第23話 偶然の出会いは唐突に亜由美とリャイン交換
僕は久しぶりに本屋さんに向う。
ここ最近、色々あり、全く通えていなかった。
「う〜ん、イマイチだな…」
新作は出てはいるのだが、好みではなかった。
本をなだめながら、本を探していると……。
「へぇ〜こんなラノベが出てるんだぁ〜」
最近は、ラブコメジャンルのラノベが多い気がする。
まぁ、そういう青春を求めている人が多いかな。
さてさて、疑問に思ったかも知れないが、なぜ僕が本屋さんに来たのかというと……。
「あれ?な、な、波人…くん?」
「え?」
薄らとした桃色の整った髪が視界に入る。
なびいた髪は甘い香水のような匂いがふわっと香った。
なんで、こんなところに一之瀬さんが?
少しオドオドしながらも、勇気を振り絞って話しかけたような素振り、これは偶然だろうか?
一之瀬さんと目を合わせようとするも避けれる。
流石に、緊張しすぎでは?
「はわはわはわはわ……」
「だ、大丈夫?」
「は、はいぃ!!大丈夫です!!」
僕が声をかけるとアワアワとした表情を見せる。
体が小刻みに震え、緊張した様子が見てわかる。
「本当に大丈夫?」
「あ、はい」
変な空気が漂う。
なんだ!この空気、めっちゃ気まずい……。
「あ、あの!!」
「な、なに?」
一之瀬さんってこんなんだっけ?自己紹介の時はまだ、元気よくとまではいかなくても普通に話せそうな雰囲気だったけど……。
隙をついてまた目を合わせようとするも、すぐに目線を逸らされる。
僕以上のコミュ障だ……。
「な、波人くんって……そ、その〜本、好きなの?」
突然の質問だった。
一之瀬さんと会話をするのはこれが初めてのはず、ここで質問してくるのは相当な勇気が必要だ。
これは同類だからわかる、この質問にどれだけの勇気を振り絞ったのかを。
バレないように目線だけを一之瀬さんに向けると、目が泳いでいた。
おそらく、質問したのはいいけど、後悔をしているんだと思う。
あるあるだ、僕だってたまにある。
だから、ここで僕が返す言葉は……。
「好きだよ」
肯定する。これが正解だ。
否定されれば、より情緒が不安定になる。
特に一之瀬さんのような人は……。
まぁ実際に僕は本が好きだし、嘘は言っていない。
「その、ちょっと前に覗いちゃったんだけど…」
うん?覗いた?何をだろう……。
頬が赤い。手を重ねながらモジモジしている。
目線は常に左を下を見つめ、落ち着きがない。
そういえば、一之瀬さんって結構、学校で有名なんだよな。
そう思った。
「ライトノベルとかよく読むんですか?」
「………まぁ、それ、なりに?」
「あ、あの!!」
「はい!!」
目を輝かせながら、顔を近づけてくる一之瀬さん。
瞳の奥からは何か期待のような眼差しを感じる。
顔が近い……。
「そ、その!!あ、あの、『
「あ〜〜、うん。知ってるよ。だって有名だもんね、アニメ化もしてるし、3シーズンも続いているし…」
今や、誰もが知る有名な作品だ。
たとえ、陽キャの人たちでもアニメを知らない人はいない、と思う、多分。
「ですよね!!いや〜あの
「一之瀬さんってラノベ読むの?」
「あっはい!!最近、
なるほど、だから……。
僕なんかに話しかけてくれたのか。
一之瀬さんは知らないかも知れないが、
一度、一之瀬亜由美さんを見れば『クラスで3番目に可愛い』って言葉が男子生徒のほとんどが思い浮かぶ。
正直、こうして話せるのはかなりの奇跡と言ってもいいだろう。
「そうなんだ。まぁ別に隠してるわけでもないし、むしろ一之瀬さんがラノベを読んでるなんて意外だよ」
「いえいえ、そんな。しじょう、ってちがう。好きで読んでるので……そ、その実は私、一回やってみたいことがあるんですよ!!」
またしても顔を近づけてくる一之瀬さん。
さらに追い討ちで両手で僕の手を強く握りしめる。
「あっ…」
「あああああ、す、すいません!!私なんかが…」
「大丈夫だから、大丈夫だから…」
「で、でも〜〜」
一之瀬さんって結構天然なのかな……。
クラス内だと、結構大人しいから、この姿を見ると新鮮だ。
世の中、捨てたもんじゃないと思う僕だった。
「で、その一之瀬さんがやってみたいことって……」
「はい!!私ってこんな性格じゃないですか…そ、その感想を語り合ったことがなくて…憧れるんですよ!!語り合うの!!」
「あ、うん。わかったから、一旦、顔を近づけるのをやめようか」
「あっ…」
一之瀬さんは顔を真っ赤にしながら、そっと離れる。
いまだオドオドした仕草が目立つ一之瀬さん。
うん。かわいい。その一言に尽きた。
「そ、それで!!波人くんに聞きたいのが今回の最新刊の
一之瀬さんは僕の感想を聞きたいらしい。
それはいいんだけど……。
周りからの目線が集まる。
ちょくちょく目線は感じてはいた。
なんせ、僕が喋っているのはあの
この痛い目線、なんか渚と一緒にいるみたいだ。
やっぱり美人は罪だな。
「ゴホンッ、ちょっと落ち着こうか。一之瀬さん」
「あっ、はい。すいません」
「謝らなくていいから…」
「あ、はい。すいっあ…」
