第22話 渚の異変・波人の決心
突き当たりを右に曲がる。
しかし、曲がった先には誰もいなかった。
「あれ?」
どこを見渡しても、人影すら見えない。
「まぁ、こんな時間に渚が歩いてるわけないか…」
そのまま自分は家に帰った。
「あっ、女を連れ込んだ、性欲の化け物だ」
「真希、いくらお兄ちゃんで今の言い方は聞き捨てならない」
「本当のことでしょ?」
「はぁ?」
僕と真希がちょっとした兄妹ケンカをしていると……。
「こら、二人とも喧嘩しないの」
お母さんが止めに入った。
「ベェ〜〜〜」
真希はベロを出しながら、煽ってきたが、僕はもう高校生なので軽く流し、自分の部屋へ戻った。
「可愛くない妹だ…」
ちょっとした不満を漏らしつつも、明日の準備をする波人。
こうして濃い一日は終わり、朝を迎える。
いつも通りの通学路、なぜか、正志くんと拓也くんが一緒だが、まぁ悪くはない。
気づけば、日にちはどんどん過ぎていく。
3人で登校するのも当たり前になり、僕もその環境に慣れつつあった。
しかし、そんな中、少しだけ異変があった。
別に僕が気にすることはないのだろうけど、最近、渚の活気がない気がした。
「それでさぁ、そのおじいちゃんがコンビニでいちゃもんをつけてるわけ!!それがすごく面白くてさぁ〜〜」
「正志は何でいつも、そんな話が出てくるんだ?」
「俺は運がいいからな!!おっ?もしかして拓也!!羨ましいのか?」
「なわけあるか!!」
「ほらほら、そうやって嘘をつく」
「誰が羨ましがるかよ、少しはその小さい脳みそで考えてみろ」
「何だと!!」
「やんのか?」
この数週間で二人とはすごく仲良くなった。
不思議なほどにね。
こうして遠慮もなく喧嘩をよくするようになったし、僕としては喜ばしい。
けど、やっぱり、どうしても渚が気になって仕方がない。
「また喧嘩してるの?」
喧嘩している二人の仲に割り込んできたのは阿澄だった。
「なっ阿澄!!」
「拓也〜〜そんな反応は何?」
「阿澄ちゃんじゃん!!聞いてくれよ、拓也がいじめるんだ」
「なっ!?拓也〜〜〜」
「ち、違うぞ!!俺はいじめていない。出まかせを言うな正志!!」
「こら!!拓也、そんな怒鳴らないの」
拓也くんも阿澄の前では赤子も当然。
阿澄は拓也を完全に沈めた。
「ちっ正志のやつ、阿澄を使うとは卑怯な…」
「何か言った?拓也」
「あ、いえ、何も…」
完全に飼い慣らされてるな。と思った。
あのゲーム対策を行った後、少しずつだが、二人より深い仲になったらしい。
正直、詳しくは知らないが…ゲームをきっかけによく遊ぶようになったとは聞いている。
「波人くん、元気ないね?」
「あ、ああどうしても気になって…」
「渚ちゃんのこと?」
「うん…」
「そういえば、最近、元気ないよな。波人…渚になんかやったか?」
「それ、本気で言ってる?」
「なわけあるか…波人にそんな勇気はない」
「それはそれで少し傷つくな」
「波人くん!!ビシッと慰めなきゃ!!」
「そうだぜ!!男を見せろ、波人!!」
なぜか、僕が渚を慰める雰囲気になった周辺。
僕も流石に元気がない渚を見たくないし、元気になってほしいと思ってる。
けど、僕は所詮、他所者。
こう言うのは周りの渚の友達に任せた方がいいと僕は思った。
「はいはい、ほらもうすぐチャイムがなるから、座ったら?」
「お前って、やっぱり少し辛辣だよな」
「おい、拓也くん。それは心外だな」
するとチャイムが鳴る。
みんなが自分の席が戻り、授業が始まった。
再び渚を見ると、真面目に授業を受けている。
けど、瞳には光がなく、元気がないように見えた。
もしかして、僕は渚を心配しているのだろうか。
気づけば、6時間目が終わっていた。
実に早い1日だった。
けど、どうしても、どうしても渚が気になる。
今日なんてほとんど渚を見つめていた。
「恋する男子高校生にしか見えないぞ、波人」
帰り準備中に話しかけてきたのは拓也くんだった。
「新手のいじめですか?」
「違うわぁ!!って正志のやつは?」
「ああ、正志くんならバイトだって…」
「正志ってバイトしてたのか…」
「知らなかったの?」
「知るわけないだろう…まぁそんなことより、今日ずっと渚のこと見てたよな」
