第20話 五十嵐波人、体育館裏へ呼び出される


「あ、あの!!」


後ろから優しい女の子の声が聞こえた。

僕は咄嗟に後ろに振り向くと、さっき通り過ぎていった金髪の少女がこちらを向いて立ち止まっていた。


「な、なに?」

「そ、そのぶつかってすいましぇん!!はぁ!?す、すいません」


あ、噛んで言い直した。可愛い。

って、なんで謝られた!?


「………」

「………」


謎の沈黙。すごく気まずい。

……あれ?今思えば、どっかで見たことがあるような。


「あ!あの時、僕とぶつかった子か!!」

「あ、はい…その、すいません…本当に」


かなりおどおどした様子、緊張でもしているのだろうか。

まぁ気持ちはよくわかるが。


『あ、あの!!』


二人の声が重なる。


「あ、先に」

「いやいや、そちらこそ、お先に」


お互いに譲り合う二人。僕は思った。

もしくはと。

って、こんなところで時間を使っている場合じゃなかった!!阿澄さんを待たせて、何が起こるかわからない。


「ご、ごめん、ちょっと今、急いでて…」

「あ、そ、そうですか…で、では!!せめて!!」


すると、金髪の碧眼少女はスマホを僕に見せる。


「そ、その連絡先を交換しませんか?」


スマホを前に突き出しながら、上目遣いで、碧眼をうるうるさせながら、頬を染めて見つめてくる。


うぅ、渚とはまた違う可愛さが……ま、眩しい。

しかもよく見ると、小柄ながらも、美しい容姿に、整った顔、シュッとしたスタイル。

間違いなく、男子から人気得る女の子だ。

そんな子から連絡先交換の申し出……受けないわけがない。


「まぁ、それなら……」


そう言って、僕もスマホを取り出す。

そして、僕と金髪碧眼少女はリャインを交換した。


「では…」


頬を赤く染めながら、走り去っていった。

きっと、恥ずかしかったのだろう。


「おっと、早く行かないと…」


そして僕は、体育館裏に足を運んだ。


「ここだよな」


体育館裏なんて行くことなんてないし、多分ここであってると思う。

とはいえ、うちの学校の体育館はとても広いから、体育館裏と言っても、範囲が広いのだ。

しばらく、体育館裏周辺を歩いていると、一人の女の子が、大きいゴミ箱の上で腕を組んで立っていた。


「遅かったね、五十嵐波人くん」


「………、どうしてゴミ箱の上に?」


「気分だけど…」

「そ、そうですか…」


そのままゴミ箱の上から勢いよく降りて、お互い対面する。


「で、え〜となんで僕が呼び出されたの?」


「波人くんが私の連絡を無視した件よ」


「ぐさっ!!」

「ふん、申し訳ないという感情はあるようね」

「うぅ、無視したのは悪かった…けど、それにしたってこんな薄気味悪いところに呼び出さなくてもいいだろう」


「陰キャはこういうところが好きと聞いたから、合わせてやったの」


「それは大きな勘違いだよ…まぁ完全に否定はしないけど」

「そうなの、なら訂正しておく」


なんなんだ、この阿澄さんって子は、我が強いというか、堂々としているというか……。

うん?てかなんか、印象が少し……。


「あの、気のせいかもしれないけど、聞いていい?」

「何…?」


「なんか、最初に会った時とその…印象が違うというか……そ、その〜〜」


「待って、波人くん!!」


「え?」


「あなたが言いたいことはよくわかる、ふん、その答えを教えてあげる、実は私……一人一人で対応を変えているのよ」

「対応?」


「そう、たとえば、時には優しく世話する女の子に、時にはツッコミ役として場を盛り上げたりする女の子と、いろいろ対応を変えているの、波人くんが疑問が思っているのはその私の対応だね」


