第25話 公園ベンチで語る二人(嘘)

渚からの問いかけには胸をざわめつかせる何かがあった。

それは僕が問題なのか、わからない。


「それは、どっちも本当の自分ではないと思う」

「……どうして?」


目を合わせてくれない渚。

背中はとても悲しそうな弱々しさが漂っていた。


「これはあくまで僕の主観だけど、本当の自分を僕は感じたことなんてない。どの時でもそれは自分であって、自分じゃない。みんな少なからず、感情を上がったり、下がったり、時には場を盛り上げたり、その時その時で自分を変えている。そこに本当の自分って定義はないんだ。結局、僕はその時で自分を変えている。これで一様、理由になっているかな?」


僕は真面目に答えた。

かなり難しい考え方だけど、僕は自分が思った答えを言葉にして渚に伝えた。


細かく言いすぎたかな?っと思った。


すると渚は……。


「なんか、大人っぽい…」

「へぇ?」

「考え方がさぁ、大人っぽいなって思ったの」

「そうかな。まぁ俺は中学生の頃、色々あったからなぁ」

「いいなぁ。私もそんな考え方ができたら、きっと悩まずに高校生活を送れたのかな…」


どこか悲しげな震えた声がよく響いた。


「なぁ、渚…」


僕が言葉を投げかけようとすると、突然、渚が立ち上がる。


「よいっしょっと!」


渚の後ろ姿は凛々しく大きかった。


「ねぇ、波人くん…」


後ろを振り返る。

渚は口角を上げて、にこりと笑いながら、少し淡い表情で言った。


「ちょっと歩こうよ」

「え、まぁ、いいけど…」


僕たちは河川敷の橋の下を登って、整備された道に出る。

静かな通り道。虫の心地よい音だけが聞こえる。

空を見上げれば、夜空が広がっていた。


もうこんな時間かぁ。


気づけば、7時過ぎだった。

そんな通り道を僕と渚は一緒に隣同士でゆっくりと歩く。


「ねぇ、波人くん。私って可愛いよね?」

「なんだ、急に……」

「私は可愛いって聞いてるんだけど」


ツンとした表情でこちらを睨みつけてくる。

そんな顔もまた可愛いと感じる僕はおかしいのだろうか。


「まぁ、可愛いとは思うけど」

「はっきりしてほしい」

「えぇ〜〜まぁ、か、かわいいよ」


「じゃあ、私は頭がいいと思う?」

「めっちゃ思う」


「即答!?」

「いや、学年でトップ10位内に入ってる渚が頭悪いわけないじゃん」

「な、なるほど。そういう考えね」


渚が何を聞きたいのかよく分からなかった。

その後も、次々と質問しては答えて、質問しては答えを繰り返した。


「私ってスタイルいいと思う?」

「私といると楽しい雰囲気になると思わない?」

「私って大人しいと思う?」

とたくさん質問。僕は難なくと答えていった。


本当になんでこんな質問に答えているのやら。

しかも恥ずかしくなるような質問を平然と投げかけてくるのが、心臓に悪い。

答えるのも平然を装ってはいるが、ちゃんと恥ずかしさを感じている。


「私って……」

「なぁ、いつまでこの質問ラッシュが続くんだ?」

「……もう、しょうがないな。じゃあ、最後の質問………」


そう言って、僕より一歩前に踏み出し、クルッと振り返る。

そして少し意地悪そうな表情ながらも真剣さが滲みにでる雰囲気で言った。


「今の私は果たして私でしょうか?」


何を言っているのか分からなかった。

さっきまで質問とは性質が違う。


「なんだよ、その変な質問……」

「………」


渚は何も言わずにこちらをじっと見つめる。

まるで答えを待っているかのようだった。


なんでそんな表情をするんだ。


渚の答えを待つ姿はとても悲しげな表情で、でもどこか何かを求めているような壊れやすい表情で……。

僕はこの質問に答えるべきが迷いが生まれた。


ここはやっぱり、「渚は渚だろう!!」だとか「渚は渚以外の何者でもないよ」とか言ったほうがいいのだろうか。


けど、そんな言葉を投げかけて、本当にいいのだろうか。

その一言で全てが崩れないだろうか。


。その言葉が一番、自分にしっくりきた。


けど逃げるわけにはいかない。

僕はもう逃げることが許されない。


「渚………」


嘘はつかない。偽らない。

ただ自分の思ったことを伝える。


少しだけ緊張する。なぜ緊張するのかは分からないけど……。


心臓の鼓動が速くなっているのが胸に手を当てなくてもわかる。


「僕は今までの経験、学校で真面目に真剣に勉強に励み、友達と楽しそうに話す渚と一緒に笑顔で楽しそうに遊んでいる渚の姿しか知らない。だから、僕にとって今の渚はとても新鮮で、新しいことだらけなんだ。だから……」



