防御壁

 魔法で出したレンガの壁の基本パーツを使い防御壁を作り始めたソイル。


 もちろん、指導にケイトさんとサポートにセモリナさんが付く。


「基本壁のセット魔法を使って出した壁で、さっき見せた防御壁のイメージ図通りの物を作ってね。出来たらまたセット魔法で『基本防御壁』として登録よ」


 イメージ図通りのレンガの壁を組み上げて、空いた空洞にセメントを流し込めばいいらしい。


「わたしは次の作業の準備があるから、ソイルくんとセモリナで作業しててね」


 そう言ってケイトさんは魔法陣を描きに屋敷に戻っていった。


 残されたソイルとセモリナさんで作業を始める。


「わたしは図面通りに組み立てるから、ソイルくんは壁を出してね」


「はい」


 ソイルが魔法で壁を出すとセモリナさんが軽々と持ち上げて組み上げていく。


 壁は軽くは無いだろうに物凄い力だ。


 多分ソイルではびくとも動かないだろう。


「前から思ってたんですけど、セモリナさんて魔法使いなのに結構な力持ちですよね」


「これでもわたしは村一番のか弱い乙女なのよ」


「えっ? その力で?」


「なによ? なんか言いたいなら言いなさいよ!」


 セモリナさんに遠回しに女らしくないと言ってしまって慌てて取り繕うソイル。


「すごい可愛いのに、似合わないぐらい力持ちじゃないですか? 僕じゃ敵いませんよ」


「村の外の外の人と比べたらね……。村の中で一番力が弱いからお父さんに魔法担当に任命されたぐらいだし」


 この力で最弱なのかよ。


 この村の住人は恐ろしい。


 村人とは喧嘩だけはしないでおこう。


 ソイルはそう心に誓うのであった。


「一応形にはなったわね」


 高さ6メトルの壁の様な防御壁の枠組みが出来上がった。


「あとはソイルくんがこの枠組みの空洞にセメントを流し込んだら完成よ」


 セモリナさんに抱えられて木の上に登るソイル。


 あまりの高さに目が眩み足が震えるがセモリナさんの前で男としてカッコ悪いとこは見せられない。


 ソイルは勇気を振り絞り虚勢を張り魔法を唱える。


「セメント! セメント! セメント! セメント! セメント!」


 いい感じでセメントが溜まり始めた。


 だが、満タンになろうとしたとき防御壁が崩壊しべちゃっと崩れた。


「なっ!」


「えっ?」


 狼狽えるセモリナさんと、ソイル。


「崩れちゃったわよ」


「崩れちゃいましたね」


「どうしたらいいのよ?」


「どうしたらいいんですかね?」


 途方に暮れる二人であった。


 *


 とりあえず、屋敷に戻っているケイトさんに助けを求めた。


「セメントを流し込んだら壁が崩れちゃったって?」


「そうなんです」


 ケイトさんと現場を見に戻って来た。


 惨状を見てケイトさんはなにかが分かったようだ。


「液状のセメントを大量に流し込むと、内部の圧力が上がって中からレンガの壁が崩壊するのね……わたしが壁を押して倒した時のように……」


「どうにかならないんですかね」


「少しづつセメントを流し込んで乾くのを待ちながら作ればいけるとは思うんだけど面倒よね……」


 そう呟いてケイトさんは新しい図面をスケッチする。


 描いたのは1.5メトル四方の箱状の立方体だ。


 中にはセメントが充填されている。


「これを作ってみて。レンガの基本壁の組み合わせで簡単に作れるはずだわ」


 これは簡単に作れた。


 入れるセメントの量が少ないせいか、セメントを流し込んでも崩れたりしない。


「出来ましたね」


「うん、いい出来ね」


 でもセモリナさんは不満なようだ。


「こんな物じゃゴブリンでも簡単に超えられて防御の役に立たないわよ」


「これだけじゃね」


「でもこう組み合わせれば話は変わるわよ」


 そういって、最初の防御壁の図面を描き直すケイトさん。


 最初の図面には細かい線が無数に描き込まれていた。


「これはなに?」


「この四角いブロックを基本単位にして、物を作るのよ。それは積み木のようにね。ソイルくん、セット魔法でこの四角い箱をブロックとして登録して」


 ブロックを積み上げて物を作る?


 まさに積み木じゃないか。


 凄い発想だな。


「ケイト天才よ!」


「わたしをなんだと思ってたのよ」


 ケイトさんはやたら自慢気である。


 ブロックを積み上げてジョイントの魔法で接着し防御壁は完成。


 それをセット魔法で更に登録し基本防御壁は出来上がった。


 *


 一日の作業を終えたソイルはお風呂で汗を流していた。


「それにしても今日作ったブロックのセット魔法は面白いな。実際に現場で作る前に積み木で検証もできるしな」


 すると目の前で声がした。


「そうでしょ!」


 タオル一枚の姿のケイトさんがソイルの目の前で湯につかってる。


「ななな!」


 タオル姿のケイトさんが突然目の前に現れて慌てまくるソイル。


 お風呂から飛び出ようとするとケイトさんにがっしりと肩を掴まれ湯船にもどされた。


「ここまで頑張ったんだからご褒美ちょうだいよ」


「ご、ご褒美?」


「そうね……いきなり結婚するのもムードが無いから……最初はハグぐらいでいいわ」


 そう言って無理やり抱きついてくるケイトさん。


「ケ、ケイトさん?」


 ソイルは女の人に抱きつかれたことなんてないから顔が真っ赤だ。


 しかも相手はタオル一枚である。


 おまけに胸の膨らみが潰れるぐらい密着している。


「ソイルくんは結婚を前提に付き合う相手は年上のお姉さんじゃダメ? わたしは年下でも全然OKよ! というかむしろご褒美! ぐふふふふ」


 ケイトさん、目が逝ってる。


「僕にはセモリナさんという将来を約束した人がいるからダメです!」


「セモリナなんてどうでもいいの。ソイルくんにその気がないなら既成事実を作るしかないわね。目を瞑ってればすぐ終わるから少しの我慢よ」


 そういってお湯からガバッと立ち上がるケイトさん。


 その時背後から地獄の番人の呻き声が聞こえた。


「ケイトオオオオオ!」


 地獄の門番の形相をしたセモリナさんだった。


 五分後。


 ケイトさんはボコボコにされて湯舟にぷかぷか浮かんでいた。

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