ケイトの作戦とセモリナの実践
お風呂の前……。
料理が出来るまでの間キッチンで座って待っているのも暇なのでわたしは料理を手伝っている。
手伝っているとは言ってもわたしはセモリナと違って料理はあまり得意じゃないので既に切ったサラダの盛り付けだけ。
この村のサラダと言うか野菜って結構美味しいのよね。
どれも
多分野菜を作ってるのはシェーマスさんだろうけどなにかコツがあるのか聞いてみたいわね。
わたしがサラダの盛り付けを終わろうとした時、セモリナとお母さんのフラワーさんが恋愛談義を始めた。
わたしは盛り付けがまだ続く振りをして聞き耳を立てる。
「そう。いつも距離を引いてあんまり強くアピールしてないとね、たまに強くアピールする時が有ると一気に恋に落ちるぐらいの凄い効果が出るのよ」
「そうなんだ」
セモリナはフラワーさんの話を聞いて頷きまくっていた。
「逆にいつも猛烈にアピールしてる子は少し身を引いた態度を取ると、その子の事が気になって仕方なくなったりするわね」
これって……わたしに言ってくれてるのかな?
確かにソイルくんにはいつも強くアピールし過ぎて逆に避けられることが多い気がする。
そっか!
もっと引いてお淑やかな態度を取ればよかったんだ!
男の人はお淑やかな女の人が好きだもんね。
それならば!
善は急げとソイルくんの元へと向かうケイトだったが、その半端ない行動力の時点で全然お淑やかでないのにケイトは気が付いていなかった。
*
わたしが風呂場に着くと予想通りソイルくんが湯舟に浸かっていた。
このまま襲ってもいいんだけど、それだとドン引きされるだけでいつもと変わらない。
ケイト、ここは我慢するのよ。
まずは頭を冷やすの、そして精神を落ち着かせるの。
わたしは冷水で頭と身体を冷やすけど、さすがに冬も近づいている時期なのでさすがに寒い。
精神どころか身体の芯まで冷え切ってしまった。
風呂に浸かると、今度は熱くて火傷しそう。
くー!
あちい!
でもここで湯舟から飛び出したりしたらお
わたしは
「ソ、ソイルくん、きょ、今日も襲われると思った?」
わたしが熱さで風呂から飛び出るのを我慢しながら必死に言葉を
「ちょっと警戒してしまいました」
フラワーさんの作戦、意外と効いてるじゃん!
いつものソイルくんの反応とは全然違う。
とは言っても、ソイルくんは警戒度MAXで様子見中。
わたしがいつ襲って来てもいいように湯舟から飛び出せる体制を取っている。
風呂場からソイルくんが逃げたら『ケイトおねえちゃんお淑やか作戦』は失敗だ。
そうならないように、わたしはソイルくんの警戒を解く。
「襲って欲しいならいつでも襲うわよ」
「それだけは遠慮させてもらいます」
「冗談よ」
その言葉を聞くと力が抜けたのかソイルくんが肩まで湯に浸かる。
よし!
警戒態勢が解かれた。
わたしはセモリナが来るようなことを言って時間稼ぎ。
これでもう、セモリナ待ちで風呂場から逃げることはないよね?
わたしは真顔になって前から聞きたかったことを聞いてみた。
「ソイルくんはセモリナが初めての相手じゃないとダメ?」
わたしとソイルくんが結婚するのは決定事項だけど、初めての夜はセモリナじゃなくお姉さんであるわたしが貰うべきよね。
わたしで経験を積んで、セモリナの初めてをリードすべき。
ソイルくんは即答せずに悩んでいるようだ。
それなら、もう少しアピールすれば落とせるかも。
「ケイトお姉ちゃんは少しだけ年上だけど、男を知らない生娘だし、仕事もしっかりしているし、ソイルくん好き好きで絶対に浮気しないし、初めての夜を共にして結婚する相手としては最高だと思うんだけどな……」
ソイルくん困ってる。
もうちょい!
