第37話 当たり前に気づく私

 私は、悩みというより、思っていることを打ち明ける。


 まさか、この仮面をかぶったピエロのような私が紗枝ちゃん以外に弱音を吐くだなんて、昔の私なら、ありえないと思うでしょう。


「親からのプレッシャー、それが私にとってストレスで、それが今の私を作り出した。でも、別に苦しくはなかった。それが私だとそう思っていたから、でも……」


「でも?」


「成長していくにつれて、私自身の違和感、いや、異物であると実感するようになったの。その時からかな、自分がわからなくなったのわ」


 表面を求められる人物像でコーティングすることで、みんなから好感を得た。だが、その代わりに私は自分自身を失っていった。


 さらに不運なことに、親からはさらに人柄の理想を求められ、それがさらにストレスへと変わった。


 そして、気がつけば一人で静かに泣く日が多くなった。


 なぜ、一人で泣いているのかもわからず、心のままに泣いた。


「でもね、波人くんと会って、考えを改めようと思ったの」


 あの時の私は、自分が思う以上に精神ともに病んでいて、川にでも身投げしようかなって考えていた。


 本当に、私は、馬鹿だと今なら思う。


「……そ、そうなんだ。俺、あのときなんか言ったっけ?」


「ふふ、覚えてないよね。でも私にとってはかなり刺さったんだよ!こう、心に染みるというか……」


「う~~ん、本当に覚えてないんだけど……」


「むぅ、ならいいよ」


「え~~~」


 そう、別に覚えていなくたっていい。私は、覚えているから。


 今思えば、あの姿を見られた時の私よく、恥ずかしがらなかったよね。普通、泣く素顔を見られた恥ずかしすぎて、咄嗟に逃げちゃうのに。


 すると、波人くんが口を開く。


「結局は、ただのストレスだったってことか、ならよかったな」


「え、なんで?」


「だってさ、それって普通のことじゃん?人って絶対に悩みを抱えているし、ストレスなんて日常茶飯事、だから、みんなは信頼できる人に相談して解決を求める……」


 その言葉を理解するのに、数分かかった。


 そうか、私は普通に悩んでいただけで、ただ相談する勇気がなかっただけなんだ。


 頑固だった、黙っておくことで自分を守れるとそう考えていた。


 でも、違った。私みたいに悩んでストレスを抱えて、傷ついて、そんな時は信頼できる人に相談して、解消する。


 それが、当たり前なんだ。


「だから、ありがとう。悩みを打ち明けてくれて……」


「…………」


 私の瞳を見て、微笑んだ。


「渚ちゃん?」


「うぅ…うぅ…うぅ……」


 視界がぼやける。波人くんの表情がよく見えない。


「え?ちょっ……え?だ、大丈夫?」


「あっ……」


 視界がぼやけたのは涙を流していたから。それに気づくと、袖で涙を拭う。


「ご、ごめんね。なんか、涙が急に……どうしちゃったんだろう。私、気でも緩んだのかな、はは」


 なんだか、涙を流したら、心が軽くなった気がした。別に悩みが解決したわけじゃないのに。


 重かった、苦しかった心が、噓と思うぐらい、軽くて……。


 不思議な気分……。


「って、もう8時過ぎじゃん。そろそろ帰らないとやばいな……」


 波人くんがスマホを確認するとあわあわと慌てる


「もう時間も時間だし、帰るか」


「…………」


 ゆっくりと立ち上がり、お尻についた土を手で軽く払って。


「帰ろうか」


 そう言って、こちらに手を差し伸べる。


 歯を嚙みしめ、ぎゅっと我慢する。けど、私は、我慢できずに……。


 差し伸べられた手を引っ張って、そのまま抱き着いた。


「…………え?」


 私は、初めて、我慢できなかった。


ーーーーーーーーーーー


あと1話か2話ぐらいで1章完結です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る