お風呂
夕食になる前に、訓練でかいた汗を流しに風呂に入る。
一人で湯舟に浸かってるとセモリナさんがバスタオル一枚の姿で現れた。
「セ、セモリナさん?」
大浴場とまでとはいかないけれど10人ぐらいは一緒に入れるサイズの湯舟なので二人で入ってもおかしくは無いんだけど、セモリナさんは女の人だし、しかも許嫁のいる身。
許嫁以外の男と入ったらまずいんじゃないかとソイルは狼狽える。
セモリナさんはソイルから少し離れた所で湯につかった。
「くーっ! やっぱお風呂はいいね。たまらないわ!」
おっさんみたいな声を上げ肩まで湯に浸かるセモリナさん。
湯気でよく見えないけどタオルが開けて大事なとこが見えてるような気もしなくない。
異性のセモリナさんが男のソイルと一緒に湯舟に入っていいものか聞いてみた。
「セモリナさんは女性なのに男である僕と一緒にお風呂に入って問題無いんですか?」
するとセモリナさんは膨らみがタオル越しに感じ取れるぐらいソイルのすぐ傍まで近づいて来て少しも気にしてない感じで答える。
「この村じゃ村人全員が家族みたいなもんだしね。お風呂ぐらいで気にする人はいないよ」
「そんなもんなんですか?」
「それにソイルくんと同じお風呂に入るのは2度目だし!」
「マジですか?」
そんなことあったの?
セモリナさんと会ったのは今日が初めてのはずなんだけど……。
「まあ、子どもの頃だからソイルくんはもう覚えてないかな?」
ソイルは子どもの頃の記憶を漁ってもそんな記憶はどこにも無かった。
「4歳になりたての頃だからね。覚えてなくて当然だよ。それに私とソイルくんが許嫁だったのも覚えてないでしょ?」
「えっ? 僕とセモリナさんて許嫁だったんですか?」
僕の許嫁ってヘレンだったはずだけど?
ソイルはセモリナさんが言ったことが信じられなかった。
「ソイルくんに好きな子が出来たから私たちの婚約は解消になっちゃったんだよね……悲しかったな」
好きな子が出来たって……ヘレンとの婚約の事だよな?
それは覚えてる。
僕が望んでした事だ。
ヘレンの事は好きでもなんでも無かったけど、マイケルへの嫌がらせの為に婚約をした。
でも許嫁が既にいるのを知ってたならそんなことは絶対にしなかった。
「ごめん。セモリナさんが許嫁って知ってたら他の子に告白なんてしなかったよ」
セモリナさんは僕の謝罪を聞くと同時に涙目と言うか泣いた。
「ソイルくん、今更謝っても遅いよ……。春には見たこともない許嫁の所にお嫁さんに行かないといけないのに……」
「ごめん……」
僕が涙目になって後悔していると、突然セモリナさんが笑い出した。
「あははは。私が泣き真似したら、男なのに本当に泣いてるの。かっこ悪い」
え?
騙された?
「そりゃソイルくんに婚約破棄された時は悲しかったけどさ、新しい許嫁の人とは会ったことは無いけど文通を通してとても優しい人なのはわかってるんだ。だからソイルくんはなにも気にすることはないよ」
そうか。
幸せでいてくれるならそれでいい。
「むしろ私みたいないい女を取り逃したことを後悔してね」
「うぐっ」
セモリナさんはヘレンとは違い明るくて話をしてて楽しくて、取り逃したことを一生後悔しそう。
あんまりお風呂に長く入ってると
決して悔しくて逃げるように出たんじゃないから……。
*
夕飯の時間になると食卓には村長のブランさん、セモリナさん、そしてメイドさんだけだった。
「あれ? セモリナさんのお母さんは?」
「目の前にいますよ」
とセモリナさん。
「まさか?」
「そのまさかです。セモリナの母のフラワーです」
と、メイドさんが答える。
こんなに若いのにセモリナさんのお母さんなの?
するとブランさんが笑い出す。
「成人の儀に来ていた一番の
フラワーさんにお盆で引っ叩かれるブランさん。
「そうなんですよ。この人、俺と結婚するか、しないなら俺はこの場で腹掻っ捌いて死ぬから見ててくれって……」
それ告白と言わない。
選択肢が無いから脅迫です。
「だってソイルの父親のロックの野郎が俺らのパーティーのヒロインのサンドラちゃんに告白して両想いになって羨ましかったんだからしょうがないだろ」
「バカだよねー」
「バカですよね」
家族に散々な言われようのブランさん。
思いっきり涙目になっている。
「この人、やることなすこと滅茶苦茶だけど、愛してくれているのは間違いないのでこの人と結婚して私は幸せです」
肩を寄せ合う二人。
勢いで行動することの多いバカな父親だと頭を下げるセモリナさん。
なにか気になっているのか神妙な顔をするブランさん。
「そういやソイル、おめーの許嫁はどうした?」
「捨てられました」
「えっ?」
「マジか?」
ブランさんは悔しそうに机を叩いた。
「元々セモリナとお前ソイルは許嫁だったんだよな。でもよ、ロックの野郎が息子に好きな人が出来たから婚約破棄させてくれって頭下げられてな。拳骨3発で許してやったわ」
「もしかしたら僕とセモリナさんと一緒になってた未来もあったんですかね?」
「かもなー」
「いや……でも……」
と顔を赤らめるセモリナさん。
「……ソイルくんには私なんて雑で可愛くない女は向いてないし……」
「セモリナさんはすごく可愛いですよ」
「そ、そんなこと……」
セモリナさんとソイルがいい雰囲気になり掛けていると、ブランさんが間に割って入った。
「待った! セモリナには許嫁がいるんだからソイルは絶対に手を出すなよ!」
「あ、はい。もちろん」
「積もる話はあると思いますが、冷める前に食事を食べて下さい。お肉が冷めたら固くなっちゃいますよ」
「ソイルが初めて狩ったボアだろ? なかなかいけるな」
「おいしい」
「おいしいわ」
そういうもののソイルには全然美味しく感じられなかった。
なにかが圧倒的に物足りない。
ソイルが浮かない顔をしてるとブランが聞いてくる。
「どうした、ソイル?」
セモリナさんは察してくれたようだ。
「お父さん、ソイルくんは外から来た人だから塩とか香辛料が無いとダメなのよ」
何かが足りないと思ったらそれか。
ソイルは納得する。
「そうだったか。ソイルに香辛料を持ってきてやれ」
「お父さんスパイスはもうないですよ」
「最近隣村まで買い出しに行ってないしね」
ちなみにこの村には宿屋だけじゃなく雑貨屋もないそうだ。
「じゃあ明日調味料の買い出しに行くか」
「僕の為にわざわざいいんですか?」
「最近手紙も取りに行ってなかったしな。いい機会だから気にするな」
「今日はこれで我慢して食べてね」
「はい」
ソイルが初めて狩ったボア肉は香辛料を使ってないので肉臭かった。
でも、みんなで囲む初めての食卓は最高に楽しい。
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