからもっと」
「今日はダメだ、でも落ち着いて一番に呼ぶのはお前に決めといてやる」
「嬉しいです。店長………胸もうちょっと大きく出来ませんか?」
「ワンサイズだけな。お前は巨乳キャラは似合わない。控えめで可愛いのがいい」
「そうですか?………あ、ブラジャーを買い直さないと」
「「You Love Me」限定だが、後でプリペイドカードをやるよ。金貨100枚分な」
「店長、優しいー!店長のデザインだって、今人気なんですよ!」
「ほう、それは嬉しいな」
いくつか、気になっているという部分を綺麗にしてやって、シャワーへ。
これに関してはプロである玲奈にお任せである。
全身で洗ってくれて、柔らかくて気持ちいい。特に玲奈は肌質が滑らかだ。
ベールゼブブ領の多肉植物を原料とした「ローション石鹸」は大変気持ちがいい。
表淫魔街の総力を挙げて栽培している植物だ。名前はアニキュという。
お返しに洗ってやることにする。すでに双方泡まみれだしな。
「店長、凄い上手!その気になりそう………」
「そりゃあ俺も修練は積んでるからな。今でもプロの技術は保ってるぞ」
「プロっていうか、プロ超えてますよ?高能力者って凄い………」
♦♦♦
玲奈を帰し―――思ったよりいい感じの娘だったのでチップははずんだ―――いつものブラウンの仕事着に着替える。
俺の能力で治せる、水晶の被害者を治療するためだ。
メッサーラは、8時にり患者を集めておくと言っていた。カーマは12時。
どこに集めたのか分からないため、2人に電話して聞いてみる。
すると2人共、歴代魔帝とその正妻を祀った建物―――一般的には神殿と呼ばれる場所―――に患者を集めているという事だった。
まあ無難な選択だ。広場とか言われなくてマジで良かった。
あそこの広場はアレだからなあ………
防御力が高いうえカッコカワイイ、フィアットパンダ
主に雷鳴の改造によるところが大きい。
スタンダードな奴も気になってパソコンで検索してみたが好みではなかったのだ。
登城にはピンクのモーリス・ミニを使っているが、雷鳴がキャデラックエルドラド―――ピンク・キャデラック―――をくれるというので楽しみにしている。
だが仕事にはパンダがぴったりだ。今日もそれで出かける。
♦♦♦
裏淫魔街の教会に来た。もちろんメッサーラも来ている。
「よお、アル、来たな。ここには患者と、付き添いがいる。
患者自身の意識は無いからな、車椅子か『念動』で移動だ。
ここまで来れたのは付き添いが見つかった奴でかつ重症な奴だけだ。
処置の順番だが番号札を持たせてある。17名だ」
「サンキュー、メッサーラ。じゃあ一番奥に処置用のベッドを出すから、お前が指示して順番通り来させてくれるか?」
メッサーラのOKを貰って、奥の祭壇の前にビジネスバッグ型の「亜空間収納」から手術台を取り出す。照明も一緒に出した。
水晶は全部取り除かないといけないので、明るい方がいいのだ。
「1番の奴、診察台へ!」
メッサーラの号令に合わせて、患者が列を作る。
しばし、医者の真似事をした。
「これでおしまいだな、メッサーラ?」
「ああ、他は特効薬を期待してる」
「明日、手に入ったら連絡するから取りに来てくれ」
「分かった、人を寄越す」
「しかし、また刺される可能性があるのが嫌な所だな」
「アルお前、そういう研究も得意じゃなかったか?」
「さすがにこの短期間には開発できないよ。特効薬の制作者に頼るかな………」
「誰なんだ?可愛い後輩に教えろよ。興味があるな」
メッサーラは今代生まれ、俺は先代生まれだ。
「確かに後輩だ………シュトルム公爵様だよ。俺は雷鳴と呼べる仲だ」
「はあ!?おい、本気でびっくりしたんだが!?」
「俺がお前でも同じことを言ったと思う」
♦♦♦
時間が迫って来たので、お喋りを切り上げて闇淫魔街の教会へ。
カーマには、順番に並ばせておいてくれと言ってある。
………ここの協会は、供物がグロテスクでいけないな。
まあ俺も悪魔なので、呆れる程度ではあるが。
「アル」
「カーマ、順番に並べといてくれたか?」
「並べておいた」
「ありがとな」
そう言って軽くキス、のつもりがカーマに引き寄せられてディープキスになった。
「今度、デートして。借りができたから費用は私が持つ。SEXもノーマルでいい」
「いいのか?俺はそれで借りを返してくれても全然構わないんだが」
「いいよ」
「そうか、じゃあ時間を作って連絡するな。今はここを片付けよう」
「人数は10人」
「少ないな」
「みんなあまり大事ととらえてないから」
さっきと同じようににわか医師になる俺。
処置はサクサク進んだ。
裸体でいる事の多い闇淫魔街だからか、複数人の男が逸物に被害を受けていた。
なるほど、それで付き添いがついてくれるほど心配されたのか。
表も裏も闇もそれが必須なのは変わらないからな。
ちなみに1件だけだったが、女性の局部も被害を受けていた。
「カーマ、これでいいかな?」
「アルは凄いね。特効薬も貰うのに、借り、返しきれるかな」
「そんなに気にしてくれるなら、1つ頼みがある」
「なに?」
「普段、戦闘訓練は、レヴィアタン領の深海にある高能力者用ジムに通ってるんだけど、カーマさえ良ければ戦闘訓練の相手になってくれないか?強いだろう?」
「確かに私は強い。一緒にジムに行けばいい?」
「うん、それで対戦相手になってくれ」
「いいよ、何か目標はあるの?」
