第11話 友と敵

「ハァ、クソ……五席なだけある……ゴフっ……」

 もはや戦う力が残っていなくとも、敵意は依然として消えていない。

 五席とは恐らく守天十傑のこと。早い話私は政府にこの国で五番目に強い魔術師ということにされているのだ。有事の際に特別な仕事が与えられる。

「だがな……お前ェみてえなのが……ガハッ」

「喋らなくていい。君の身柄を拘束させてもらう」

「身柄を拘束だァ?優しいじゃねェか。させよ!トドメ!ゲフッ……俺の息の根を止めてみせろ!」

 男は血を吐き、身を捩りながら叫ぶ。この男は命を軽く見すぎている。

 今は亡き私の師が開発した魔封じの腕輪を鞄から取り出す。

 これは腕輪ではあるが対象の皮膚に一体化する仕組みとなっており、解術の水以外では外れない。

 これをつけられた魔術師は保有できる魔力が限定され、基本的に魔法は使えなくなる。

 腕輪をつけ縄で縛ると一時的に保有できなかった分の魔力が男の体から魔梢光として溢れ出した。

「悪いけどちょっとの間眠ってもらうよ」

 鞄から強力な睡眠効果のある薬液を取り出し、男に注射する。

 魔術師に対して薬物の注射は効果が薄いがそれでも朝までは眠ることになるだろう。

 男は一切の抵抗をすることなく眠りについた。

 プロバットの魔術師三人に守衛の遺体の保護と男の拘束を頼んでマスターのバーのある路地へ急ぐ。

 走りながらアルトに通信魔法をしようとした時、門の外で意外な人物と遭遇した。

「ミレーネ!?」

「リーザ!アルトの所へ行くのだな?」

 いつもの制服に派手な赤いマント、モノクル。いつも通りの奇抜な格好をした私の友人、ミレーネだ。

 どうしてこんな時間にこんな場所にいるのだろう。

「ああ、任務復帰の指令を受けてな。本当は明日からだったのだが、リーザならこの時間でも起きていると思ってな。……っと、そんなことよりもアルトなら無事だぞ」

「そっか。よかった……」

 ようやく肩の力が抜けた。アルトが無事で本当によかった。

「今どこにいるんだい?」

「マスターの酒場で休んでいる」

「マスターの酒場で?」

 アルトの身に全く何も無かったのならマスターの酒場ではなくその向かいの部屋に戻るか私のところに来るはずだ。

 怪我をしたのだろうか、大きな怪我じゃないかが心配だ。私が正しい判断をしていればアルトをこんな目に遭わせずに済んだのに。

「えっ、ああ。怪我をしてな。私が魔力を回復させたから心配ない。それよりもその路地に赤い犬が倒れていてな。あれは一体……?」

 一度緩めた気を再び張り直した。

 私にはまだやることが残っている。あの男の連魔らしき犬を拘束しなければならないし守衛の遺体を然るべき場所に安置しなければならない。

「あれは敵の連魔。魔術師本人はもう捕えてるよ」

「連魔だと!?」

「うん。……ところで聞きたいことがあるんだけどいいかな」

「何だ?」

「君はミレーネじゃないな。何が目的だい?」

「へ?」

「ミレーネは自分のことを我って言うんだよ。それに何よりミレーネは戦いにたおれた人間を見て平気でいられるような人間じゃない」

 ミレーネはあれで誰よりも優しい。倒れている人間がいたならば自分の魔法を使って助けようとする。そして人の死を悼む行動を忘れない。

 守衛の遺体を見て何の行動もしないはずがない。

「うあああ、失敗したあああ!」

 ミレーネの姿を模した何者かの姿が歪み、少女になったかと思うと泣き出した。

 この子も敵なのか?

「うええん!助けてノグラス〜!」

 少女が誰かを呼ぶと背後から気配を感じた。

 咄嗟に防壁を展開するとすぐに金属音が響く。

 振り返るとそこにはエスクドに剣を振り下ろした大男がいた。

「任務は失敗。パドとグリスの回収も困難。帰還するぞ」

「ううう!こんなやつやっつけてよ!」

「十傑二人を相手にするのは分が悪い。引くぞ」

「うええん!ばかー!」

 武器を構えた大男の体に少女が飛びつくとそのまま二人とも夜の闇に溶けるように消えた。

 二人の使っていた魔法が姿を変える魔法と姿を消す魔法だとすると、私は相当厄介な能力を持った相手を取り逃したことになる。

 恐らく施設への侵入などはその能力で実行されたのだろう。

 だが敵の能力が知れたということは対策を講じられるということでもある。

 今すべきことはこの事実の共有だ。

(リーザ!?今どこにいるんだ!?)

 真夜中であるにも関わらず本物のミレーネは珍しく起きていた。

(我はマスターの酒場だ!すぐに来てくれ!)

 どうして本物も今ここにいるのだろうか。さっきの男は十傑が二人と言っていた。私とミレーネのことか。

 私はマスターの酒場へ走った。

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