初めての防御壁建設

 あれからセット魔法のブロックに改良を加えた。


 四角い基本壁を組み合わせて作るとどうしても四隅が1レンガ分足りなくて歪な立方体になってしまうので1レンガを追加して完全な立方体として仕上げたこと。


 そして立方体に流し込む充填剤はセメントではなくより強度の高いコンクリートにしたこと。


 コンクリートを完全に固める為に長い時間掛けて少しずつ充填したこと。


 面倒だけど、ブロック建築の基本の基本になるものなので3日掛けて試作に試作を続けて慎重に仕上げた。


 ブロックが完成した翌朝、防御壁の建設が始まった。


 ケイトさんから建設計画の説明がある。


「みんないい? 今日一日で防御壁を作るわ」


「今日一日で村を囲む防御壁を作るってえらい突貫工事ですね」


「のんびり建設してたら、またゴブリンからの横やりが入るわ」


 シェーマスさんもそんなこと言ってたな。


 ゴブリンにしたら住処のすぐ近くに城壁みたいな物を作られたらたまった物じゃ無い。


 ゴブリンたちの討伐拠点になることは間違いなく、恐怖の対象だ。


 昔、建築中の砦を襲ったように全力で建設の阻止に来るだろう。


 ケイトさんが言うようにスピード重視で作るに越したことはない。


「計画を話すわ。作るのはソイルくんのセット魔法『ブロック』を使って作った高さ4ブロック(6メトル)奥行2ブロック(3メトル)横幅10ブロック(15メトル)を1セットとしてセット魔法『防御壁ウォール』として登録。それで村を中心として掘った半径150メトルの溝に埋めていくわよ」


「あ、穴を掘らないといけないのね。深さは3メトル幅3メトルだっけ? 深いから結構掘るのが大変そうね」


「そう、掘るのは幅と深さが3メトル。土魔法のディグを使って溝を掘ってもいいんだけど、余計な魔法を使うとソイルくんの魔力が尽きちゃうから今回はこれを使うわ」


 そう言って魔法陣を3枚取り出すケイトさん。


「これは?」


「ゴーレムを作り出す魔法陣よ。レンガを対価にゴーレムを作り出せるの」


 ソイルの魔力については有り余るほどあるので枯渇する心配は皆無だったけど、そんなに魔力量があるとはソイル自身も思ってなかったんだから仕方ない。


「試しに作ってみせるからよく見てて」


 魔法陣を地面に置き、対価のレンガの山を傍に置く。


 そして『クリエイトゴーレム』とケイトさんが魔法を唱えると、魔法陣からどす黒い煙と共に眩い光が溢れ出す。


 そして現れたのは身長10センタメトルのちびっこゴーレムだった。


「ゴレ?」


「かわいい! こんなちっちゃいので穴が掘れるの?」


「こんな小さいゴーレムじゃ穴なんて掘れるわけないわ」


「あら」


「最低でも身長1メトル位のゴーレムを作るつもりだったんだけどわたしの魔力じゃこれが限界だったみたいね」


「じゃあ、ソイルくんの出番ね」


 さっきケイトさんのやった手順を真似してみた。


「クリエイトゴーレム」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 ものすごい地響きと共に身長3メトルの岩巨人のゴーレムが現れた。


「ゴレ!」


「でっか!」


 魔法陣2枚を使って2体のゴーレムが現れた。


「名前が無いと不便だから1号と2号でいいわよね?」


「ゴレ!」


「ゴレ!」


「ちっちゃいのは?」


「捨てるからよこして」


「こんなにかわいいのに捨てるなんて嫌よ。名前はチビちゃんにするわ」


 チビはセモリナさんの肩の上に載って名前を付けて貰ったことを喜んでた。


「じゃあ、1号と2号は穴を掘って、ソイルくんとセモリナは穴に防御壁を埋めていって」


「ケイトは?」


「チビを作って魔力を使い果たして疲れたから少し休憩してくる。なんかあったら起こしに来てよ」


 と言うことでセモリナさんと二人で作業することになった。


 *


 作業途中、グレートボアごはんに穴掘り役のゴーレムが襲われるトラブルが有ったけどさすが岩巨人だけあってビクともしなかった。


 パンチ一発でグレートボアはお空のお星様だ。


 ソイルとセモリナさんは街の外周に掘られた溝に防御壁を設置し続けると夕方には村を取り囲む防御壁が出来上がった。


 もうこれで村の中に魔獣が現れることはない。


 これで村の外から人がやって来ても魔獣に怯えることは無いんだ。


 大きな事をやり遂げた達成感と共に二人で苦労をねぎらった。


「ソイルくん、防壁が完成したわね。おつかれ」


「ええ。セモリナさんが頑張ってくれたおかげです。ありがとうございます」


 ゴーレムも心なしか喜んでいるような気もする。


 村の外ではゴブリンが防壁が出来たことで騒いでいるけど後の祭り。


 既に出来た防御壁の前では何もできない。


「ゴブリンが村の外で騒いでいますね」


「速攻で防壁を建築したこっちの勝ちよ」


 騒がしかったのかケイトさんが起きてきた。


「もう防壁出来たの?」


「はい」


「早かったわね、お疲れ」


「速攻で防壁を建てたのが功を奏したのか外でゴブリンが騒いでるけど既に手遅れね」


 耳を澄ませたケイトさんが首を傾げる。


「騒いでるのはゴブリンなの?」


 ソイルとセモリナさんも耳を傾ける。


 すると……。


「なんじゃこりゃ!」


「なんで村が壁で覆われてる!」


「どこから入ればいいのよ?」


 どう聞いてもゴブリンじゃない。


 狩りから戻って来た人たちの声。


 ケイトさんが恐る恐る聞いてくる。


「ソイルくん、村の出入り口はどうしたの?」


 え?


 出入り口?


「作るのを忘れてました……」


 そしてそこら中から上がる爆音と土煙。


 村に入れなくて怒った村民が防壁に穴を空けて勝手に入ってくる。


 なんだよ、ここの住民は!


 魔物よりヤバいだろ!


 防壁はいきなり穴だらけにされて役立たずにされた。


 初めての防壁づくりは大迷惑、大失敗に終わったのだった。

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