「和正の仕事について行けるようになりたいんだ」
「それは大変。ジム、早めに行こう。実力、計るから」
「頼む」
♦♦♦
カーマとデートと訓練の約束をした俺は、ブラックリリーに帰ってきた。
(店長、和正さん来てますよ)ボーイに囁かれる。ナイス。チップは金貨10枚だ。
すぐに会いに行きたいのをぐっと我慢して、先にこういう時のために部屋とは別に設置してあるクローゼットに入る。
ドレスと全身鏡はもちろんのこと、化粧品完備の鏡台の置いてある部屋だ。
はやる心を押さえて、ドレスを選ぶ。
これにしよう。思い切りセクシー系だ。
カラーはブラック、胸元がこれでもかというほど空いている。
巨乳でないと似合わない服だな。
胸元の生地は銀糸とラインストーンで出来た紐が、チョーカーにつながっていることで辛うじてめくれていない。ボディも俺の体形にぴったりだ。
靴は無難に黒いエナメルのハイヒール。
髪は解き流したものを、コテでゆるく巻いておく。やりすぎ注意。
息を深く吸い込んで、部屋の扉を開ける。
………和正の吸う煙草の銘柄「スカイホーク14mg」は少量ながら魔除けの成分が入っている。それを部屋で、視界が白くなるまで吸われると―――ダメージが。
俺は和正に挨拶するより先に専用の巨大換気扇を作動させた。
和正が俺の方を憮然とした表情で見てくる、がこれはどうしようもないのだ。
「和正っ!」
俺は改めて和正に抱き着く。煙草が間近にくるがそれはもうしょうがない。
和正の腕が俺のウエストに回され、膝の上でお姫様抱っこされる。
俺は和正にすり寄り、首に腕を回した。
「和正、酒は?」
「要る」
和正の好きな酒はウィスキーだ。
俺は最初に酒はウィスキーがいいと聞いて、バーボン「IWハーパー 12年物」を出して気に入ってもらった。
銘柄は毎回違うのが良いか聞くと「同じがいい」との事だった。
だから今日もそれを出すために膝から下りる。買いだめしてあるのだ。
下りると少し残念そうにしているのが、また女心をくすぐった。
酒を出したのだから、ツマミは必須である。
大きな生ハムのスライスを、目の前で塊から削り出して皿に盛る。
後は定番のナッツ類。
「腹は減ってる?それとも外に連れてってくれる?」
「外?用事があるのか?」
「ドレスを買い足しに行くから、付き合ってほしいな」
「分かった」
「いいのか?やった!何着かはあんた専用だ。着て欲しいのを選んでくれ」
「………分かった」
やった、デートだ。
とりあえずは、和正が酒を飲み終わるまで、寄り添って待つことにした。
もちろん煙草が切れたら、即座にストックを取り出して渡し、火をつける。
後は他愛のない会話だ。自然と話題は水晶蚊のことになる。
「でさ、水晶蚊の治療をしてたら、逸物を刺されたのが3人いてな。治療中に気の毒やらおかしいやらで、手が震えて危なかったんだよ」
「………そんなに露出するものか?」
「闇淫魔街では服着てる奴の方が少ないな」
「行きたくないな」
「あんたをカモにする命知らずはいないと思うけど?あんたは有名人なんだから」
「そういう意味じゃない。通りたくないと言ってるんだ」
俺はクスッと笑って「確かに似合わない」と言った。
「そろそろ出るか」
「うん」
「その恰好で出る気か?」
「?なんかおかしいか?淫魔街では普通だと思うけど」
和正は俺を引き寄せて、耳元で囁く。
「今日は俺のものだ」
俺は多分、真っ赤になっていただろう。慌てて黒のトレンチコートを羽織る。
和正が言うと、俺には破壊力抜群なのだ。
2人、子供がいても。気分はずっと恋人のままなのであった。
♦♦♦
その後は俺が贔屓にしているドレス専門店へ。
和正に選んで貰ったドレスは別包装にしてもらう。
これはさっき使った和正専用のクローゼットに入れるのだ。
他のは、似合わないと言われない限りどんどん買う。50~60着ぐらいか。
これは魔帝城か、フィアンの所に行くのに使う。
中世のドレスで着飾るご婦人方も多いが、俺は現代的なものが好きだ。
ちなみに1回着たら2度と着ない。クローゼットに着ないのが100着近くある。
そろそろブラックリリーの娘達に、激安バザーでもしてやるかな?
お気に入りやオーダーメイドはインターバルを置いてまた使うとして。
いいブランドのものなので、体型に合わせて変化するドレスだしな。
自分で払うつもりだったが、和正が出してくれたので頬にキスを一つ。
次は食事だ。高級ステーキハウス「モスト」に入る。
身分からすると控えめなのだがここは下手な最高級店よりも美味い穴場なのだ。
和正がロース、俺はヒレ。太らない体質だが、脂質よりたんぱく質が欲しい。
「和正、今度また銃の稽古をつけてくれ」
「………まぁ、いいだろう。筋は悪くない」
「遠距離戦が苦手だと、また助けて貰う事になるからな。あ、あの時はありがとな」
「どの話だ?」
「え?俺が気付いてないのがまだあるのか?」
「………さあな」言って珍しく少し笑う。
「むーっ。言わない気だろう?」
「自分で気付くんだな」
「分かったよ。気付いてないかもしれないのも含めて、ありがと」
「………そうか」
その後いいムードのまま、俺達は店を出、ブラックリリーに帰った。
その後は………言わなくても分かるよな?
俺たちは大人の時間を楽しんだ―――
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