第15話 たまには波人がデレさせる

僕たちは少し離れた大きなシッピングモールへと向かった。

休日だから、かなりの人が訪れていて、家族ときている人達や、手を繋いで歩いている恋人などが多く見かけられた。


「こっちだよ」

「わかってるから…引っ張るなって」

「あ、ごめんね」

「可愛く言ってもダメです」


と言って、渚の頭にめがけて、チョップする。


「いて…うぅ〜ひどいよ〜〜」


早く行きたいのか渚は僕の手を引っ張り、エスカレーターで3階へ向かう。

そして、イキイキとした笑顔がよく目立つようになり、周りにいる人たちが渚へと目を奪われる。


これが可愛いが故の罪かぁ〜。


渚は気にしていないようだが、確かに目線が前より集まっている。


特に、僕に対する殺気の目線が……。


勘弁してくれ〜っと思いながら、周りを見渡す。

同じ高校の生徒がいないかを見ているのだ。


「なにボ〜っとしてるの!!」

「あっ、いや…」

「何か考えごと?」

「いや…別に…」


僕は顔を逸らす。しかし、道の途中で渚は足を止めて、ゆっくりと僕側へ詰め寄ってくる。

後一歩で密着しそうになるところで足を止めて、目線を下げて僕の顔を覗き込む。


眉を八の字にして、少しプクッとした顔で僕の瞳を見つめながら……。



「やっぱり…わたしと一緒にいて、楽しくない?」



プクッとした顔は一瞬で緩み、潤んだ瞳が僕の瞳に映る。


「そんなことはないけど…め、目線が……」

「目線がどうかしたの?」

「いや〜〜」


すると渚は目線を戻し、周りを見渡すと、見惚れていた…特に男子が一斉に目線を逸らす。

まぁ〜そうするよな、僕でも多分、逸らす。


「ふぅ〜ん、なるほどね」


なにが、なるほどね…かはわからないが、渚の瞳に光がないのだけはわかる。


怒ってる?渚が…?


別に意外ではないが、なんか少しかっこいい気がする。

身長はやや僕の方が高いけど、可愛い雰囲気とはまた違い、クールな雰囲気が漂っていて、なるで海外のモデルさんみたいだ。


「波人くん…」

「はい…」


謎の圧がある重い声で渚は僕の名前を呼んだ。


すごく怖いんですけど……渚さん。


すると渚は僕の肩に手をそっとおいた。その感触はしっかりと伝わっていて、普通の男子生徒なら「やった〜!!」と喜ぶだろうが……。

渚の後ろから感じる謎の圧を感じれば、きっとそんなこと…思わないだろう。



「波人くんってもしかして結構、人の目線を気にするタイプ?」

「え…あ〜その〜」

「答えて?」



優しい笑顔でこちらを見つめる渚。けど目は全然笑っていない。


僕…何かしましたか?

いや、まぁ確かにボ〜っとしてたのは悪かったけど……。



「まぁ〜それなりに?」

「そう、私は思うんだ、人の目線を気にするのは、自信のなさの現れだって…」

「………」


言い返せないし、納得した。

確かに、僕は自分自身に自信が持てないし、自信を持っている人たちのことが逆に不思議に思うほどだ。


「それに、波人くんは私に対して気を遣いすぎ…もっと砕けた感じに来ないと…気を遣いすぎると疲れちゃうし、余計…目線が気になって、楽しめないよ…」


「そ、そんなこと…言われてもな…」

「だから、私が波人くんに自信をつけさせてあげる」

「へぇ?」


突然、渚から「自信をつけさせる」宣言。なぜ、そうなる?

さっきまで責められていたはずなのに…なぜか僕に自信をつけさせる話になった。


「そうと決まれば、善は急げ!早くいくよ!!」

「ちょっとっ…」


明るくなったり、暗くなったり、本当になんて言うのかな、情緒が不安定…なのか?