「はぁ〜」

「人っていうのはいろんな顔を持っている、友達と接する時と彼氏と接する時との違いのようにね」


「な、なるほど…道理で少し阿澄さんがクールに見えるわけだ」

「ふふ、クールね、褒め言葉として受けとっておくよ」


なんだろう、この阿澄さんって女の子は、なんか……。

って、こんな雑談にかまってる場合じゃなかった。


「で、阿澄さん、もう一回聞くけどなんで僕を呼び出したの?」

「ゴホンっまず、最初に私のリャインを無視したことが呼び出した一つ目の理由…これに関してはわかるよね」


「それに関しては悪かったよ…」


「うん、悪気があったことを自覚していることはいいことだ。うんうん。」


「で、二つ目はなんだよ」


「ふふ、実は私はね…………」


すると阿澄さんは後ろを振り向き、顔を隠した。

なぜ、話途中に後ろを向いたんだろう。

よく見ると耳がうっすらと赤い。


「好きな人がいるんだ……」

「はぁ〜〜」

「そ、それで波人くんにはその……手伝ってほしんのだよ」



「なるほど、他の人を当たった方がいいと思いますよ」



すると後ろを向いていた阿澄さんは再び、こちらに振り向いた。


「その返答は予想していたことだ、だが聞いてほしい。君を選んだ理由はちゃんとあるんだ」

「そ、そうですか」


まだ少し耳が赤い。きっと恥ずかしい告白だったんだろう。

とはいえ、僕を選んだ理由があるとは一体どんな理由なんだろう。

少し、気になる。


「波人くんは今日、そ、その…た、拓也くんと一緒に登校してきたよね」


「………」


「なっ、なによその目は……」


僕だって、馬鹿じゃないし鈍感でもない。

さっきの阿澄さんの一言でわかってしまった。

なるほどね……。



「阿澄さんって、拓也くんのこと好きなの?」

「………」



すると阿澄さんの顔が真っ赤に染まる。

そしてずるずると後ろに下がった。



「な、なぜわかったぁ!!!!」



阿澄さんの『なんか………』は訂正しよう、この人、すごく面白い……。


「いや、だって好きな人がいるって言って、拓也くんの名前を出すってことは……そういうことでしょ?」


「まさか、波人くんにそんな分析能力が……」


「いやいや……」



「ふん、そう私は拓也くんが好きなの!!ええ大好きよ!!超好きなのよ!!そして幼馴染なのよ!!」



「へぇ〜〜あっ」


そういえば、拓也くん、阿澄さんのこと探してたよな。

なるほど、だから幼馴染なのか、納得?


「と、いうわけで波人くん…」


そう言って、僕の肩にそっと手を置く。



顔が全く笑っていないんですけど、怖いんですけど……。



「君には、拓也くんとより親睦を深めるための手伝いをしてもらいたいの」

「え…」

「ほら、私って、男子の趣味とか、共感できることが少なくて、どうしても一歩を踏み出せないの…」


なるほど、つまり…もっと拓也くんと仲良くなりたいと……。

いや、そもそも僕と拓也くん、そこまで仲良くないんだけど。

でも、断るのもな〜〜。


「拓也くんと幼馴染なら、普通に遊びにでも誘えばいいじゃないか?」

「うぅ、私は人前で仮面をかぶるのはすごく得意なんだ」

「あ、うん」



それはどうかと思うけど……。



「で、でもどうしても拓也くんの前だと……緊張しちゃって、学校だと平気なんだけど……」

「う〜ん…」


「で、でも一つだけ拓也くんがハマってるゲームを知ってるんだ!!」


「へぇ〜〜なら、それで遊びに誘えば?」

「けど、私、実はゲームがすごく苦手で……いくら練習しても全然上手くならなくて……」

「あの、その拓也くんがハマってるゲームって何か、聞いてもいいかな?」

「スマットブラーズってゲームなんだけど」


え?あの超有名なスマットブラーズ!?

拓也くん、あのゲームやってるんだ。


スマットブラーズ、それは今、世界で流行している大ヒット対人ゲーム作品。

僕もかなりやり込んでいる。

なるほど、一度対戦してみたい……けど。

いや、待ていいことを思いついたぞ!!少し大胆だけど、これ以上絡まれるのも厄介だし……うん。


「やっぱり、拓也くんがハマっているゲームがあるなら、それに合わせた方がいいと思う、だから、練習だ!!」


「練習?」


「そう、スマットブラーズは反復練習やコマンド、小技テクニックがとても重要だ、そんな一石二鳥に強くなれるゲームじゃない!!」


「う、うん…なんか、テンション高いね」


「こう見えて、結構なガチ勢だから」


「へぇ〜男の子ってやっぱり、ゲーム好きなんだ」

「だから、僕が阿澄さんにゲームを教えるよ」

「え!いいの!!」

「うん、拓也くんの実力はわからないけど、まぁ1ヶ月もあれば、強くなってると思う!!」

「ありがとう、波人くん」


にっこりとした笑顔でお礼を口にする阿澄さん。

とはいえ、問題はどこで練習するかだ。やはり学校がいいだろうけど、ゲーム機なんて持っていったら、先生に怒られる。

う〜ん、どうしようか。


「じゃあ、早速、行こうか!!」

「え、どこに?」


「それはもちろん……波人くんの家へ!!」


「はいぃ?」


ーーーーーーーーーーーー


波人と阿澄のゲームつよつよなろう編①スタート!!


だいぶセリフが多くなってしまった……。

(by作者)






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