捨てられた領主の息子(後編)
成人の儀ではマイケルが取れるはずのない騎士の天職を得て、ソイルが取るはずのない最弱の土魔法使いの天職を得るという最悪の事態になった。
「なんで僕が……土魔法を?」
絶対に取るはずのないとんでもないクズ天職を引いて呆然とするソイル。
結果を信じられず自らとマイケルを鑑定の魔道具で調べる。
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――名前:ソイル・アンダーソン
――職業:土魔法使い
――LV:07
――HP:700/700
――MP:7/7
――攻撃:35(B)
――防御:21(D)
――敏捷:28(C)
――魔力: 7(F)
――知力: 7(F)
――幸運:14(E)
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スキル
『土魔法(B)』
『片手剣(E)』
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――名前:マイケル・コリンズ
――職業:騎士
――LV:05
――HP:5/5
――MP:500/500
――攻撃:20(C)
――防御:20(C)
――敏捷:15(D)
――魔力:25(B)
――知力:20(C)
――幸運:20(C)
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スキル
『片手剣(S)』
『盾(S)』
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「嘘だろ?」
ソイルは騎士の天職を得られなかっただけではなく、持っていたはずの剣と盾のマスタリースキルも失っていた。
まるでマイケルとソイルのスキルが入れ替わってるかのように……。
なぜなんだ?
何が起こったんだ?
理解できない。
「ありえない! ありえない! ありえない! なんでなんだよー!」
再び、悲鳴が女神神殿に
ソイルが絶叫を続けていると神官が止めに入る。
「女神さまの御前ですぞ!」
激しく身体を揺すられてやっと正気を取り戻したソイル。
だがソイルは騎士になれなかった事で心が乱れまくっていた。
*
天職の儀が終わった後に開催されたマイケルとの記念試合。
隣領の息子同士の対決だったので注目度が高く領民を中心に多くの観客が集まった。
当然ソイル、ヘレン、マイケルの親も観戦している。
神殿騎士が審判となり、屋外祭場で試合が行われることになった。
神殿魔術師団が張った防御結界の中で行われる試合で、真剣を用いた試合だが余程のことが無い限り命の別条はない。
神殿騎士からの選手紹介が行われる。
「
「
ソイルの天職が土魔法と聞くと観客から笑い声が起こるがソイルの耳には入らない。騎士の天職を得られなかったという最悪の事態に頭の中がいっぱいで観客の
「これより成人の儀、マイケル・コリンズとソイル・アンダーソンの記念試合を始める! 試合開始!」
試合が始まると同時に動いたのはマイケルであった。
剣を突き出しながら、ものすごい速度でソイルとの距離を詰めるマイケル。
この速度にはマイケル自身が驚いていた。
「騎士の天職を取っただけでここまで身体が軽くなるのか?」
驚いたのはマイケルだけではなくソイルも驚いていた。
「嘘だろ? 昨日までのマイケルとは全然速度が違う! まるで疾風じゃないか!」
一瞬で距離を詰められ、ソイルはマイケルの重い剣の一撃を盾で受ける。
「重い! 重過ぎる!」
ソイルはマイケルの重い剣撃を辛うじて盾で受けたが、盾を弾き飛ばされバランスを崩し転倒。
地面に激しく叩きつけられその攻撃を盾で耐え凌ぐことは不可能だった。
「天職を取ることでマイケルの攻撃がここまで重くなるものなのか? 信じられない!」
実際にはマイケルが騎士の天職を取ったことだけではなく、ソイルが盾のマスタリースキルを失ったことも大きかった。
ソイルが盾を失った時点で勝負はついていたのだ。
「チェックメイト!」
マイケルはソイルの喉元に剣先を突き付けて勝負はついた。
無様に倒れ込んだソイルの視界には、転倒したソイルを心配し駆け寄るヘレンの姿が見える。
「おめでとうございます!」
おめでとう?
試合に負けたのに「おめでとう」とはどういうことだ?
