第21話 波人と阿澄のゲーム対策会議

なぜか、阿澄さんと拓也くんの仲をより深くするべく、僕の家で大人気、大ヒット作対人ゲーム『スマットブラーズ』の練習をすることになった。


「初めての波人くんの家。楽しみだな〜〜」

「ははは…」


まさか、僕の家でゲームの練習をするハメになるなんて…。

まぁ、阿澄さんは拓也くんのことが好きみたいだし、間違いは起きないと思う…多分。


「ふふ、波人くんは本当に運がいいね」

「はぁ?」


「なんて言ったって、この阿澄ちゃんという超絶美少女高校生と一緒にゲームができるんだから!!」


「………」

「なに黙ってるの」

「いや、まさか、そのテンションで行くき?」


「もちのろん!!」


「はぁ〜くれぐれも、家では静かにね」

「わかってるよ」



たまに出るクールな顔つき、悪魔のような微笑みが心を射止める。


マジでその不意打ち、やめてほしい。

そのまま僕と阿澄さんは歩き続ける。そして無事、僕の家の前に到着する。


「ここが、波人くんの家かぁ〜〜」

「親がいるんで、静かに上がってください」

「わかってるよ、波人くん」


何か企んでいるような不敵な笑み。


大丈夫だよな?


玄関の扉をゆっくりと開けると、妹が玄関の前でアイスを咥えていた。


「あっ…」

「………」


こいつは僕の妹の五十嵐真希いがらしまき、綺麗に整ったショートヘアーに抜群に細い体はモデルを思わせ、雰囲気はちょっとしたクールでかっこよさが際立つ。

そして何より、お兄ちゃんにすごく冷たい。


そんな妹の真希と目が合う。


「お母さん〜〜!!お兄ちゃんが女連れてきた!!」

「ちょっと待って!!」


僕はすぐに靴を脱ぎ捨て、妹の真希の肩を両手で抑える。


「誤解なんだ、真希」

「どこが?」


不敵な笑みを真希は堂々と見せる。


絶対に面白がってるな……。



「あらあら、波人ちゃんが女の子を連れてきたの?」

「お母さん!!」



リビングに続く扉からお母さんが出てきた。


「初めまして、波人くんのお母さん。波人くんのお友達の因幡阿澄いなばあすみと言います。今日はお邪魔します」


と礼儀正しく、お辞儀をする。


おい、さっきまで元気なテンションはどうした?


「あらあら、礼儀正しい子ね、ぜひくつろいでいってね」

「お兄ちゃん、やるなら声は抑えてね」

「やるかぁ!!」


「ふふふ、賑やかな家族ですね」


阿澄さんの顔が笑っているのに、なぜか煽られている気がする。


「はぁ〜ほらさっさと、いくよ」

「あっ…」


僕は無意識に阿澄さんの右を握って、上の階にのぼった。


「へぇ〜ここが波人くんのお部屋かぁ〜案外普通だね」

「大きなお世話だよ…」


普通の男子高校生のお部屋、シングルベットに勉強するにはちょうどいい大きさな机に椅子、本棚が3っほど並んでいて、本がたくさん並んでいる。


「エロ本はないの?」

「あるわけない…とは言わないが、」

「や、やっぱあるんだ…ね」


少し目線を逸らして、頬を赤く染める。阿澄は恥ずかしがっていた。


「恥ずかしくなるなら、聞くなよ…」


「なっ!?べ、べつに恥ずかしがってないし、私は大人の女性だから、平気だし…」


「その反応も作りもんか?」

「………ただの素ですが」

「あ、そうですか」


顔が笑ってないんだけど……。


僕はゲーム機を取り出し、部屋にあるテレビと繋げる。


「これでよし、じゃあ、早速、練習するか」

「う、うん!!頑張ります!!」

「緊張してるのか?」

「……だって、男の子の部屋に来るの初めてなんだもん…」


また見せる、恥ずかしがる仕草。


そんな仕草を見せられたら、僕だって緊張してくるじゃないか。

てか、家に行くって言ったのは阿澄さんだよな……。


「はいはい。じゃあ、練習を始めるよ。阿澄さん」

「え〜冷たくない?せっかく、恥ずかしがる仕草を見せてあげたのに」


「やっぱり、演技か…」


「ちぇ〜〜」

「ほら、コントローラー……」


そう言って、僕はコンローラーを手渡した。


「じゃあ、真面目に始めるよ」

「う、うん!!」


こうして、僕と阿澄さんのスマットブラーズの練習が始まった。


テレビを睨み合う二人、まずはお互いに対戦をして、実力を測ることにした。

そして30分が過ぎた頃……。


「負けたぁぁぁ〜〜〜」

「うるさい、声を抑えろ」

「え〜〜なんか、波人くん。言葉強くない?」

「そ、そうか?」


今、思えば、僕ってこんなに砕けた言葉遣いだったけ?

