第28話 紗枝との作戦会議①

 家の前に到着した二人。


「ここが、波人くんの家なんだね」


「まぁ、そうだけど…」


 まさか、紗枝を家に招き入れることになるなんて、あまりにも自然流れだから、ついつい、了承してしまったじゃないか。

 けど、まぁ、今頼れるのは渚に一番近い、紗枝だけ、ここは我慢だ。


 それに。


「お邪魔します……」


「どうぞ…」


「へぇ〜〜あれ?」


「今日、家族みんな、外に出かけてるんだよ。それに俺の部屋、2階だから」


「そ、そうなんだ…」


 少しだけ、頬が赤い。暑いのか?


「じゃあ、じゃあ〜〜波人くんの部屋にお邪魔します」


 俺は紗枝を連れて、自分の部屋を案内した。


「ここが波人くんの……」


「あんまり、ジロジロ見ないでほしいんだけど…」


「あ、ごめんね」


 これで何回目だろう。自分の部屋に女子を招いたのは……。


「よし、じゃあ、早速だが、俺の意見を聞いてほしい」


「ドンと来て!!」


「俺はやっぱり、渚とは面と向かって話さなきゃいけないと思ってる」


「うんうん」


「けど、俺が渚に話しかけて、二人っきりの場を作るのはみんなに誤解を招いてしまう」


「うんうん」


「その誤解を生まないように、二人っきりになれる方法はないか……紗枝、君の意見を聞かせてほしい」


「ねぇねぇ、これって中学生の卒業アルバム?」


「話を聞けぇぇ!!」


 俺はついつい反射的に怒鳴ってしまう。


「ごめんごめん、安心して話はちゃんと聞いてたから。それよりこのアルバムって」


「やめろやめろ!!」


「いいじゃん!!」


 俺はアルバムを取り返そうとするが、それを拒絶するように、離さない。


「どれどれ…」


「ちょっ!!」


 もう最悪だ。中学時代なんて本当にいいこともいい思い出もないのに……。これが陽キャ女子クオリティーってやつなのか。


「波人くんは…え〜〜と」


「はぁ〜〜」


 ため息しか出ない。せっかくの相談の場、もしかして、アルバム見て終わらないような?そんな疑問が浮かぶ。


「え!?ねぇねぇ波人くん!!もしかして、これが波人くん!!」


 そう言いながら、アルバムの中の一枚の写真を指差す。


「そ、そうだけど……」


「え、全然雰囲気が違う……っていうか、むしろ、こっちの方がイケメン?」


「失礼だぞ」


「あ、ご、ごめんね。ただ、すごいイメチェンだね」


「はぁ〜〜だから、見られたくなかったんだよ」


 中学生の頃の俺は、ヤンチャというか、まぁいわゆる陽キャの部類に入っていたと思う。自覚はないけど。


 とにかく、黒歴史だ。だから俺は、高校生に上がる際に、髪型や、口調などいろんなところを矯正した。最近、戻りつつあるけど。


「どうして、イメチェンしたの?興味あるな、私」


「別に俺のことなんてどうでもいいだろう」


「気になるじゃん!!ねぇ、いいでしょ?」


「紗枝は何しに俺ん家に来たんだよ」


「漁りに?」


「………」


 俺は不穏な目つきで紗枝を見つめた。これが疑いの瞳だ。


「じょ、冗談だよ……」


「じゃあ、早速、作戦会議だな」


「な、なんか、波人くんって、そんな顔もできるんだね」


「はいはい。話を逸らさない」


「逸らしたつもりはないんだけど……」


 こうしてやっと向かい合った俺と紗枝。


 お互いに見つめ合い、その空気感は少し、気まずいものだった。


 思ったより、女子と二人っきりって気まずいな。


「ゴホンっ、じゃあ、早速だけど…」


「ちょっと待って!!」


「今度はなんだよ」


「要約すると、二人っきりの場を私が準備するればいいんだよね?」


「あ……あぁ、そうだけど…」


「なら、私にいい方法があるよ」


「本当か!!」


 さすがは紗枝。なんやかんや、渚と一緒にいるだけのことはある。って俺って何様だよ!!


「うん。だから、私の言うことちゃんと聞くんだよ?」


「え…あぁ〜うん」


 一瞬、背筋が凍えた。


 だ、大丈夫だよな……。


 その時の紗枝の顔は笑っているのに、笑っているように見えなかった。

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