「うぅ…」
やっぱり、バレてたか。
まぁずっと見てたからな、特に拓也くんは僕より後ろの席、よく見えたんだろう。
「なぁ〜波人、俺は失恋した身だが、もし彼女が苦しんでいるなら、助けてやるのが男なんじゃないのか?」
「………それ言って恥ずかしくないの?」
「………すげぇ〜恥ずかしいわ!!」
拓也くんも何だが最近、元気だよな。
あと絡みやすくなった。
「ちょっと拓也!!帰ってゲームの再戦するよ!!」
元気な声で阿澄がこちらに向かってくる。
「はぁ?またするのかよ」
「当たり前じゃん、まだ勝ててないんだもん、勝つまで何度だって再戦するよ」
「うぅ、わかったよ」
「やったぁ〜〜!!」
「じゃあ、俺は帰るから。またな波人」
「うん、二人もまた明日」
「バイバイ〜〜波人くん」
拓也くんと阿澄はそのまま二人一緒に教室を出ていった。
やっと帰ってくれた。
僕は全ての荷物をバックに入れて、立ち上がる。
「よし、じゃあ行きますか…」
こうして向かった場所は家庭科室。
扉を開けるとそこには紗枝が椅子に座って、外を眺めていた。
「おっ、来たね波人くん…」
「ごめん、待たせちゃったかな?」
「全然大丈夫だよ、それより、私を呼んで一体何が聞きたいの?」
顔をかしげる紗枝。
なぜ、紗枝を家庭科室に呼んだのか、それは高校生の定番の告白イベントではない。
呼んだ理由には渚が絡んでくる。
正直、かなり大胆の行動だと僕は思ってる。
実際に一年生の頃の僕なら絶対にしない行いだ。
だけど……。
「渚について聞きたいことがあるんだ」
「そ、そうなんだ…」
紗枝は動揺した。
目線を僕から逸らし、少なからず汗が顎のラインに沿って垂れる。
きっと、何かを知っているはず、渚の幼馴染なら、きっと……。
「う〜ん。正直、そこら辺に関しては私に言えることはないかな…」
「………」
予想外の返答だった。
一体、渚に何が起こったんだ。
「波人くん、渚には渚の家庭の事情がある。だから、もし渚にあったら、優しくしてあげてね」
「あ、うん」
「じゃあ…他に何かある?」
「……もう一つだけ聞いていいかな?」
「なに?」
「渚って……僕のこと好きなのかな?」
一瞬、沈黙が教室に広がる。
僕だって、鈍感ではない。
ラノベなので出てくる鈍感主人公みたいな属性なんてないし、好意を寄せられていたことは薄々気づいていた。
ただ、たまに見せる渚の言動や顔の表情に違和感を持っていた。
違和感それは、あの河川敷の橋の下であった時以来からずっと、ずっと、ずっと…。
「………これはあくまで私の感想だけど、………好きではないと思う」
「………」
「ショック?」
「いや、わかっていたことだから、大丈夫…ありがとう。それが聞けただけでよかった」
そう、ほぼ確実に渚は僕に対して好意に近いものを抱いていた。
だがそれは……。
「じゃあ、そろそろ帰るね」
「わざわざ、付き合ってくれてありがとう、紗枝」
「全然いいよ、波人くんのためだもん」
「それじゃあ…」
「うん、バイバイ…」
僕の横を通り過ぎた。
紗枝に相談した理由は渚の活気がない理由を知るため……。
けど、もう一つ理由がある。それは紗枝がどこまで渚を知っているか。
反応を見た感じは、知っているような雰囲気を漂わせていた。
けど、それを口に出すことはできないっと言った感じ……。
できれば、もう少し、踏み込んだ話がしたかったけど、これ以上、紗枝に聞くことはできない。
「腹をわって渚と話すしかないかな〜〜」
僕はゆっくりと歩き出す。家庭科室の窓を開けて、空を見上げた。
涼しい風が優しく吹いている。
「僕ってこんなに気にする性格だったっけ?」
僕は決心をする。
渚と向き合うことに……。
きっとこれは僕が背けてきた結果だと思うから。
ーーーーーーーーーー
ついに第一章のクライマックスへ突入!!
ここまで読んで下さった読者の皆さんに感謝の言葉を送ります。
ありがとうございます。
ついにクライマックスということで、ぜひ楽しんで読んでいただくと僕自身嬉しいです。
さてさて、渚と波人が迎える結末は如何に……
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