クリスタルダスト~迫りくる脅威

第6話 小さな花園 1

 いつもの飲み会メンバーを連れ、俺達は裏道を歩いていた。

 このメンバーで大通りを通ると、噂が広がって逆に込み合うようになるからだ。

 異界の魔王ベルゼーヴァ、魔帝陛下の筆頭愛人エルネスト、紅龍ホンロン様の重臣・女郎花おみなえし、紅龍様の筆頭研究者フラッシュ、闇淫魔街の74大魔王カーマ、裏淫魔街の74大魔王メッサーラ、そのお付きメッシーナ。

 身分の順に挙げる。かなり豪華なメンバーである。


 今日は彼らを(いつものように)いいお店に案内しているところだ。

 飲み会自体はもう済んでいるので、みんな大なり小なり酔っている。

 ついでにモニターを頼んだ下着のアンケートも取った。おおむね好評だ。


 今日行くお店は「小さな花園」といい、フェアリーとピクシーのお店だ。

「なあなあ、アルぅ」

 エルネスト(親友)が、俺の肩に腕を回してくる。酔ってるな。

「フェアリーとピクシーってどう違うんだ?」

「あー。少なくとも魔界ではフェアリーがトンボ系の羽、ピクシーが蝶々の羽だな」


「そうなのか?で、どうやってすればいいんだ?」

「普通にできるとか夢でも思うなよ?オナホじゃねえんだぞ?」

「じゃあどうすればいいんだよ?」

「全身でご奉仕してくれるんだよ。ローション石鹸体中に塗って、アレやアソコにスリスリと。小粒な刺激バストが意外と柔らかくてな」

「なるほどなー」


 話してるうちに「小さな花園」に着いた。店長が出迎えてくれる。

 なんでもこの恒例の訪問、来ると客が増えると業界に噂が広まっているらしい。

 さもありなん。実際ギャラリーがいるから増えるだろう。

 みんな好みの子を選んでいく。

 エルネストと俺の話を聞いていたので、みんな可愛い系を選びがちだ。


 俺は今日は仕事のついでなので遠慮。代わりに店長とバックヤードに引っ込む。

「どうだ、支障なくやれてるか?魔法陣の故障とかないな?」

「はい、おかげさまで………あ、そういえば」

「何でも聞くぞ?」

「ええ………噂の段階なんですけど、体から水晶が生えたり、体の部位の一部が水晶になったりする病気?がおきているそうですよ。何でも頭も少しおかしくなるとか」


「えらく具体的な噂だな。誰からだ?」

「お客さんです。行きずりの。水玉すいぎょく様に失礼だとたしなめたんですけどねぇ」

「確かにそうだな、分かった、頭には入れておこう」

「ええ、お願いします」


♦♦♦


 ―――という事があったのが昨日。今日は仕事で行く店に行く道のりで、裏道を通っている。昔は命の危険があったが、今では向こうが場所を開けてくれる。

 いつもなら、そうなのだが―――


 狙われているのは、路地を入って少しして気付いた。理由は思い当たりすぎる。

 先手を取って、俺は動いた。

 腕を流体金属のブレードにし、薄く長く伸ばして振りぬいた。

 この間の弱点をこういう形で埋めてみたのだ。


 「おっ」という声と共に、地面に相手が降り立つ。ダメージはない。

「聞いてたよりも、能力があるじゃないか。だが俺の目当てはお前じゃない。予定が変わったが死んでくれ」

 そう言って銃を向けてくる。この銃は………ハードボーラーか!

 迫力満点の45口径のビッグガンだ。ターミネーターの銃だな。

 当然銃は何かの能力で強化されていただろう。そして俺は反応できなかった。

 不思議と恐怖は、なかった。


 キィィンという音がして、俺の前に立つ人影。銃弾が銃弾で撃ち落とされた。

 ミリタリージャケットに黒いシャツと黒いミリタリーズボン。

 黒髪に黒い鋭い瞳のクールなジャパニーズ。煙草を咥えている。

 ―――俺の愛するダンナ様、和正かずまさ


 ちなみに結婚したことは一部のひとしか知らない。陛下も知らないぐらいだ。

 皆カップルだと思っているのだ。

 これは和正がどうしても公表したくないと恥ずかしがったせいだが。


「待ってたぜぇ、和正!その女には思い入れがあるようだな」

「………」

「自信か?答えないのは。なら1発で決着といこうや」

 両者ともに銃を構える。和正の銃はS&W M29だ。

 ダーティハリーが使った、必殺の破壊力を持つ大型リボルバー。

 これを見て、俺は銃の勉強をするようになった。


 一瞬の、だが永遠に等しい間。

 両者の銃が火を噴いて―――倒れたのは敵。

「見事………だ」

 その言葉を最後に辺りには沈黙が落ちた。


 キンっという音がして、和正の胸からひしゃげた銃弾が落ちる。

 相手のビッグガンの強化マグナムを、胸の筋肉だけで防いだらしい。

 服の穴も瞬時に修復される。

 ばかげている、が、カッコいいのだ。超高能力者の所以である。


 俺が動く―――抱き着こうとしただけ―――より早く、俺に何かを放り投げてよこし、和正の姿は、闇に溶けてさっと消えた。

 受け取ったのは凝ったジッポー。「また行く」という意味が俺達の間にはある。

 俺はライターを、柄にもなくきゅんとする胸にぎゅっと抱きしめた。


♦♦♦


 高級娼館「ブラックリリー」の最奥の自室。

 俺はその部屋の書斎で報告書の類を処理していた。

 コンコン。ドアノッカーの音。「誰だ?」誰何すると。

 

