大逆転

 ゴブリンチャンピオンは気絶したローズをゴブリンの群れの中に放り込む。


「手下たちは俺の言うことを大抵は聞いてくれるが、中には俺の言葉を理解できない奴もいるから、ちんたら戦っていたら娘の命の保障は無いぞ。ぐふふふ」


「なっ!」


 再び絶句するブレイブ。


 ゴブリンたちがローズに手を出さない保障などどこにもない。


 むしろ町長宅から出てきた時に、出合い頭に殺されなかっただけマシだ。


 むしろチャンプがここまでローズを生かしてくれたのに感謝するしかない。


 今やブレイブにとってローズは自らの命よりも大切なものだ。


 必ずしやローズを守り切ってやるとブレイブは決意を固めるのだった。


 ブレイブは辺りを見回すとローズは既にゴブリンの集団の中に飲み込まれ、すぐには救出出来ない状態だ。


 チャンプが目の前にいるこの状況でローズを助け出して逃げるというのは難しいのかもしれない。


 やはりチャンプとは戦うしかないのかとブレイブが迷っているとゴブリンチャンピオンから襲って来た。


「てめーから攻撃してこないなら俺から行くぞ! 剛力解放!」


 剛力解放を使うゴブリンチャンピオンだったが前とは攻撃の仕方が全く違う。


 ゴブリンチャンピオンは前の戦いでは使いまくっていた連撃を使わずに大剣に渾身の力を籠め一撃必殺の大技を放つ。


 その勢いは凄まじく空気がぶった斬られ焦げ臭さが辺りにただよう程である。


 ブレイブは思わず後退あとずさりして避けると、先ほどまでブレイブが居た場所に大穴があき大剣の切っ先が突き刺さっている。


 ゴブリンチャンピオンは悔しがっていた。


「逃げるなんて卑怯ひきょうな。次に避けたらあの娘を殺す」


「汚ねーぞ!」


 ここはゴブリンに囲まれた奴の縄張り《フィールド》。


 ハーベスタの村人に囲まれた砦の戦いの時と全く正反対の立場で、戦いの主導権はあくまでもチャンプにある。


 ゴブリンチャンピオンは更に条件を付け加える。


「そこから一歩でも歩いたらあの娘の命は無いと思え!」


「ふざけるな!」


 それは到底受け入れることの出来ない条件だが受け入れるしかない。


 歩けなければ攻撃を仕掛けることも出来ず、必ずチャンプの攻撃を受けろと言うことか。


 いいじゃねぇか!


 やってやろうじゃねーか!


 受け流しでなんとかやってやるぜ!


 ブレイブは剣の柄を握りしめてチャンプの攻撃にそなえる。


「死ねえぃ!」


 再びチャンプの攻撃。


 ブレイブはその攻撃を剣で受け流すが……。


「ぐはぁ!」


 ブレイブはチャンプの攻撃に吹き飛ばされる。


 こんな渾身の一撃を受けられるわけがねぇ!


 攻撃を受け流しきれずにブレイブは転げゴブリンの集団の中に突っ込みボロボロになるまでゴブリンたちに殴られまくる。


 やばい!


 あそこから転げたからローズの命が!


「お願いだ! ローズの命だけは助けてくれ!」


 ブレイブが懇願こんがんするとなぜかゴブリンチャンプはそれを受け入れた。


「今回のはあくまでも転倒で、お前が自ら歩いて約束を破ったわけじゃないので許してやろう」


 ブレイブは再び立ち上がり剣を構えるが、3度目の攻撃を受けた時にチャンプの意図を悟った。


 ローズをダシに俺を甚振いたぶれるだけ甚振ると言うことに。


 嵌められたか。


 だが、俺が立ち上がり続ける限り、ローズは生きながらえる。


 俺が立ち上がれなくなったその時は俺もローズも八つ裂きになり……その先は考えたくない。


 ブレイブが転がされる度にゴブリンたちはチャンプを称える歓声でヒートアップしまくった。


 こんな時に村長でもいてくれたら……。


 ブレイブが2桁を超える回数を転がされて心が折れかかった時……。


 辺りが急に静かになった。


「待たせたな」


 ホッとする声。


 でも村長ではなかった。


 そこには見たこともないゴーレムに乗りローズを救出したソイルの姿があった。


 一瞬で立場が入れ替わるゴブリンチャンピオンとブレイブ。


 周りのゴブリンたちは見たこともないゴーレムたちに一匹残らず始末されていて、逆にゴブリンチャンプがゴーレムの集団に取り囲まれている。


 ゴブリンチャンピオンは青ざめた。


「き、汚ねーぞ! 俺は正々堂々戦ってたのにお前はこんな卑怯な事を!」


「なにが正々堂々だ!」


 ブレイブはゴブリンチャンプとの距離を一瞬で詰めると剣を振るい真っ二つにすると、首をねた。


「もうこいつは生き返る事はねえ」


 チャンプの首を蹴り飛ばすとローズにかけ寄る。


「ローズ、大丈夫か?」


 セモリナの回復魔法で治療されているはずだけど返事が無い。


 もしや……。


 最悪の状態を考えるブレイブ。


「ローズ! お前を失ったら、俺は……俺は……」


 ブレイブの涙がローズの頬を濡らす。


「俺はローズが好きだ! お前を失いたくないんだ!」


 するとローズは目を開けてブレイブに抱きついた。


 ローズの意識が戻ったようだ。


「もう一度言って」


「え!?」


「もう一度言って」


「いや、はずかしいから……」


「もう一度言って」


 ブレイブは観念したようだ。


「あー! もう焼け糞だ! ローズ! お前の事が好きだ! 俺と結婚してくれ!」


 ローズは頷くとブレイブに口づけをした。


「一生大切にしてね」


「おう!」


 幸せそうな二人であった。


 それを見ていたセモリナさんはソイルの手をぎゅっと握る。


「わたしたちも早く町を作り上げて幸せになろうね」


「おおう」


「当然私も一緒よね?」とケイトさんがソイルに抱きつくとセモリナさんが無理やり引き剥がす。


「ケイトは関係ないから! 絶対関係ないから!」


 ブレイブとローズの幸せな雰囲気を一瞬で台無しにするセモリナさんとケイトさんであった。

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