別に意識しているわけではないけど……。

最近、気が抜けて、昔の癖が無意識に現れているのかもしれない。


「よし、大体実力はわかった」

「ほほぉ〜さすが波人師匠」

「からかうな。それに別に僕もプロゲーマーに比べれば、全然だ」


「そうなんだ、対戦した感じはすごく強いなって感じたけど…」


「それは、阿澄さんが弱いだけだ…」

「なっ!?」


驚きの顔をあらわにする阿澄さん。

対戦してみた感じ、基本はしっかりとこなせていた。問題は使うキャラが定まっていないこと。技の駆け引き、コマンド辺りかな。


「阿澄さん、まずは…」

「ねぇ、波人くん…」


後ろにあるベットにもたれながら、体育座りの姿勢で僕の顔を見つめる。

見えそうで見せないスカートの丈の長さ、体育座りでスカートの中が見えそうになるのが何とも言えない魅力を引き立てる。


見えそうなんだけど、阿澄さんは羞恥心がないのか?


「なんだよ…」

「その、阿澄さんって言い方やめない?」

「なんで?」


体育座りで膝を顔に軽く押し当てながら、プクッと可愛い顔で……。


「何でって、同級生でクラスメイトなのに、さん付けはなんか…イヤ」


と透き通った声で発声する。


「じゃあ、なんて呼べばいいんだ?」

「普通に阿澄でいいよ…」

「えぇ〜〜〜」

「何で嫌そうなの」


プクッとした頬がさらに膨らんだ。

なにやら、不満らしい。


「でも、さすがに馴れ馴れしくないか?だって会ってまだ数日だぞ?」

「なに〜〜波人くんは慣れ合った時間で呼び方を変えるタイプ?」

「い、いや、どうだろう。意識したことはないな」


「波人くん…阿澄って呼んでほしいな」


柔らかな笑顔で頬を淡い色で薄く染めながら、ニッコリと訴えてくる。その思いになにが含まれているのか、僕にはわからない。


最近、女子とも絡むことが多いから、感覚が麻痺しているのかもしれない。

もしかして、女子は結構、さん付けされるのが嫌いなのかな。


「わ、わかったよ。…阿澄」


「うん!!では、もう一回お願いします」


「な、何で?」

「あっ!?もう一回お願いしてもいいからしら」

「なぜ、急にクールキャラ……」

「その方が、嬉しいのかなっと思って…」

「はぁ〜僕のことを何だと思ってんだ」

「…で?」


キラキラとした瞳で近づいてくる阿澄。


顔が近いって…。

阿澄の肩を掴み、遠ざけながら……。


「はいはい、阿澄…」


「…なんか、陰キャに名前で言われるのって新鮮だね」


「阿澄は僕の機嫌を損ねたいのか?今日限りで練習をやめてもいいだぞ」

「ご、ごめんなさい!許して…ね?」


両手で手を合わせながら、可愛い笑顔で謝ってきた。

もしかして、阿澄って結構、男垂らしだったりしないよな。


「まぁ、そんなことはどうでもよくて。阿澄がまずやらなきゃならないことは…」


ここから、僕は真面目に阿澄のプレイ対策の話をした。

意外なことに阿澄はしっかりと真面目に聞いていた。

根は真面目なのだろう。


「っとこんな感じだな。今はとりあえず、キャラを3体ほどに絞って、そのキャラになれたら、勝つために必要な小技のコマンドを教える」

「は〜〜い!!」


「小技のコマンドとかは、ノートに書いて明日、渡すよ。それで勉強してくれ」


「うん!!よ〜〜し、強くなるぞ!!」


やる気は十分みたいだ。

あとは、練習するための場所の確保だな。

こうして、僕と阿澄は徹底的に話し合い、気づけば夜7時半を超えていた。



「いいよ、一人で帰れるし…」

「ダメだ、女子一人でこんな暗い中、帰るのは危険だ」


阿澄が一人で帰ろうとするが、この暗い夜道。

さすがに危ないと思い、送ることにした。


「波人くんって変なところで男らしいよね。そして渚ちゃんの前ではちょろいところ」

「おい、最後のはおかしいだろう」

「だって、渚ちゃんの前だと、そんな口調にならないでしょ?」


「それは、……どうだろうな。口調なんて気にしたことないし…」


「口調は気にした方がいいと人生の先輩が助言します」

「人生の先輩って、同じ年だろう」


「ふふ、私の誕生日は4月9日、波人くんは11月16日、ほら先輩!!」


「何で、僕の誕生日を……」

「さて、何ででしょうか?」


僕と阿澄はベラベラと喋りながら、家の近くまで送った。

結局、何で僕の誕生日を知っているのか教えてくれなかった。


「じゃあね」

「ああ…」


送った後の暗い夜道。車が通る音などが響き渡る。


「はぁ〜なんか、思っていたのと違うな」


友達を作らないと決めた高校2年生だったはずなのに、日が経っていくにつれて、少しずついろんな人と関わるようになっていく。

高校生活とはこういうものなのだろうか。


1年生の時とは違う。怖いほどに今が充実している。


「今思うと、女子を呼び捨てって結構、距離近いよな…はっ恥ずい」


思い返してみると、渚や紗枝、阿澄と呼び捨てで呼び合っている関係ってかなり恵まれているのでは?

僕の高校生活、もしかして波に乗ってる?


そう思っていると、渚っぽい顔立ちの人が目の前にある突き当たりを右に曲がる姿を見た。


「な、渚?」


街灯がついていても、夜中、ぎりぎり顔が暗闇で見えず、完全に渚とは断定できなかった。

ただ、何となく、渚だと思った。


だから僕は何となく、後を追った。




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