あと一歩押せば落とせるかも!
ならば最終兵器だ!
わたしは立ち上がりタオルを
もう私の肌を隠すものは無い。
ソイルくんは……!
少し目をそらしたと思ったら、わたしの身体に視線が釘付け!
これは落とせたのでは?
でもまだだった。
「ぼ、僕には、せ、セモリナさんと言う既に結婚を決めた相手がいるのでケイトさんとは付き合えません」
ソイルくん、自分の中のモラルと必死に戦ってる。
声が震えまくりだよ。
これなら、背中を一押しすれば……。
「今ならこの身体を好きに出来るわよ」
この言葉は魅力的だったようだ。
「僕にはセモリナさんがいるので……」
そんなことを言っていながら、瞳孔開きまくりでわたしに徐々ににじり寄って来てる。
このまま押し倒しても良かったんだけど、『ケイトおねえちゃんお淑やか作戦』成功の為にわたしは敢えて引いた。
「仕方ないわね、初めての相手はセモリナがいいのね」
ソイルくんは名残惜しそうに肩を落とす!
やった!
完全勝利、作戦成功!
ソイルくんのハートはガッチリ掴めたはず!
わたしは心の中でガッツポーズを取りながら風呂場を後にした。
*
セモリナはぶつぶつと独り言を言っていた。
「裸を見せてそれでもダメなら裸で抱きつく……裸を見せてそれでもダメなら裸で抱きつく……」
タオルをあえて持たずに風呂場に飛び込んだセモリナ。
「もう引けないんだから!」
それはセモリナなりの決意だった。
湯舟に浸かっているソイルくんの隣に入り、肩と肩をふれあい、そして……。
セモリナはそんなことを考えていたけど、男の人と付き合ったことがないのでその先のイメージが上手くわかない。
でも、始めてしまえばなんとかなるような気もした。
作戦はいきなり失敗した。
湯舟に浸かっていると思ったソイルくんなんだけど、なぜか洗い場にいた。
それも冷水を浴びながら身体を洗ってる。
なんで冷水?と思ったけど修行かなにかだと思い口には出さなかった。
目を瞑りながら頭を洗っていたのが好都合。
裸をいきなり見られることはなく、わたしの心に少し余裕が出来る。
「背中を流してあげるわね」
冷た!
わたしは冷え切ったソイルくんの背中を洗い始めるけど、なにを言っていいのかわからない。
いきなり好きだと言ったらおかしいだろうなと思って普通の話題を振るとソイルくんはそんなわたしの話も真剣に聞いてくれる。
そんな真面目な態度にわたしの好きが溢れる。
ソイルくん、好き!
大好き!
早く、結婚したい。
わたしをソイルくんのものにして、ソイルくんをわたしのものにさせて下さい。
この身体も背中も全て!
そう思っていたらつい抱きついてしまった。
ソイルくんの背中は鍛えられているのか筋肉質でとても固く頬を寄せるとおんぶしてもらった時のお父さんの背中を思い出し、すごく落ち着く。
この背中にずっと寄り添っていたいと思っていたらソイルくんが急に振り返って現実に引き戻される。
わたし、裸だった……。
「あ! ダメダメ! 今振り向いちゃダメ!」
覚悟はしていたけど、いざ裸を見られるとなると恥ずかしすぎる。
わたしは思わず悲鳴を上げてしゃがみ込んだ。
「ご、ごめんなさい!」
ソイルくんは大声をあげて逃げていく。
待って! そうじゃないの! ソイルくんともっと仲良くなりたいの!
と、声を上げようとしても声は出ず、気がついたらソイルくんは風呂場から出ていなくなっていて、代わりにお母さんが立っていた。
「上手くいった?」
「いったわけないよ」
「お母さんに任せなさい。次はきっとうまくいくわ」
フラワーさんは少ない恋愛経験で成功率の低い新たな作戦を考えるのだった。
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