第34話 渚ちゃんの初恋の相手
目が合う二人は、ただならぬ緊張感ある雰囲気が流れていた。
「………………」
「………………」
お互いに沈黙が流れ、とても気まずい空気感。
息が詰まりそうだ。なんで、こんな空気感になってしまったんだ。俺、別に何かしたわけじゃないよな?いや、もしかしたら、気づかぬうちにやってしまっている可能性も……。
脳内で駆け巡るネガティブ思考は、俺の心をギュッと締め付ける。
「ねぇ、波人くん……」
「な、なに?」
って、紗枝から素でいけって言われてたんだっけか。
「なんか、雰囲気かわった?髪型とか前髪とか、ワックスもつけてるし……」
「あ~~これは、その……けじめかな?ほら、なにか大事なことがあったら、気合い入れて見た目変えたりとか、あるんじゃん?そういう感じ?的な……」
「そうなんだ。男子ってみんなそうなの?」
「さぁな……人それぞれじゃないか?」
「………………まぁ、いいや」
また、沈黙の時間。
ここはやっぱり、俺から話を切り出すべきだろうか。で、でも、なんかそんな雰囲気じゃない気がするんだが。
でもでも、あんまり時間を使っていられないし……。
うがぁぁ~~~どうすればいいんだよ。陽キャの人だったら、ノリとかでいけんるだろうけど、陰キャの俺には無理だぁぁぁ!!
夜19時、すでに外は暗くなり始めている。
よし!!ここは俺が切り出して……。
空回りする俺の思考、そんなことを考えていると。
「ねぇ、波人くん」
「はっ、はい!!なんですか!?」
唐突に話しかけられ、びっくりして、反射的に答えてしまう俺は、渚ちゃんの顔を見る。
「そろそろ、本題に入ろよ……ねぇ?」
「………………」
悲しそうな表情の中で、なにか覚悟を決めたような表情が垣間見え、俺の心は引き締まる。
ふざけてはだめだ、心を引き締めろ、もう逃げるなと心が言っている気がした。
「そうだな、じゃあまず、ごほんッ……まずは、前の失言に対して謝りたい」
「失言?」
「そ、その……渚ちゃんを泣かせてしまったって言うか、その、機嫌を損ねてしまって言うか」
「あの時のことでしょ、それなら謝らなくていいのに。あれはただ、私が勝手に傷ついただけだから、波人くんは何にも悪くないよ」
「いや、それでも渚ちゃんに対して配慮がなかった。それに、あんな態度をとってしまったのは、俺が弱かったから。だから、謝らせて、いや、謝らさせろ」
「え?」
強い口調に驚く渚ちゃん、俺は何で驚いているのかよくわからなかった。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
「渚ちゃん……ごめんな」
「……馬鹿じゃないの?」
「……うん?」
「波人くん、私は別に謝ってほしいなんて思ってないし、その情緒不安定な口調もなくしなさい」
「口調?」
「丁寧だったり、荒々しかったりする口調よ……」
「あっ……やっぱり、紗枝の言うことを聞くんじゃなかったかな……」
素のほうがいいというから、素でいるのに……いや、そもそも今を変えるほうが無謀だったんだ。いつも通りいこう。
「ほら、波人くん……もう少し近寄って」
「あ、うん」
お互いに後ろにある壁にもたれかかり、お互いの距離を縮める。
薄暗い広々とした空間、空は暗く、空一面真っ暗のが目でみて伺える。
「初めて会ったときは、雨が降っていたよね」
こちら見えて、突然、口を開く渚ちゃん。澄んだ瞳がこちらを覗く。
「そうだね……懐かしいな。もう何年も前の話に思えるよ……」
「それは言い過ぎでは?」
「時間の感覚は人それぞれだからね。でも、あの時はびっくりしたよ」
「びっくり?なにか、驚くことでもあったったけ?」
とぼけたような顔をする渚ちゃんに俺は「え!?」と驚く。
