第一章:三幕 波人の事情と渚の事情

第19話 体育館裏に呼び出される王道展開

スマホから鳴り響く通知はだった。

そして相手の名前には阿澄と記載されていた。


なんで、阿澄さんからリャインが!?

ってか、僕って阿澄さんとリャイン…交換してないよな?


しかも、内容が『明日、会えませんか?』……。

絶対に何か狙いがある!!そんな気がする。


「うぅ〜と、とりあえず、既読はつけないでおこうかな…」


こうして僕は家に帰った。

そして次の朝、リャインのことなどすっかり忘れ、日曜日という優雅な1日を過ごした。

明日、学校という憂鬱感もあったが、昨日でかなり疲れていたのか、案外気楽に過ごせた。

そして波人はリャインのことを忘れていたことに、月曜日、学校の始まりの日に後悔するのであった。



「はぁ〜〜学校かぁ……」


いつもの通学路、去年と変わらない道、僕はいつも通り、一人で学校に向かった。


「よぉ!!波人!!土曜日はお楽しみだったみたいだな」

「正志くん…」

「おっ、元気がないぞ!!元気を出せ!!元気を」

「いや、そんなことはいい、なんで正志くんの口から土曜日って単語が出てくるんだ?」


僕は土曜日に遊びに行くと言った覚えはない。

だから、正志くんがどうして知っているのか……。


「ああ、それなら、あいつに聞いたんだよ…」

「あいつ?」


僕は顔をかしげた。

あいつって誰だろうか?、僕に友達なんてほとんどいないし……。

知っているとすれば、僕と渚が一緒に歩いているところを見た人になる。

正志が親指で刺した先には、戸惑っている拓也くんの姿が……。


「た、拓也くん!?」

「よ、よう…土曜日ぶりだな、波人」


手をこそっと上げて、挨拶をする拓也。

少し気まずそうにしながら、人差し指で頬をかく。


「………」

「な、なんだよ波人……」

「いや、なんでもない」


「てか、波人、いつから拓也と仲良くなったんだ?もしかして、土曜日の時に…」


「あ〜〜〜〜〜〜!!正志!!実はな!!お前の知らないところで仲直りしたんだ!!な!!波人!!」


どうやら、正志も僕と拓也くんの雰囲気に違和感を感じたようだ。

そして、拓也くんはあの時のことを知られたくないらしい。

ふふふ、これはやるしかないよな。


「実はな、正志くん、土曜日の日に拓也くんと会って…」

「おっ!!それは初耳だぞ!!」

「ちょっと待って!!波人〜〜!!」


どうやら、拓也くんは僕と会ったことを話していないらしい。

こんなのいじめだろ、と思った人もいるかもしれないがこれは当然の報い…。


「実は……」


そう言おうとした時、正志が突然、声をあげる。


「って!!そんな話をしてる場合じゃないぞ!!」


腕時計を確認すると、8時30分だった。

そういえば、今日はゆっくり家を出たんだった。


「急ぐぞ!!」

「くぅ、くそ!!」

「はぁはぁはぁはぁ……」


駆け足で学校の門へ向かう。

8時45分までに教室内へいなければならない。


「おっ…」


門の前には体育の先生が一人、立っていた。

時間は8時40分、ギリギリ……。


『はぁはぁはぁはぁ』


僕を含めた3人は膝に手を置き、門の前で息をあげる。


「珍しい3人組だな…まぁいい、こんなところで突っ立ってないで、早く教室へ向かった方がいいぞ」


「あ、はい」

「あざす、先生」

「………」


ギリギリ5分を残して、学校に到着した僕たちは、教室に向かう。


そういえば、なんか忘れているような……。


そんなことを思っていたら、もう教室の扉の前にいた。

正志くんが先頭に立って教室に扉を開け、その後ろについていくように教室に入った。


そして僕たちは自分の椅子に座る。

すると周りが少しざわめき出す。



「ねぇねぇ、さっき、拓也くんと一緒に来てなかった?」

「偶然でしょう、多分、たまたま出くわしただけよ」

「そ、そうだよね」



よく耳を傾けないと聞こえないが、陰キャの僕は耳がいいのでよく聞こえた。

陰キャは周りを気にする生き物……僕に聞こえない声などないのだ。


とはいえ、僕たちと一緒に出てきたことに周りはかなり気にしているようだった。


もしかして、拓也くんって結構人気だったりするのかな?


