第36話 喧嘩するほど仲がいい
別に今まで好きになっていたことを意識していなかったわけではない。
ただ今までの俺の好きは友達の好きであって、異性としての好きではなかった。
だから、俺は無意識に渚ちゃんを意識しないようにしていた。まぁ、過去のこともあるのだが、それは置いておといてと。
「…………ふぅ~~ふぅ~~一発殴り合う?」
「なぜ、そうなる」
「いや、だって、その~~そんな真剣な瞳で真っ直ぐに言われると……恥ずかしいというか……ね?」
「そんなこと言ったら、渚ちゃんだって、初恋の相手で俺に指さしてきただろ?」
「それはまぁ~そうだけど……ほら、今時、『リャイン』とかで告白する人とかもいるんだよ!」
耳を真っ赤にしながら、熱心にしゃべる渚ちゃん、照れているのか、表情が少し淡い。
おどおどしながらも、真剣に聞いてくれる渚ちゃんをまじかで見て、より実感する。
俺は渚ちゃんのことが好きであると。
「なら、今目の前で告白された渚ちゃんはうれしいわけだ?」
「うぅぅぅ……意地悪な男の子は嫌われるよ?」
「ははっ、俺はこう見えても優しい男の子だと思うんだけどな」
「そうやって、自分で言うと信憑性がないよ?」
「なんだと?」
「なに?なんか間違ったこと言った?」
ピリピリとした空気が流れるがその雰囲気すら少し居心地よく感じる両者は、にらみ合いながらふと笑い出した。
そこにあったのは楽しいという気持ちで、だからこそ、俺は一歩前へ切り出せた。
「聞かせてよ、いや聞かせろよ。渚ちゃんの……」
「ちょっと待った!!」
「え?」
渚ちゃんが待ったをかけて、深呼吸をする。大きく吸って吐いてを繰り返し、そっとこちらを覗く。
「波人くんってさぁ、私のことを好きって言ってくれるけど、今の元気な私と、クールな私、どっちが好き?」
「う~~ん。どっちもかな?」
そう言うと、返答の間もなく。
「なんで?」
と聞き返す。
すると、俺は。
「だって、渚ちゃんに変わりがないでしょ?それに、人っていうのは必ず皮をかぶってる。自分自身の本性を隠して、求められている人物像や好かれる人物像とかいろいろあるけど、そういうみんなにとって不快にならない、そんな皮をかぶっている生きていると思っているから」
その返答を聞いて、渚ちゃんは沈黙した。
「それにさぁ、なかなかいないと思うよ?本性を丸出しにできる友達なんて、だから……そんなに気にすることないよ。まぁ、何を気にしているのか俺には分からないけど……」
「そ、そうか……うん」
「どうした?」
涙を流す。ポロポロと涙を流し泣いている渚ちゃん。
何度も、手で拭うも止まらない涙に何度も、涙を拭う。
「え、ど、どうした?……俺、またなんか、変なこと……」
焦った。また間違いでも犯したのかと焦った。
俺はおどおどしながらどうしたいいかわからず、あたふたとしていると。
「ぐす……落ち着いたら?」
「目の前で女の子が泣いていて落ち着けと?無理があるだろ」
「ふん、だ、大丈夫。ただ、自然と涙が溢れ出ただけだから」
「そ、そうか。ならいいんだけど……」
でも、目の前で泣かれると焦るのは男の心理だと俺は思う。だから、こうして目の前で泣かれると焦るし、心配になる。
「はぁ~~なんか、泣いちゃった」
「泣いちゃったじゃないよ。本当に……もう」
「ごめん、ごめん。でも、なんかあふれちゃった!」
目の前で見せてくれる満遍なスッキリとした笑顔。
別に、渚ちゃんの笑顔はたくさん見てきたはずなのに、今見た笑顔が一番、可愛く綺麗で、一瞬で目を奪われた。
「波人くん?顔赤いけど、もしかして、照れてる?」
「…………う、うるさいな。照れてないし、そんな妄想を吐くなよ」
「なるほどね、そういうことにしておくよ」
さっきまでと違い、クールな素振りを見せながらも、ニヤニヤと口角を上げる。
絶対にこの表情は勘違いされているな。
俺にはわかる。このニヤニヤとした表情、絶対にそうだ。
「はぁ~これだから、見た目と表情、その場の空気間で、わかりきったような顔をする女の子は……」
「そんなふうに誤魔化そうと、理由を並べると余計にそう見えちゃうよ?」
「うぅ、渚ちゃん。急に口が達者になっているけど?もしかして、調子に乗ってます?」
「そうお見えなんですか、波人くん?もしそう見えるなら、波人くんの目は節穴だったということになりますよ?」
お互いに罵倒し合い、一歩も引かない。
「なんだよ」
「なに?」
バチバチと火花を散らして、さっきまで励ましていたはずなのに、気づけば、喧嘩に発展。
けど、俺はその渚ちゃんの表情を見て、これが本当の渚ちゃんなんだと思った。
そして、真剣ながらも、安心したようなそんな表情を俺に向けて。
「……聞いてくれる?私の悩み……」
透き通った声、河川敷の橋の下で聞いた声と同じ、耳に残るような声で、言った。
すると真剣な表情を向けられた俺は、柔らかな笑顔で。
「うん。聞かせてよ」
と返した。
俺はここではじめて、渚ちゃんの悩みを聞くことになる。
「実はね……」
そのときの渚ちゃんの声は、とても悲しさが混じった優しい声色だった。
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1章完結まであと少し。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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