グレートボア
Cランク魔獣のグレートボアを前にしてソイルは戦慄した。
勝てない。
勝てるわけがない!
相手は中堅冒険者パーティー1パーティーで対処するのが推奨されているCランク魔獣。
しかも体重差は100倍以上。
対するソイルはスキル無しの片手剣を持つのみ。
井戸に飛び込んで逃げてしまえば助かるかもしれないが、闘剣場に残ったセモリナさんはどうなる?
なにも知らないセモリナさんが戸締りを終えて外に出てきたらグレートボアの新たなターゲットになることは間違いなかった。
戦うしか選べる道は無い。
覚悟を決めるソイル!
ソイルは冷静にグレートボアを観察する。
グレートボアは極稀に魔法を使える特殊個体がいるようだが、不意打ちで呪文を使ってこなかったことを見るに魔法の使えない通常個体のようだ。
それならば気を付けるのは突進のみ。
盾のマスタリースキルを持っていた頃なら容易にグレートボアの巨体の突進を受け止めることが出来たろうが今は盾スキルを持っていない。
さらに言えば今は盾自体も持っていない。
突進に巻き込まれたら終わりだとソイルは冷静に判断する。
ソイルがするべきことはグレートボアの突進をかわし、すれ違いざまにグレートボアの一番柔らかい部位の腹に剣を突き立てること。
考えがまとまるより早くグレートボアの突進が始まった。
「ブンモー!」
予想よりも速い突進!
土煙を上げてグレートボアが暴れ馬の様な速度で突っ込んできた!
地面を転がり避けるソイル。
そして、すれ違いざまにグレートボアの腹に剣を突き立てる。
剣と盾のスキルは失ったが立ち回り自体は忘れていない。
「やった!」
剣スキルが無くとも今まで毎日鍛錬していたこと。
剣には自信がある。
勝ちを確信したソイル。
だがそれは早計だった。
「嘘だろ?」
剣はグレートボアに弾かれどこかにすっ飛んで行った。
なんで弾かれる?
グレートボアと同じような大きさの暴れ牛を容易く始末したことのあるソイルには信じられなかった。
剣のマスタリースキルが無いとここまで弱くなる物なのか?
ソイルは絶望する。
「もう無理だ」
そう思った時に父ロックの声が心に浮かぶ。
『この馬鹿野郎!』
『我が息子なら天職のあるなし関係なしに試合に勝ち騎士になってみせろ!』
続いて妹のマリーの声も浮かぶ。
『見損ないました、お兄さま』
『天職が土魔法なら土魔法で試合に勝ってみて下さい!』
剣が無ければ土魔法がある!
でもどうやって?
ソイルの前には血走った目のグレートボアが更なる突進を始めていた。
やれることはただ一つだけ。
考えている暇は無いとソイルは土魔法を唱えまくった。
「サンド! サンド! サンド! サンド!!」
そして地面を転がり突進を避けるソイル。
グレートボアは突進を終えると地面にうずくまり苦しみだした。
「やった!」
グレートボアが苦しむ姿を見てニタリと笑みを浮かべるソイル。
ソイルはグレートボアの目を狙ってサンドの魔法で砂粒を打ち込みまくったのだ。
流石のグレートボアもこの目つぶし攻撃には堪らない。
グレートボアは涙を流し砂粒を流し出そうとしていたのだ。
その隙をソイルが見逃すわけが無かった。
ソイルは剣を拾うと腹以上に柔らかいグレートボアの目に剣を突き立てる。
頭から剣の柄を生やしたグレートボア。
何度かの
それを見て地面にへたり込むソイル。
「や、やった……」
達成感なのか死闘からの解放感からなのか何故か笑いが込み上げてくるソイル。
その笑い声を聞いたのかセモリナさんがやって来た。
「どうしたんです?」
「土魔法でグレートボアを倒しました」
倒されたグレートボアを調べながらやたら感心している。
「もうボアを倒せるほど土魔法を使いこなしてるんですね」
「はい」
本当はギリギリの命のやり取りだったのは内緒だ。
セモリナさんはグレートボアを見て笑顔を浮かべている。
「ソイルくんがいきなりやって来たから夕飯の食材をどうしようか悩んでいたんだけどこれで解決ね」
「はははは」
その笑い声が大きかったのが原因ではないだろうけど……。
「ブンモー!」
マジか?
グレートボアが息を吹き返し立ち上がった。
剣を頭に突き立てられたままのグレートボア。
なんで剣が頭に突き立てられているのに息を吹き返したのか意味が解らない。
やばい!
セモリナさんがグレートボアにやられる!
ソイルは焦りまくった。
でも、全く問題なかった。
「倒したらすぐに血抜きしないとね」
セモリナさんはグレートボアの頭から剣を引き抜くと頭をスパンと切り落とす。
頭がごとりと転がった。
セモリナさん強い。
「内臓も取り出さないとね」
そう言って腹を捌く。
「ソイルくんも食材を狩った時の処理を覚えておいてね」
と、グレートボアの血抜きを始めるセモリナさん。
いやいや、血抜きどうこうする前に、今グレートボアが復活してなかった?
今生き返ってたよね?
動揺しまくるソイル。
「ここら辺のボアは生きがいいから、再び動き出すのはよくあることなのよ」
グレートボアの処理をしながら笑うセモリナさん。
「いやいやいや、そんなことは普通は無いから!」
またまた動揺しまくるソイルであった。
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