ローズの危機
町長宅を出たブレイブの目の前にはゴブリンチャンピオンが待ち受けていて、ローズは首根っこを掴まれ吊るし上げられている。
そして村長宅の周りには無数のゴブリンが取り囲んで逃げ場はない。
「ブレイブごめん、わたししくじっちゃったよ。家を出たらこいつに捕まっちゃった」
首を絞められたローズは苦しい中、言葉を絞り出す。
「バカ野郎、お前はいつもヘマするな」
そう言ってローズを見下すブレイブだったが、考えているのは全く別の事だった。
どうやればローズを奪還できるか。
どうすればこの危機を脱することが出来るか。
辺りを視線で探りながらそんなことを考えていた。
ゴブリンチャンピオンはブレイブがそんなことを考えてるとも知らずに語りだす。
「食料の調達に人間の村を襲おうとしたら、既に人間どもが争っていたおかげで簡単に畑から食料の調達は出来るわ、
ブレイブはゴブリンチャンピオンに話し掛けこの状況を抜け出す方法を考え出そうとするがなかなかいい案は思いつかない。
少しでも時間を稼ごうとブレイブはゴブリンチャンピオンに話し掛け続ける。
「まさか村長の一撃を受けてまだ生きているとは思わなかったぜ」
「俺があの程度の攻撃で死ぬわけ無いだろう」
「村長のあの強烈な一撃を受けて生きているとは敵ながらなかなかのもんだぜ。褒めてやる」
「ぐふふ、そうか」
それを聞いたゴブリンチャンピオンは
やはりブランの一撃は痛かったんだろうなと、ブレイブは村長に殴られた時の事を思い出す。
ここで話題を途切れさせるのはローズが殺されかねない最大の悪手だ。
ブレイブは話下手だったが無理やり話を盛り上げ続ける。
「それにしても、これだけの数の手下をどうやって揃えたんだ? 砦とは別に巣でもあったのか?」
周りには300匹ぐらいと思える手下のゴブリンがいる。
砦の巣は壊滅したはずなので、遠く離れたリヒト村でこの数の手下を揃えているのは異常だ。
しかも士気が異常に高くどのゴブリンもブレイブを射殺すほどの視線を放つ。
こんなにやる気に
「こいつらか。こいつらは俺が乗っ取ったコロニーの住人たちだ。ボスや幹部や俺に反抗する奴は始末したが俺に忠誠を誓った者たちは生かしてやった」
「コロニーを乗っ取られた割には手下たちの士気が高く見えるのはなぜなんだ?」
「よく気が付いたな。それは俺が支持されている証拠だ」
ブレイブはこんな脳筋がゴブリンたちに支持されているとは思えなかった。
ゴブリンチャンプは語り続ける。
「今までであればボスが一夫多妻制を施行し独り占めにしていた女のゴブリンを俺が王となったコロニーでは人間を真似して男1人に女1人を宛がって夫婦縁組をしてやったんだからそりゃ士気も上がるわな」
それに歓声を上げて応えるゴブリンたち。
ゴブリンチャンプが支持されてるのは本当のようだ。
今まで笑っていたチャンプの表情が鬼のように
「だからといって俺の家族がてめーに皆殺しにされた恨みは忘れないぜ!」
ゴブリンチャンプは片手で吊るし上げていたローズの首を更に絞め始める。
「きゃー!」
ローズは悲鳴と共に気を失いガクッと首をうなだれた。
「やめろ!」
ブレイブは
「小僧、もう一度俺と戦え。勝ったら娘は解放してやる」
チャンプはブレイブへの恨みが晴れずに再戦を求めて来たようだ。
ローズを助け出すにはこの再戦要求に乗るしか無いだろう。
ブレイブは頷く。
「わかった」
「でも、お前が負けたらこの娘はお前の目の前で八つ裂きにしてやる」
「なっ!」
「いいね、その目は」
ゴブリンチャンプは再び下卑た笑みを浮かべた。
*
ソイルたちはメタルゴーレムの手のひらに乗って街道を疾走していた。
「速い! 速い!」
「速すぎるわね!」
ケイトさんも上機嫌だ。
「まるで早馬よ! しかも全然揺れないから乗り心地最高だわね」
なぜかブラン村長に用事があると言われていたケイトさんまで同行していた。
セモリナさんはソイルとのわずかな時間の二人旅を邪魔されて少し不満気。
「今しているのはゴーレムの試運転じゃなく、悪党討伐なのよ。ケイトは怪我するからウッドストックに戻りなさいよ」
セモリナさんの心配をケイトさんは笑い飛ばす。
「わたしがメタルゴーレムの試走なんて面白いイベントに参加しないわけがないじゃない。それにメタルゴーレムがこれだけいるしソイルくんも居るから大丈夫よ」
ケラケラと笑うケイトさんにはブレイブが大変な目に遭ってるとは想像も出来なかった。
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