第一章:終幕 再び河川敷の橋の下で

第27話 頼れるのは女子心がわかる人

 学校登校日、俺はどうやって渚を呼び出すかを考えていた。


「よっ!!波人!!って何考え込んでるんだ?」


 後ろから肩を回す正志くん。


「あ〜ちょっとね……」


「やめてやれよ。正志…」


「おい、拓也、しれっと波人と仲間雰囲気を出すな。俺がいじめてるみたいじゃないか」


「違うのか?」


「ちげぇよ!!てかむしろ、拓也の方が、いじめてるだろ!!」


「俺はもう虐めから手を洗ってるんだよ。今は、どうやって後悔させるかを考えててって、なに言わすんだよ!!」


「お前が勝手に喋ったんだろうが!!」


 二人は会うたびには喧嘩をしている。


 まぁそれだけ仲が良くなったのだろう。いいことだ。


 けど、今は静かにしてほしいかな。


「二人とも、今日もやけに騒がしいね」


「そうか?」


「いつものことだろ?」


 二人ももはやこれが挨拶だろう?って雰囲気だ。


「とりあえず、静かにしようか?」


 俺は笑顔で二人に注意した。別にイラついているわけではない。


 そう、決してイラついているわけではないのだ。


「なんか、今日の波人、怖くない?」


「同感だ…」


 俺の言葉が聞いたからか、二人は静かにしてくれた。


 ちゃんと言葉にすれば伝わるんだな。


 こうして学校に登校し、普通に授業が始まる。


 そして何もできないまま、授業が終わった。


「マジか……」


 何もできないまま全授業が終わった。そもそも対面以前に、二人で話し合う場を作るのが難易度高すぎる。


 渚は特に気にせずに授業を受けていたし、特に変わった様子もなかった。


 今更ながら知る、自分の情けなさを、勇気の無さを……。


「ど、どうしたらいいんだよ〜〜〜」


「何しているの?」


 上を見上げると黒髪ロングヘアーが最初に視界に映る。


「紗枝?」


「うん。そ、そうだけど…何か悩みごと?」


「渚はどうしたんだよ…」


「渚ちゃんなら、帰っちゃった。なんか用事があるとかで…」


「へぇ〜〜〜」


 そういえば、正志くんも拓也くんもいない。そうか、もうみんな帰っちゃったのか。なら、どうして紗枝はここにいるんだ?


「紗枝は帰らないのか?」


「私は、そ、その……ちょ、ちょっと先生のお手伝いしてたから、今から帰ろうかなって思っていたんだけど、そしたら、波人くんだけ教室で一人……」


「そ、そうか…」


 恥ずかしんだけど、すごく恥ずかしんですけど……。


「じゃあ、俺は帰ろうかな…」


 席から立ち上がる。すると。


「そっか、なら一緒に帰ろうよ」


「え…まぁいいけど」


「うん!」


 最近、紗枝と会話してなかったけど、なんか大人っぽい?いや、なんか色っぽい?いやどれも違うようで正解のようで。とにかく、前あった時より雰囲気が違う。


 こうして俺は紗枝と一緒に帰ることになった。


「なんか、変な感じだ」


「変な感じって、そんなに変かな?」


「この組み合わせがね」


「確かに、あんまり喋らないもんね」


 正直気まずい。ただでさえ、渚との一件もあるのに、その友達である紗枝と一緒に帰っているこの状況に心が痛む。


「ねぇ、波人くん」


「な、何ですか?」


 やべっ!?つい敬語が……。


「渚ちゃんと何かあった?」


「………まぁ、ちょっとな」


 やっぱり気づかれているのか。


「なんかさぁ、今日の渚ちゃん元気がなくて、何でだろうな〜〜思ってたら、渚ちゃん、波人くんのことチラチラと見てて、あ〜なるほどな〜〜って」


 渚が俺のことを見てた?全然気づかなかったけど……。


「その横顔可愛かったなぁ〜〜」


 日が暮れる夕空を見つめる紗枝の姿。


「聞かないのか?」


「うん。聞かない。だって二人の問題に口出しなんて私のプライドが許さないもん。でも…波人くんが苦しんでる表情は見たくないかな…」


 俺と目線を合わせて、微笑む紗枝。何を企んでいるのかわからない。いや、何か企んでいるって考えは失礼か。


 けど、紗枝にも相談していないということは、渚にとってそれになりの問題だっていうことだ。


 そして紗枝はそれに勘づいて、俺に話しかけた。


「女の人ってみんな、そんなに勘がいいわけ?」


「どうかな〜〜まぁ、男の子よりかは勘がいいと思うよ。鈍感な波人くん…」


「俺は鈍感ではないよ」


「ふふふ、そういうところが鈍感なんだよ……」


「う〜ん。そうかな?」


「そうだよ」


「自信ありげだね」


「それはもう自信しかないね」


「そっかぁ〜〜」


 俺一人じゃ、渚との対面の場を用意することはできない。なら、協力してくれる人が必要だ。


 だから。


「紗枝、俺はお前に頼ってもいいか?」


 その言葉に驚きの表情を見せる。そして、優しくニッコリと笑った。


「その言葉を待っていました。大波に乗ったつもりで頼ってくれていいよ!」


「何だよ。その自信……」


「私も、波人くんと渚ちゃんが仲良くないとなんか、嫌だから」


 なるほど。本当に渚はいい友達を持っている。


「ありがとう」


「いいよ。私たちの仲だしね。じゃあ、波人くん家に行こうかぁ」


「わかったよ……え?」


 なぜか、紗枝を家に連れてくることになった。

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