恋愛素人

 今日は最後のボア料理と言うことでセモリナさんも料理を作るのを手伝っている。


 作っている料理はボアのカツレツのガーリックトマトソース掛けだ。


 どうやらソイルが以前に美味しいと言ったのを覚えてるらしく最後のボア料理はこれにしたそう。


 お母さんのフラワーさんはカツレツを揚げていて、セモリナさんはソースの担当。


「お母さん、ソースはこんな感じでいいかな?」


 味見をフラワーさんにお願いする。


「大体こんな感じでいいけど、ほんの少しだけ砂糖を入れた方がいいわね」


「カツレツのソースなのに砂糖を入れるの?」


「隠し味でね。本来とは反対の味を少しだけ加えることで求めたい味が引き立つの。恋も一緒よ」


「恋も?」


「そう。いつも距離を引いてあんまり強くアピールしてないとね、たまに強くアピールする時が有ると一気に恋に落ちるぐらいの凄い効果が出るのよ」


「そうなんだ」


「逆にいつも猛烈にアピールしてる子は少し身を引いた態度を取ると、その子の事が気になって仕方なくなったりするわね」


 それをサラダを盛りながら聞いていたケイトさん。


 「明日の準備を忘れてた!」と言ってキッチンを出て行った。


 ケイトさんがいなくなったので、セモリナさんはお母さんに恋の相談をする。


「わたし、恥ずかしくなっちゃってソイルくんに未だにアピール出来てないんだけど、具体的にどうすればいいのかな?」


「そうね、ソイルくんは今お風呂に入ってるでしょ。男の人はなんだかんだ言って女の人の裸が好きだからちらっと見せちゃうといいわ」


「裸を見せちゃうの?」


「ちらっと見せるだけよ。らすだけ焦らして絶対に触らせちゃダメ。そうするともうソイルくんはセモリナが気になって仕方なくなるの」


「そうなんだ。でもそれでも恋に落ちなかったら?」


「裸で抱きついちゃいなさい」


 セモリナさんの恋の相談を受けるフラワーさん。


 相談は上手くいったように思えたけど、実はフラワーさんはブランさん以外の男の人を全く知らない恋愛経験値が限りなく0に近い恋愛素人だったりした。


 *


 ソイルが作業を終えて風呂に入っているとケイトさんが風呂場に入って来た。


 いつもの様に猛烈なアタックを掛けてくるのではとソイルは警戒したけど、ケイトさんは洗い場で頭と身体を洗った後にソイルから少し離れた場所で湯に浸かり襲ってくる気配は全くない。


 ソイルはほっとした半面、残念な気持ちがしないでもなかった。


「ソイルくん、今日も襲われると思った?」


「ちょっと警戒してしまいました」


 ケイトさんはニタッと笑う。


「襲って欲しいならいつでも襲うわよ」


「それだけは遠慮させてもらいます」


「冗談よ」


 ケイトさんはけらけらと笑い出す。


「セモリナは料理の手伝いをしてるからちょっと遅れてくると思うわ。なんでも今日が最後のボア料理になるらしく、ボア肉が当分食べられなくなるから気合を入れて料理するんだって。ところで……」


 といってケイトさんは真顔になる。


「ソイルくんはセモリナが初めての相手じゃないとダメ?」


 セモリナさんは大切な人だし、結婚を誓った人。


 婚約破棄をして一度は捨ててしまったのをどうにかりを戻してもらえたのに、そんなセモリナさんを捨てるわけにはいかない。


 セモリナさんが初めての相手じゃないとダメなのと聞かれてもそうとしか言えないが、ケイトさんの表情は真剣でソイルには正面切って伝えられそうもなかった。


 ソイルが返事を出来ないでいるとケイトさんはさらに続ける。


「ケイトお姉ちゃんは少しだけ年上だけど男を知らない生娘だし、仕事もしっかりしているし、ソイルくん好き好きで絶対に浮気しないし、初めての夜を共にして結婚する相手としては最高だと思うんだけどな……」


 そういうと身体を包んでいたタオルをはだけさせてガバッと立ち上がった。


 今まで湯気やお湯で見えなかった二つの膨らみや足の間のかげりもはっきりと見える。


 ソイルは女の人の生まれたままの姿をしっかりと見たのは初めてだったので、身体の芯から熱くなり二つの膨らみに思わずむしゃぶりつきたくなる衝動に駆られる。


 しかしソイルにはセモリナさんと言う心に決めた相手がいるのだ。


「ぼ、僕には、せ、セモリナさんと言う既に結婚を決めた相手がいるのでケイトさんとは付き合えません」


「今ならこの身体を好きに出来るわよ」


 ケイトさんの膨らみがプルンと揺れる。


 ソイルはその揺れる物体に目が釘付けだ。


「僕にはセモリナさんがいるので……」


「仕方ないわね、初めての相手はセモリナがいいのね」


 ケイトさんは珍しく迫って来ることもなくそのまま風呂場を後にしたが、ソイルはケイトさんの事が気になって仕方なくなってしまった。


 *


 ソイルはケイトさんの生まれたままの姿を見ていきり立った己を治めるべく、洗い場で冷水を浴びていると背後から急に声を掛けられた。


「背中を流してあげるわね」


 セモリナさんだ。


 セモリナさんは優しい手つきで背中を流し始める。


「今日はお疲れさま。朝までウッドストックにいたのが嘘みたいに頑張ったよね」


 今朝宿屋を出て大急ぎでハーベスト村に戻ると、それからはずっとゴーレム輸送団の対応に追われていた。


 ここで頑張らなければウッドストックの住民が飢えてしまうし、ジョンさんが町長の座を追われてしまうだろう。


 その思いだけで一日頑張って来た。


 セモリナさんはソイルの背中に身を寄せてくる。


 冷え切った背中にはセモリナさんのタオル越しの身体はとても暖かに感じられる。


「頑張って村を大きくして、お父さんに認められる結果を残して結婚しようね」


 もちろん、ソイルも同じ気持ちだ。


「頑張りましょう。セモリナさんの婿として胸を張れる男になります」


 振り向きセモリナさんの目を見ながら決意の固さを見せようとしたソイルなんだけど……。


「あ! ダメダメ! 今振り向いちゃダメ!」


 セモリナさんは悲鳴を上げてしゃがみ込んだ。


 その身体にタオルなんてものは巻かれて無くて……。


 今までタオル越しで密着してたと思ったのは素肌だったの?


 もしかしてセモリナさんの膨らみと直接密着してたの?


 事実を知り一瞬で頭に血がのぼるソイル。


「ご、ごめんなさい!」


 慌てて湯舟に飛び込むソイル。


 ソイルは再び身体の芯から逆上のぼせるほど熱くなるのであった。

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