「え~~~だって、俺が知ってる渚ちゃんと雰囲気が違ったんだよ?一般的に知られている渚ちゃんは可愛くて愛想がよくて、テストの順位も上位の才女で、運動もできる、完璧に近いイメージだったけど、いざ会うと、愛想よくないし、冷たいし、かわいいというより、クールだったし、あの時はがちで戸惑ったよ。これ本当ね」
「それは、しょうがないじゃん。あの時は、結構メンタルがきてて、一人になりたかったんだから」
ぷくっとほっぺを膨らませながら、こちらを見つめてくる渚ちゃんがとてもかわいいと思った。
「……波人くんだって、一人になりたい時ぐらいあるでしょ?」
「それはまぁ……あったかな?」
「え!?もしかして、ないの?」
「う~~~ないかな。どちらかと言うと、家族とかに相談するかも」
それに、基本悩み事を抱えると勘のいいうちの妹の真希に感づかれて、洗いざらいしゃべらされるんだよな。
今思うと、真希ってよく俺のこと見てるよな。我ながら恐ろしい妹だ。
「なんか……思ったより強い?」
「強いってなにが?」
「メンタル?」
「俺のメンタルは豆腐よりもろいぞ?」
「…………あはは、なにそれ」
「わ、笑うなよ……てか笑う要素なんてなかっただろ」
くすくすと笑う渚ちゃん、その様子を見ていると、自然と俺も笑みがこみ上げた。
「波人くんってさぁ、初恋ってしたことある?」
「初恋?それはもちろんあるよ。いつだったかな~~幼稚園の頃?だったかな……」
「へぇ~~私の初恋は、高校生の時だったよ」
「こ、高校生?」
渚ちゃんってそんなに遅い初恋だったんだ。高校生ってことは1年生のときか~~まぁ女子って男子より精神年齢高いって聞くし、可愛かったり、美人だったり、優しくされるだけで恋に落ちる男子とは考えた方が違うんだろうな。
「女子ってみんなそうなのか?」
俺はふとした疑問を口にした。
「どうなんだろう……遅いほうではあると思うよ」
「遅いほうか……」
初恋をする時期は人それぞれ、男女は関係ないのかな……まぁ、そこまで深く考えることでもないか。
ふと、渚ちゃんを見ると、じぃ~と顔を近づけてこちらを見つめている。
「か、顔が近い……」
「波人くんってやっぱり、鈍感系男子?」
「鈍感系ってなんだよ……」
よく顔を見ると少し頬が赤い。
「はぁ~~~もう……」
なんだ?なんでため息?うん?なぜ?
疑問がポンポンと浮かんでくる中、渚ちゃんは俺に向けて指をさす。
「な、ど、どうした?」
「…………」
黙ってしまった。でも、自然と気まずい雰囲気じゃないことは感覚的に分かった。
だが、わからない。渚ちゃんが向けてくる人差し指。
「な……波人くん」
「なに?」
急に俺の名前を呼ぶから俺はそれに答える。
「は、初恋……」
「……うん?」
俺の名前に「初恋」……どういうことだ?
名前と初恋、名前と初恋、名前と初恋、名前と初恋、名前と初恋、名前と初恋、名前と初恋、名前と初恋、名前と初恋、名前と初恋、名前と初恋、名前と初恋……うん?
俺はふと、言葉のかみ合わせに気づいた。
いやいや、まさか、そんなわけないよ。
でも、念の為、念の為、聞いておこう。その時の俺はすでにテンションが上がっていて、正常ではなかった。
「も、もしかしてだけど、初恋の相手を言ってます?」
俺の名前に初恋という単語、これを切り離して考えるよくはないが、この二つをつなげてみると、「波人くん、初恋」ほら、ちょっと雑だけ文になる。
「…………」
黙っている渚ちゃんが顔を隠しながら、コクッと頷いた。
「…………あははははは、う~ん。いやいや……マジで」
その言葉に再び渚ちゃんは頷いた。
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