短剣の男

 防御壁で村から締め出したことによる村民たちの怒りは収まらない。


 この防御壁を作り出した犯人を探し出し吊るし上げようとしていた。


「おい! 俺たちを村から締め出そうとした犯人は見つかったか?」


「こっちには居ない。そっちにいるか?」


「こっちも居ないわ」


 その時、走り回りながら犯人を捜しまくる女の目の前に見慣れない男が現れたので驚く。


 しかも男は村で一番弱いセモリナを人質に取っていたのだ。


「こっちにいたわ! しかもセモリナを人質に取ってる卑怯者よ!」


 えっ?


 なにそれ?


 僕が人質を取ってるだって?


 ソイルは驚きのあまり言葉を失う。


 女が大声で叫んだのに応える男たちの声が聞こえた。


「今行くから助けに行くから逃がすな!」


「待ってろ!」


 セモリナさんが必死に弁解するが女は聞く耳を持たない。


「違うの! この人はこの村を発展させるために手伝ってくれてるだけで……」


「脅されてそんなこと言ってるのね。セモリナ、もういいから、すぐに助けてあげるから!」


 ソイルたちの周りに村民が集まりだす。


 現れたのは若い村民でソイルとあまり歳は変わらない。


 男3人に女1人。


 たぶん、グループだ。


「なんだこいつは?」


「見たことない奴だな」


「俺たちを村に入れなくしたってことはゴブリンの仲間だろう」


 取り囲まれるソイルとケイトさんとセモリナさん。


「ちょっと聞いて! わたしは人質じゃないの!」


 セモリナさんが話を聞くようにソイルと村民の間に割って入るけど全然聞く耳持たない。


「いい? 私がセモリナを奪還だっかんするから男と女を倒して!」


「わかった。ローズにセモリナの奪還役を頼むぞ!」


「俺とケビンは男の方を倒すからジャズは女の方を倒してくれ」


「わかった!」


 それを聞いて青ざめた顔で怯えるケイトさん。


「わたしたちやられちゃうの?」


「大丈夫、ケイトさんは僕が守りますから」


「た、頼むわよ」


 リーダーっぽい男から戦闘開始の号令が掛かる。


「いくぞ!」


 まずは女がセモリナさんを奪いに来る。


 セモリナさんに危害を加える様子はないのでここは放置でいいだろう。


 女はセモリナさんを抱き上げると、すぐに走り去った。


 それと入れ替わるように男3人が襲って来た。


 ソイルは背中にしがみ付いているケイトさんをそっと座らせる。


「危ないからここで静かにしていてください」


 ケイトさんはそっとうなずいた。


 ソイルは振り向きざまに男たちの武器を剣撃で弾く。


 男たちの剣は真っ二つに折れ弾き飛ばされた。


「剣が真っ二つに!」


「しかも同時に3つも!」


「こいつなかなかやるぞ!」


 男たちは一瞬で状況を判断し、飛び退き距離を取る。


 ソイルが見た目と反して意外と出来る相手だったので明らかに狼狽うろたえていた。


「こいつは強いぞ」


「危ないからお前らは下がってセモリナの身を守れ。俺だけでいく!」


「わかった、逃げる時間を稼いだらお前も逃げるんだ!」


「おうよ!」


 リーダーらしい男だけが残った。


 男は少し怯えていた様子を見せていたが、覚悟を決めたのか折れた剣を捨て隠し持っていた短剣で攻撃を仕掛けてきた。


「俺のラプターラットをも翻弄ほんろうする剣技を避けられるか?」


 多分短剣の剣技のラピッドチャージのことだろう。


 短剣による多段連続攻撃で隙が無く、一度盾で受けてしまうと全段盾で攻撃を受け続けないと攻撃を食らってしまうという厄介な技だった。


 盾のマスタリースキルを持っていた頃に短剣の使い手と戦ったことがあるがかなり苦労した記憶がある。


 ソイルは厄介なスキル持ちが現れたと警戒したが……。


 遅い!


 遅すぎる!


 なんだこの遅い攻撃は?


 これでラピッドチャージって嘘だよな?


 ――ソイルは村長のブランとの特訓で剣聖を超える能力を開花させていた。


 ――そんなソイルにとってはラピッドチャージはナメクジが地を這うような遅さにしか見えなかったのだ。


 これはラピッドチャージではないだろう。


 これは自称短剣の使い手で、隙を見せた時に別の本命のメイン武器による隠し玉の攻撃があるんだろうとソイルは警戒していたが……。


 *


 男は狼狽しまくっていた。


「なんで村一番の短剣の使い手の俺のラピッドチャージが効かねぇんだよ!」


 ラピッドチャージを放っても全て防がれていた。


 それも盾じゃなく剣の受け流しでだと?


 これはなんとかして村長を呼んでこないとヤバイ!


 とんでもない怪物が村に紛れ込んでしまったら全村民の命の危機だ。


 男はとんでもない相手に手を出してしまったと後悔をしていた。


「ここは短剣を投げて隙を作り、その隙に村長を呼びに行くしかあるまい!」


 そう思い短剣を投げようとしたら、短剣が根元から折れていた。


「なっ! なんで俺の短剣が折れる?」


 この短剣は男の成人を祝って貰った先祖代々家に伝わる業物わざものの短剣で折れるはずは無かった。


 なのに折れていた。


 いや、これは違う。


 折れたのではない!


 剣技で根元から切り落とされたのだ。


 男はソイルの剣の技に更に怯えるのであった。


 ――なのだが……。


 ――ソイルは男の攻撃があまりにも遅かったので次なる隠し武器を披露ひろうしてもらうべく、短剣を軽く払ったら短剣が折れてしまっただけであった。


 ――それほどまでにソイルの剣技は村長のブランとの修行で研ぎ澄まされていた。


「こうなったら、みんなが逃げる時間を稼ぐために素手で奴を食い止めるしかねぇ!」


 男は覚悟を決めて殴りかかった瞬間、何者かに殴られて地面を転げた。


「やめい!」


 そこには村長のブランの姿があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る