辺境ハーベスタ
10日後、ソイルは馬車を乗り継ぎ僚地ハーベスタへと辿り着いた。
豊穣の地ハーベスタとは名前だけで実際には猫の額ほどの畑しかなく、魔物溢れる魔の森に飲み込まれた村でかろうじて生活している村人が極僅かにいる集落である。
畑もろくにないこんな村に有能な魔法の先生がいるとは思えない。
父親のロックの僚友でありこの村の長であるブラン・フィールズに面会を申し出た。
「よくきた、ロックの息子よ!」
そういってソイルの髪の毛をぐしゃぐしゃとかき乱して歓迎してくれる。
上半身裸に近い防具を付けて見た目は盗賊団の親分、仕草も盗賊団の親分な村長だった。
「今はいくつになった?」
「16で成人になりました」
「もう10年以上も経ってるのか。たしかお前を前に見たのは生まれたばかりの頃で小指の先っちょぐらいの大きさだったな。ガハハハハハ!」
子でもそんなに小さいわけがないとツッコミどころ満載のおやじギャグに愛想笑いで返すソイル。
一通り挨拶が終わるとブランはリビングに設置されたテーブルの椅子に腰かけ真面目な顔をする。
「ところでこんな田舎まで何の用で来たんだ? 俺の娘なら既に許嫁が居るからやれんぞ」
いや、そんなことで来たんじゃないし。
ソイルは襟を正してブランに頭を下げる。
「この地に土魔法の熟練の魔導士が居ると聞きまして、是非とも師事をして頂きたいとやって来ました」
すると首を傾げるブラン。
「土魔法の魔導士?」
「はい、土魔法のエキスパートである先生と伺っています」
ロックがしたためた書簡を見るブラン。
「ん-、そんな奴この村に居たか?」
再び首を傾げるが、思い当たる村民は一人しか居なかったらしく先生を連れて来させた。
「村長、何の御用ですだ?」
「シェーマス。この坊主が土魔法を教えて欲しいそうだ」
現れたのは麦わら帽子に片手には牧草をかき集めるピッチフォークを持ったおじさんでどうみても見た目は農夫である。
「あなたがこの領地一番の魔導士の先生なんですか?」
ソイルは頭を下げるものの、この人が土魔法の先生とは言ってる自分でも信じられなかった。
「オラが魔法の先生? バカこくでねぇ! この村一番の農夫だ」
そう言って高笑いをするシェーマス。
「もっともこの村の農夫はオラ一人だがな」
マジか?
魔法の先生じゃないの?
「土魔法の先生が居ると聞いて土魔法を教えていただきたく来たのに……」
「もちろん土魔法もこの村一番の使い手だぞ。オラの最強の土魔法を見せてやる!」
そう言って魔法を唱えて土を掌に出した。
「どうだい? この栄養満点で肥えたいい土は!」
得意気な顔をするシェーマス。
掌には一握りの黒い土だけである。
敵を阻む巨大な岩壁とか、敵を一撃で倒す巨大な石弾とかではない。
「これだけ?」
「おう」
「ダメだ……」
「バカこくでねぇ。最高の肥えたいい土だろうがよ! 作物を育てるには最高の土だぞ」
農作業用の土でどうやって騎士になればいいんだよ?と頭を抱えるソイル。
とんでもない所に来てしまったとソイルは後悔するのであった。
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