剣の達人

 セモリナさんはため息をく。


「やはり魔法を使うとはいえ、魔法で出したレンガを手で組みあげるから建築未経験の素人には厳しいわね」


「シェーマスさんなら建築にも詳しいですかね?」


「シェーマスはダメよ。あの人は農業馬鹿だから畑仕事以外のことは興味が無いし、からっきしダメなの」


 やっぱりシェーマスさんは農作業以外はダメなのか。


 他に詳しそうな人も知らないし、こりゃ完全に積んだな。


 ソイルもため息を吐く。


 するとセモリナさんが任せなさいとドンと胸を張った。


「今からだと日の入りに間に合うか少し怪しいけど、隣町に建築に詳しい知り合いがいるから今から行って連れて来るわ」


 セモリナさんは早馬に乗り村を旅立つ。


 旅立ち間際セモリナさんは「今日はお父さんと剣技の訓練でもしててね」との言葉を残していった。


 *


 セモリナさんの言葉通りブランさんの元にやって来たソイル。


 ブランさんは家の庭で巨大な岩を持ち上げ一心不乱に筋トレをしていた。


「どうしたロックの息子よ?」


 足元には汗の水たまりが出来ていた。


「筋トレですか?」


「そうだ、いつ国王から魔物討伐の招集が掛かるかわからないからな。こうして毎日訓練をしてベストな筋肉を保っているんだ」


 流石、剣の達人、腕自慢だけはある。


 ソイルの父親のロックがここまで真剣に訓練をしていたことを見たことはない。


「ところで、お時間よろしいですか?」


「どうした?」


「今日はセモリナさんが出かけるからブランさんに剣の訓練をしてもらいなさいと言われたんですが、剣を教えて頂けないでしょうか?」


 すると満面の笑みを浮かべるブランさん。


「セモリナの言付けなら頑張らない訳にはいかないな」


 そういって庭の倉庫から木刀の山を持ってきた。


 こんなに沢山の木刀をどうする気なんだ?


「俺が木刀でソイルを攻撃するから、お前はその木刀で攻撃をひたすら受けて耐えろ」


「受けるだけですか? 僕は剣技を失ったから少しでも剣を振って剣のスキルを取り戻したいんですが?」


 ソイルは必死に懇願するが、ブランは一蹴した。


「なにが剣を振りたいだ。剣を振れるのは防御を完璧に出来るようになってからだ。剣を振れなくとも死ぬことは無いが、敵の攻撃を食らったら死ぬぞ」


「攻撃を食らったら死ぬ」と当たり前のことをさも格言ぽくいうブラン。


 ブランはソイルに木刀を投げて渡す。


「本気で打ち込むからな! 必死で耐えてみせろ!」


 ブランの猛攻が始まった。


 その剣圧はソイルの父親のロックとは比べ物にならず、ブランの攻撃を受けた木刀は空の彼方へと弾き飛ばされた。


「ちゃんと受けろと言ったよな? それでも剣の経験者なのか?」


 何度やってもソイルの木刀は手から弾き飛ばされた。


「ロックの野郎はこいつになにを教えてたんだか……。あいつは弱いだけじゃなく教えるのもダメだな」


「許さない……許さない……」


「ん? どうした?」


 ソイルは腹の底から声を出した。


「剣を使えない僕を馬鹿にするのは構わない。でも、父さんを侮辱するのは許せない!」


 ソイルはそういうと木に巻き付いていたツタをむしり取り自分の腕に木刀をしばりつけた。


「これならもう木刀は弾き飛ばされない。続きをお願いします!」


「いいねー、その目。俺も本気でやらねーとな」


 ソイルは再び木刀を構える。


 そしてブランの重い剣圧の攻撃を受け止める。


 木刀は手から弾き飛ばされなかったが、今度は木刀ごとソイルが吹っ飛んだ。


 ゴロゴロと地面を転げるソイル。


 ソイルは一撃でボロ雑巾のようになった。


「あちゃー、つい本気出してやり過ぎちまったぜ!」


 ブランが駆け寄るとソイルは木刀を杖代わりにして立ち上がった。


「まだやれます!」


「おい、そんなボロボロで大丈夫かよ?」


「やれるって言ってるんだから、やれるんだ」


「いいね、その目!」


 ソイルはふたたび、三度みたびと弾き飛ばされるが、日が沈み始める頃にはブランの重い剣撃を受けられるようになっていた。


「こりゃすげーな。こんな短時間で俺の攻撃を受けられるようになった奴は初めてだぜ」


 ブランはやたら感心していた。


 それには理由がある。


 ソイルは剣のスキルを失ったとはいえ、元々剣の才能にあふれる剣聖の母親の血を受け継いでいた。


 その才能を何かのきっかけで開花させればブランの攻撃を受けるなど造作もない事。


 今回のように、ブランの本気の剣圧の攻撃を受けたように……。


 ソイルは剣技のマスタリースキルを取り戻しただけではなく、受け流しのスキルまでマスタリーに熟練度を上げていた。


 まさに剣の達人。


 だがソイルが自らの剣の才能に気が付くのはかなり先のことであった。

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