質問への返答、その伝える言葉はもう決まっている。

渚、僕は………僕は………。





「僕は。これが僕の返答だよ」




その言葉を質問に対する返答を聞いた渚は固まった。

驚いたように戸惑った表情が、目から離せない。


「そ、そうか。なんか、意外な答えだな〜〜」


頬を軽くかきながら、目線を斜め下へ向ける。

目が少しだけ泳いでいる。


「だからさぁ、渚。僕はこれから知っていきたいんだ」

「え……」


驚きの顔をされた。


僕は何かおかしなことを言っただろうか。


目の前にいる渚は唇を震わせながら、頬を赤く染めて、落ち着きがない。

さらに足を小刻みにバタバタさせている。


「だ、大丈夫……?」

「あっ、うん。だ、大丈夫。ちょっと焦っただけ…」


髪をグルグルといじる渚。

本当に落ち着きがなくなった。


「ふぅ〜〜〜ふぅ〜〜〜はぁ〜〜落ち着け私…」


深呼吸を始めた渚。

僕は一体、何を見させられているのだろうか。


「本当に、大丈夫か?」


「う、うん。もう大丈夫。本当に大丈夫だから。ただ私の思っている返答の斜め上をいったから…」


「そ、それは誤ったほうがいいのか?」

「うんうん。むしろやっぱり波人くんなんだなぁ〜改めて実感したところ」

「おいおい……」


渚の表情が緩んでいた気がした。


まぁ、元気になったのなら、それでいいが。


けど、まだ根本的な問題は解決していない。

だって渚はまだ全く話してくれないからだ。

それが無意識なのか、意図的なのかはわからない。

結局、僕じゃあ、渚の力にはなれないのだろうか。


「波人くん。あの公園のベンチにでも座ろうか」


渚が指差す先はベンチ。

そのまま僕たちは公園のベンチに座った。


ベンチに座るのはいいが、わざとなのか、渚との距離が近い気がする。


ほんの少し、座る位置をずらせば、肩同士がぶつかるほどに近い。

距離が近いと何が問題なのか、それは女子のいい香りがより近くで感じることだ。


「な、なんでわざわざベンチに座るんだよ」

「なに〜〜緊張してるの?」

「な、なわけないだろう」

「まぁ、波人くんは私が可愛いと思ってるみたいだし、しょうがないよね」

「こ、この〜〜〜」


からかわれる波人。

まぁ、実際に言ったから、否定できないのがむずがゆい。


「見てみて、波人くん!!空を見て、綺麗な星だよ」

「うん?ああ、綺麗だな」


空を見上げれば、綺麗な夜空が広がっていた。

星も幾つか輝いていた。

それにしても、どうして僕は今、渚と夜空を眺めているのだろうか。


「波人くん、最初に河川敷の橋の下で言ったよね。雨の音を聞くと嫌なことを忘れるって……」


「まぁ、本当のことだからな。あくまで主観での話だけど…」


「普通はさぁ、あんな感じで雨に濡れて、弱っている女の子を見つけたら、もっといい言葉で投げかけれたでしょ」

「なんだよそれ、白馬の王子様でも求めてたのかよ」


「………うんうん。全然、求めてなんかなかったよ。ほら私って可愛いからさぁ、結構、色んな男子に話しかけれるの」

「そういえば、色々噂が広まってたな…」


「噂?」


「うん、いろんな人に告白された渚の噂…」

「そんなの広まってたの?」

「知らなかった?」


「全然、知らなかった。女子の情報拡散こわ…」


すると渚は少し低いトーンで……。


「私はね、


その声はキレな美声なはずなのに、それは寂しさと苦しみに溢れていた。






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