建築の達人
日の入りの僅かに前、ソイルが井戸で泥まみれの顔を洗っているとセモリナさんがなにか大きな荷物を持って戻って来た。
馬から降ろされる大きな麻袋。
それと同時に「うぎゃー!」という叫び声と「なにするのよ!」との罵声。
荷物だったと思った物は女の人だった。
「ソイルくん、建築に詳しい人を連れて来たわよ」
それはどう見ても連れてきたというよりも拉致。
ソイルは慌てて麻袋の中でロープでグルグル巻きにされた女の人を
拉致されて連れて来られたのは小柄なメガネっ子だ。
「こんな危ない所には来たくなかったのになんで無理やり連れてくるのよ!」
頭から湯気が出そうなくらい怒っていた。
ソイルは女の人に平謝りする。
「どうもすいませんでした」
頭を下げて誠心誠意の謝罪だ。
すると、小柄な女の人の目が肉食獣のように輝く。
「あら? 見かけないかわいい子ね?」
「お初にお目にかかります。この村に土魔法の修行に来ているソイル・アンダーソンと言います」
「わたしはケイト、18歳独身、土魔法建築の専門家、絶賛彼氏募集中よ! もちろんソイルくんも独身よね?」
「ええ、まあ、独身です」
さすがに肉食獣の目の前ではセモリナさんと婚約しているとは言えない。
「セモリナから建築の面倒を見てくれと言われてるんだけど、なにをしたいの?」
「この村に魔獣が入り込まないような城壁みたいなものを作りたいんです」
「村の防壁ね」
一人でうなずくケイトさんにソイルは状況を説明する。
「ええ。レンガを積み上げて試作をしてみたんですけど僕が寄り掛かっただけで倒れちゃったんです」
「素人あるあるね。わたしが来たからもう安心していいわよ」
笑っていたケイトさんだけどしばらく笑った後に目が厳しくなる。
「でも村の防壁を作るのは簡単じゃないわね。多分無理よ」
無理って、どうして?
この辺りは地盤が弱いとか問題があるんだろうか?
ケイトさんはその理由を説明する。
「防壁を作るならとんでもない数のレンガが必要なの。こんな小さな村でも、高さと外周を考えたらそれこそ国家予算レベルの材料がね。そんな数のレンガを買えるの?」
「ふふふふ、ケイトくんあまいな」
勝ち誇った表情をしてケイトさんに指を突き付けるセモリナさん。
失礼だから
「材料費はタダよ。レンガと砂はソイルくんの魔法でいくらでも出せるし、セメントは鍾乳洞に行けばいくらでも取れるわ」
「ほう。でも普通は魔法でレンガを出せても一日50個が限界。防壁を作るほどの数のレンガなんて一生掛かっても魔法では出せないわよ。城壁を作れるぐらいの数のレンガを出せるそんなすごい人は見たことないわ。家一軒分のレンガを明日の朝までに出して見せたら防壁を作る件、考えてもいいわ」
勝ち誇ったように笑うケイトさん。
セモリナさんも勝ち誇ったように笑う。
「ソイルくん、レンガを出しなさい。闘剣場に砂の山を作り出したきみの実力を見せるのよ!」
ソイルはレンガ《ブリック》の魔法を使う。
『レレレレレレレレレレレレレンガ!』
すると目の前に家一軒分のレンガが積みあがった。
「どしぇー!」
ケイトさんはおしっこを漏らしそうな勢いで驚いていた。
「どどどどど、どうよ?」
そんな数のレンガが一瞬で出るとは思っていなかったセモリナさんも驚いている。
スカートを押さえていたから、多分ちょびっとおしっこを漏らしてると思う。
「これならいけそうね。でも……」
「なにか問題でもあります?」
「セメントを使ったらダメよ……」
建築の達人のケイトさんはそう言って瞳を輝かせた。
*
ケイトさんはカバンの中をゴソゴソ漁ると土魔法の書いた本を取り出した。
「これはね、建築に使える土魔法を書いてある本なの」
ケイトさんによると土魔法は建築魔法とも呼ばれていて、非戦闘用の魔法が多いのもあって一般の評価も低いんだとか。
おまけに魔力コストが高くて、鍛錬の末に習熟度を上げて魔力コストを下げないと満足に使えない魔法らしい。
「でも、それとセメントを使ったらいけないのは何か関係あるんですか?」
「それはね」
そういってページをめくるケイトさん。
とあるページを開くとそこには「セット魔法」と書いてあった。
「セット魔法?」
「この本には詳しく書かれていないんだけど、全ての材料を魔法で出した素材を使って作った物に限って、新しく魔法を作れるのよ」
「どういうことです?」
ソイルとセモリナさんはケイトさんが言っていることが理解できず首を傾げる。
「魔法で出した材料だけで作った建物、例えば『家』とか『風車』とかをね、セットとして登録して魔法一発で出せるようになるの」
「それって……壁も?」
「そう、10メトル位の長さの壁を作れば後は『壁』というセット魔法を唱えまくれば村を囲む防御壁があっという間に完成よ」
要するにセット魔法で最初の一個をコピーしまくれるらしい。
「わたしも使うのは初めてだから本当に出来るかどうか分からないけど試してみない?」
「ぜひとも!」
ソイルはセット魔法を試してみることになった。
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