 「セリシアです、店長」

 セリシアか。16歳ぐらいの見た目で、戦魔と淫魔のハーフ。

 黒髪をショートにしており、濃い青色の瞳。凛々しい系の「さっきゅん」だ。

 「入れ」


 すると、ウェイター姿のセリシアがするっと猫のように入ってくる。

 鋭い眼差しが、猛禽類にも似て輝いている。

「店長、リュアンヌが………」

 話を聞いてみると、先日「小さな花園」の店長から聞いた話と一致する症状がリュアンヌに出ているようだ。手の甲から水晶が生えて来て本人はボーっとしていると。


「リュアンヌは部屋にいるのか?分かった、行こう。何とかできると思うんだが」

 部屋に行くと、心配しているらしい数人の従業員がベッドサイドに2人いた。

 そして、ベッドに横たわるリュアンヌの手には立派な水晶(の原石)が生えている。

 俺は、ベットに上がり、しゃがみこんで「処置」を始めた。


 俺の能力「人体改変」なら、傷をつけずに水晶を取り去れる。

 まず、リュアンヌの手首から先を取り去る。もちろんダメージはない。

 取り外した手は脇に置いておいて、リュアンヌの手首に「肉」と「骨」を作り出して、手首から先を作る。これで処置完了。

 リュアンヌに「生活魔法:ウェイクアップ」をかけてみる。


「………えっ?ここは?私の部屋?店長?………そうだ、水晶が!あれ、無い?」

「それならここにある」

 と、ベッドの上に、血も流さずに鎮座している水晶付きの手を指し示す。

「俺が治したんだよ、リュアンヌ。意識も朦朧としてた。こいつのせいみたいだな」


 リュアンヌは俺に飛びついた「店長~!ありがとう!」

「まあ仕事のうちだ、気にするな。コレについて何か分かるか?」

「虫刺されがいつの間にかこうなってたの!」

「虫刺され?確かに耐病の魔法陣では虫は防げないな………どんな虫?」

「わからない、けど馴染みのある刺し傷だったから、蚊なんじゃないかと思う」


「蚊………蚊の蟲魔?いない方がおかしい。また紳士マフィアを頼るか………」


♦♦♦


 俺はドレスに着替えていた。

 シャンパンカラーのロングドレスで、ラメ入りでオフショルダー、かなり際どいスリットが入っている。飾りは腰と肩ベルト。同色のヒール

 ブロンズの台座に、ダイヤ型にメレダイヤを並べたピアスをする。

 魔法の袋になっている黒いクロコダイルのクラッチバッグはいつも通り。

 当然姿も本性に戻っている。普段はしない化粧もキメて、迎えを待つ。


 窓から見ていると、いつものフェラーリとは違う車が店の表に止まった。

 アレは―――アルファロメオのジュニア・ザガードだ。

 アルファロメオGTジュニアをベースにしてさらに魅力を引き上げられた逸品だ。

 いつもの黒塗りではなく、燃え立つような真紅の車体に黒い内装が見える。

 なんと、運転席から下りて来たのはフィアン本人だった。


 慌てて、ただしドレスの裾を踏まないようにしつつ、表に出る。

「ボンジョルノ、フィアン。珍しいな、わざわざ」

「ボンジョルノ、アルヴィー。ちょっとした気分転換さ」

 フィアンは助手席の扉を開けて、俺をエスコートした。

「グラッツィエ」


 フィアンが運転を始めると、俺は今回の土産である葉巻―――COHIBA(コイーバ)をフィアンに差し出す。100%ハバナ葉を使用し、最も知名度の高い高級シガーといわれており、独特の香りを持ちその優雅さゆえ世界中に愛好者が数多くいるのだ。

「グラッツィエ、アルヴィー」

 フィアンがすぐに取り出したので、俺はすぐさまシガーカッターで端を切る。

 フィアンが咥えると、即座に火をつけた。


「グラッツィエ。いい奥さんになれるよ、アルヴィー」

「職業病さ(もう人妻なんだけど………)それよりこれはフィアンの車かい?」

「そう。他にも持っているけれど、今日は赤が気分だったんでね」

「いずれ、見る機会があると嬉しいね」

「君が地位を維持する限り、有り得るだろうね。私としては君が気に入っているから肩入れするよ。何でも言ってくれていいからね」

「グラッツィエ、フィアン。もっといい管理者になるつもりさ」


 他愛のないお喋りは続き―――ペルヴェローネ・ファミリーの「庭」についた。

 いつものように、美味しそうなデザートが並んでいる。

 ティラミス、ビスコッティ、セミフレッドなどなど。


 さらに、独特のイタリアンコーヒー。俺はこれが好きだ。

 イタリアのコーヒー豆のローストは深煎りの中の深煎り。

 イタリアンコーヒーならではの焙煎で、コーヒー豆の色は真っ黒だ。

 

 歓談しながら、デザートとコーヒーを頂く。

「例の彼氏との仲は良好なのかな?」 

「アツアツだよ。他からそう見えなくても、俺は分かってるからいいんだ。ただ、いつ来るのかはっきりしないから、予定調節が大変なんだよなぁ」

ライターの合図も「近々」としか分からない。大抵3日以内なのだが………


「そっちこそいい相手はいないのか?」

「アプローチしている人はいるけど、なかなか手ごたえがなくてね………愛人でも紹介して貰おうかな?」

「うちの「ブラックリリー」の子で気に入った娘がいれば、屋敷を持たせて囲う事も出来るけど?お勧めはNO.1のエナメルだよ」

「考えておこう。それで、ブツは?」


 俺はバッグから、布で巻いた手首をさし出す。俺の能力で疑似生命を与えているので、本当にまだ「生きて」いる。

 フィアンは慎重に包みを解くと、難しい顔をする。

「分析に回す。すぐに結果は出るだろうから待ってくれるかな?」

「デザートのお代わりがあるなら」

「勿論だとも」

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