一之瀬さんはどうやら謝る癖があるらしい。
そんなところもかわいい。
って僕って何様だよ。
「こらこら、そこの二人…」
声が遠くの方から近づくように聞こえてきた。
聞こえる方に振り向くと、最初に本屋のロゴが目に入る。
「騒ぐなら、外でやってよね。迷惑だから…」
「あ、すいません」
「す、すいません…」
注意する店員さん。僕たちが怒られるのは当然だ。
店員さんの顔を見ると呆れた顔をしてた。
「もう、最近の若い子たちは…」
これはあれか、めんどくさい奴だな。
ガミガミいう厄介おばちゃんみたいな雰囲気を感じるぞ。
「逃げよう、一之瀬さん!!」
「え……」
僕は一之瀬さんの手を強く握って、本屋の出入り口へ駆け出す。
ああ言うめんどくさい店員さんと遭遇した場合は逃げるが吉だ。
それに逃げたところで犯罪ではないので大丈夫。
こういう勇気も必要だよね。
そのまま僕と一之瀬さんは本屋から少し離れた大通りまで走った。
「はぁはぁはぁ…だ、大丈夫だったんですか?逃げて…」
「う、うん、大丈夫。犯罪ではないからね!!」
「………」
一之瀬さんは僕に目線を向けてボォ〜と気が抜けたように見つめる。
走ったからか、息が荒い。頬も薄らと染まっていた。
「だ、大丈夫?」
「あっ!はい!!少し驚いただけです…」
「そ、そうならいいけど」
モジモジと周りを見渡す一之瀬さん。
落ち着かない仕草で目が泳いでいる。
やっぱり、これが一之瀬さんのデフォルトなんだろう。
う〜ん。この雰囲気は僕から切り出すべきだろうか……。
こう、気まずいというか、言葉に詰まるというか、なんだろう。
とにかく、この雰囲気が苦手だ。
『あっ!…どうぞ、お先に…』
二人の言葉が完全に重なった。
お互い思っていることは同じなのかも知れない。
「あっ…あの!!」
「はい!!」
大きな一之瀬さんの声が響く。
一之瀬さんって結構声響くんだね。
「れ、連絡先を交換しましょう!!」
「あ、うん。別にいいけど…」
「え!?いいんですか!!」
なぜか驚かれた。
僕としてはなぜ?と言い返したほどだ。
普通に考えてみろ、かわいい女の子の連絡先なんて、なかなか手に入るものじゃない。
それに個人的に一之瀬さんとはラノベで語り合いたい。
「じゃあ…どうぞ!!」
そう言って、まるでチョコを渡すような姿勢でスマホを前へ突き出す。
この光景、外から見たら、告白している様子に見えるだろう。
なんか、昔のメールアドレス交換みたいな、古典的だな。
こうして僕と一之瀬さんはリャインを交換した。
ふとリャインの画面を見ると、友達が増えたなと思う。
特に女子が……。
「わぁ〜〜〜〜」
両手でスマホを持ちながら、嬉しそな満遍な笑顔でスマホ画面を見つめる一之瀬さん。
そんなに嬉しいのかな……。
「初めての、友達だよぉぉぉぉうぇぇぇぇぇ〜〜」
突然、一之瀬さんは涙を流した。
今にも崩れ落ちそうな表情は悲しみではなく、歓喜であったことが見て感じる。
「ちょっ…あっ…」
そうはわかってはいるものの流石に焦った。
一之瀬さんが泣き崩す姿は周りからの目線を集める。
「い、一之瀬さん…」
「グスッ…す、すいません。つい嬉しくて……」
ここまで喜ぶんなんて、きっと僕よりも友達ができなかったんだな。
「では、わた、私…帰ります」
「あっ、うん」
一之瀬さんの帰る宣言。
結構、大胆なんだと思う波人。
「そ、その〜〜連絡するので!!その時に語り合いましょう!!」
「うん……」
「じゃあ、また明日!!」
そう言って、後ろを振り向いて駆け出す。
一之瀬さんって僕以上に人見知りなんだな。
なぜか少し安心している自分がいる。
それに一之瀬さんのこういう一面はなかなかレアな気がするからか、ほのぼのもする。
走っている一之瀬さんの背中を見送る波人。
「って、完全に本来の目的を忘れてた……で、でも流石に今から本屋に戻ってもな〜〜」
せっかく、『人の心がわかる心理描写や癖について』って本を買いに来たのに。
そう思いながら、空を見つめる。
別に本に頼りたかったわけではない。
ただ、渚のことが心配なだけなんだ。
ただ、渚に笑顔でいてほしいから。
あんな、作り笑顔なんて、してほしくないから。
見てきたから、たとえひと時の空間だったかも知れないけど、僕はちゃんと見てきたから。
僕は友達として渚を……。
「もしかしたら…」
僕はふと渚と初めて会った河川敷の橋の下の光景を思い出す。
別に焦っているわけではない。
けど、なんとなく早く渚に会いたい。そう思った。
「………僕って結構、ちょろくね?」
そう思うと笑いがなぜか込み上げてきた。
腹の底から、お腹が痛くなるほどに…。
「腹いてぇ………はぁ〜よし!!」
両手で頬を叩く。
じんわりと響くような痛みが広がり、熱くなっていく感覚が染み渡る。
「考えるより行動を!!思いついたら即行動!!行くぞ!!」
こうして僕は渚と初めて会話をしたあの場所へ向かった。
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