渚は僕の腕を掴むと、胸が腕にふわっと触れる。


渚…胸が…。


声には出さなかったが、例のアレが当たっている感触が服から肌へじんわりと伝わってくる。

そんなことも気づいていないのか、渚は早歩きで目的の場所へ向かう。


「ついたよ…」

「ここが……」


渚に流されながらついた場所は確かに洋服などがたくさん並んでいるのだが、ここはかの有名な某G○だった。

いやいや、普通すぎる。僕なんてここ某G○にどれだけ行ったことか。


「渚、ここって…」

「うん!ここなら安いし、何よりコーデがしやすいの」

「へぇ〜そうなんだ…」


某G○でコーデなんて考えたことなかったな。

大体、パッと選んで買うって流れが僕なんだが、それこそここでコーデなんてしたことがない。


そもそも、男一人が「え〜これがいいかな?やっぱりこれ?」ってやっている姿を想像して見ろ……誰だって引くだろう?



「じゃあ、いくよ…波人くん」



渚のことだから、最もおしゃれなお店だったり、ブランドものの服かなっと思ったけど、渚は僕が思う以上に普通の高校生だった。

もしかすると、僕が勝手に遠い存在だと決めつけていただけなのかもな。


僕と渚が店内に入り、周りを回っていると「この服、波人くんに似合いそう〜〜」っと言って、掛かっている服を手に持つ。


「う〜ん、これじゃないな」


渚は服を持ちながら、僕に服を重ね合わせる。

すぐに次へ次へと手早く選んでいき「これじゃない、これかっこいい!!」など楽しそうに服を選んでいく。


「波人くんは動かないでね…ずれちゃうから」


なにが?っと思ったが、楽しそうに服を選ぶ渚の姿を見ていると「しょうがないな」って気持ちになる。



けど、長すぎないか!?もう1時間半は立ってるよ!!

はぁ〜〜〜早く終わりたい……。



涙がこぼれそうになるが、渚は今も変わらず僕の服を楽しそうに選んでいる。

そんな姿を見れば、涙なんて引っ込んでしまう。


けど!!流石に……きついです。


「よし、こんなものかな…じゃあ、波人くん」

「はぁ〜な、なに?」

「次は、試着室へいくよ」


「え?」


「え、じゃないよ、せっかく波人くんに似合いそうな服を選んだんだから、着させて試さないと」

「あ、そうか……」


ふん…いや、まぁ、確かにせっかく選んだんだから試着はした方がいいよな。


けど、流石に…疲れたな〜〜。


そう思いながら、ふと渚の顔を見ると、今すぐにでも試着室に行きたそうな輝いた瞳でこちらを見つめていた。

少し休みたいって言いたいけど、こう言う機会もなかなかないだろうし、いいか。


「よし」


「ふふん…」


「どうした?急に笑って…」


すると渚は一歩前へ踏み出し、ウィンクしながら僕に向かって言った。


「……覚悟してよね!この私が波人くんをかっこよくしちゃうんだから」


その小悪魔のような微笑みに少しおちゃらけな表情に目を奪われた。

だが、僕はそれに動じずに……。


「それは、楽しみだな」


僕はスラっとした顔で渚に微笑んだ。

その顔を見た渚は頬を赤く染めて、一瞬、………硬直した。


「どうした?」


僕は咄嗟に声をかける。


「な、何でもない…そ、それより早くいこ」

「あ、ああ」


渚はそっぽ向いて、試着室へ向かう。

なぜか、僕と顔を合わせてくれない渚。

また怒らせちゃったのか?っと思いながら、渚について行った。


その時の渚は頬を手で押さえていた。

熱くなる顔と頬…渚は自分の体になにが起こっているのか分からずにいた。


「どうしちゃったんだろう…かぁ〜〜」


波人くんには見られないように、熱が収まるのを歩きながら待った。

今頃、後ろについて来ていると波人くんは不思議に思っているんだろうな。

そして少しづつ、熱が治まっていき、試着室についた頃には熱はなく、頬の色も戻っていた。

そして冷静になってきた渚は頭の中で………思った。


ーーかっこよかったな、波人くん















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