僕はふと、渚が座っている方向に目を向けると、渚がチラチラっとこちらを見ていた。

それに気づいた渚は微笑みながら小さく僕に向けて手を振る。

僕も周りに気づかれないように手を振りかえした。



「何、振ってんだ?」

「なんでもないよ……」



するとチャイムが教室中に鳴り響く。

8時45分になったのだ。


そしてまた1週間が始まった。


授業を受けて、お昼ご飯を食べて、また授業を受ける。

そして6時間目が終わり、気づけば、帰りの時間になっていた。


「ふぅ〜終わった…」

「お疲れ!!波人!!」

「正志くんは元気だね…」

「おう、体育以外の授業は寝てたからな」

「そ、それはダメだね…」

「知ってるか、波人…寝る子は育つって言葉があるんだぜ」

「………確かに寝る子は育つって言葉はあるけど、授業中に寝るのはどうかと思うよ…」


ポケットに入れてあったスマホが振動する。


「ん?」


僕はスマホを取り出し、画面を見ると通知が一件きていた。

通知をタップして、確認すると、リャインの通知だった。


「あっ…」

「どうした?」

「あ、いや……な、なんでもない」

「おいおい、怪しいな〜〜」

「本当になんでもないって…」


僕はスマホを隠しながら、リャイン画面をこそっと見つめる。


しまった…すっかり忘れてた。


阿澄さんの通知……。



阿澄:もう一度チャンスをあげます。放課後、体育館裏へ来なさい。いいですね?波      人くん



「こわ……」


僕は観念して体育館裏に行くことにした。

こういう問題は先延ばしにすると余計にややこしくなるってライトノベルの描写で書いてあったことを思い出す。


「波人は帰らないのか?」

「あ、ああちょっと用事があって……」

「そうか、あんまり時間かからないなら待ってるけど…」

「いいよ、待たせるのも悪いし、先帰ってていいよ」

「そうか、じゃあな」

「うん……」



「はぁ〜〜さて、いくか」



本を片付け、バックを持って立ち上がる。


「おお、今日は一人で帰るのか?」

「うん?ああ、拓也くん……まぁ、うん、そう…だけど、何かよう?」

「おいおい、ひでぇな〜」

「土曜日のこと、ここで全部……」

「そ、それは勘弁してくれ!!」

「ふん、で何かよう?」

「ああ、波人に聞くもんなじゃないと思うが、阿澄知らないか?」

「阿澄?」

「おう、ちょっと用があったんだけど、気づいたらいなくてよ…」


あすみ…アスミ……阿澄!?待って、もしかしなくても、あの阿澄さんじゃないよな。

嫌な予感がビンビンなんですけど……。


「波人?大丈夫か?」

「ああ、うん。その阿澄さんってうちのクラス?」

「お前何言ってんだ、阿澄はずっと2年B組だぞ、波人、もしかして……」

「あ、いや〜〜」

「お前ってあれか、クラスメイトの名前を覚えないタイプか…」

「まぁ、そうかな…」

「やっぱり、波人に聞くことじゃなかったな……」

「ごめんね」

「ふん、はなから期待してねぇから、大丈夫だ…じゃあな、波人」

「うん、バイバイ……」


まさか、あの阿澄さんが、僕と同じクラス……クラスメイト。

つまり、ずっと見られていたということになる。


「僕が、クラスメイトの名前なんて覚えているわけが…」


情報量が多すぎる。こうして重い足の一歩を踏み出し、体育館裏へ向かった。


長い廊下を歩く途中、金髪の小柄な少女が僕の横を通り過ぎる。

本を両手で持ちながら、駆け足で向かう姿……。

一瞬、目で追ってしまうほどに金髪と綺麗な碧眼が目立っていた。


「金髪って珍しいよな……」


僕はそのまま前へ歩き出す。

すると金髪の少女はふと振り向いた。


「あっ……」


金髪の少女は歩む足をピタッと止めた。




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