ソイルはその理由をすぐに知ることとなる。
ヘレンは倒れたソイルを素通りしマイケルに駆け寄り抱きついた。
「マイケル様、勝てましたね」
「ヘレンの応援のお陰だよ」
そして再び抱きしめ合う二人。
それを見たソイルは
「なっ!」
ヘレンの顔には笑顔が浮かんでいる。
どう見てもソイルを心配している顔ではなくマイケルの勝利を祝う顔。
しかもその笑顔は今まで見せたことのない幸せそうな顔で……。
その笑顔を見てソイルは一瞬で悟った。
「ヘレン……お前の恋してる人って……」
お前はマイケルのことが好きだったんだな。
そりゃそうだ。
幼き頃にマイケルとヘレンの恋仲を裂いたいけ好かない野郎は僕だったのだ。
あくまでも僕がヘレンを見ていたのは貴族としてのステータスを押し上げる道具としてのみ。
僕はヘレンのことを一人の女性として恋人として見たことが無かった。
捨てられて当然だ。
ヘレンはソイルに向かって捨て台詞を放つ。
「あなたがわたしの事を愛していないのは知っていました。でも最後の最後に確認したかったのです。わたしを試合の景品された時に、即答で断るかどうかを、あなたにとって決して失ってはいけない存在で有るかどうかを……。あなたに告白された時は必要とされている事が嬉しく好きでもありました。でも、今まであなたから一度たりとも愛のささやきを頂いたことはありませんでした。さようなら、私の愛した人よ」
そして、マイケルと手を繋ぐヘレン。
幸せそうな二人の姿を見たのを最後にソイルの意識は闇の中に落ちていく。
そして首にかかっていたネックレスの意味を悟った。
幸運のネックレスとは僕ソイルが幸せになるネックレスではなくヘレンが恋人と一つになれて幸せになる、僕にとっては不幸のネックレスだったのだ。
*
意識の戻ったソイルは馬車に戻り、騎士になるための天職を引けなかった事を父親のロックに報告し頭を下げた。
「父上! 僕は騎士になるための天職を引けなかった上に、マイケルとの試合に負けて許嫁のヘレンも奪われました。この情けない僕を
ソイルはいきなり親父に殴られ馬車から転げ落ちた。
「この馬鹿野郎!」
強烈なストレートを顔面に食らって10メトルほどすっ飛び、意識が飛びそうになるのを必死に堪えるソイル。
這いつくばって立ち上がった。
「父上、申し訳ございません」
ロックの気が晴れるまで罵るだけ罵って欲しいとソイルが願っているとソイルの親父は言い放つ。
「なんだ、あの試合は!」
「騎士の天職が取れなくて――――」
「天職がなんだ! お前の騎士になるという夢はその程度なのか! このロック・アンダーソンの息子ならば試合に負けることは許さん!」
「でも、父上!」
また殴られた。
「でもも、しかしもない! 我が息子なら天職のあるなし関係なしに試合に勝ってみせろ!」
続けてマリーも僕を見下す。
「見損ないました、お兄さま。天職が土魔法なら土魔法で試合に勝ってみて下さい! お兄さまがそこまで情けない男とは思いませんでした」
あそこまで慕っていてくれていた妹のマリーの手のひら返しが辛い。
ロックとマリーを乗せた馬車はソイルを残して屋敷に戻っていった。
残されたのは執事長のバーターのみ。
「英雄の御子息とは思えない無様な姿ですね」
バーターはソイルに旅の道具の入ったカバンを渡す。
「『僚地に土魔法のエキスパートである先生が居るのでそこで修行をして必ずや騎士になって戻って来い!』とのご主人様からの伝言を預かっています」
「土魔法を修行しても騎士になれるわけが無いだろ……」
毒づくソイル。
ソイルがカバンの中の紹介状を見ると僚地はアンダーソン家の飛び地領、馬車で一週間の旅路の目的地は魔の森に飲み込まれた辺境であった。
「こんな辺境に……」
土魔法を修行したからと言って騎士になれる訳もなく、あくまでも修行とは名目で追放なのは間違いなかった。
父上の目の届かない所でくたばれということか。
父親に捨てられたという事実を再認識して一人涙するソイルであった。
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