第9話 毒舌を振るう天音渚

予想外の質問にクラス全員は驚くも、気になる様子を見せる。

それもそうだろう。

僕と渚さんが突然、お昼を共にして、『一緒に帰ろう』と誘われた現場を見た生徒たちは当然の疑問だ。


だが、一つだけ言わせてもらうと、僕だってわからないんだ。

原因があるとすれば、河川敷の橋の下での出来事だけど、そんなことを説明したって理解してもらえるわけがない。


「答えられないのか?波人…」

「う、う〜ん…」

ーー困ったな、どう答えよう


ここはやはり「ただ偶然ですよ」と白を切るか、素直に河川敷の橋の下での出来事を説明して、理解を求めるか……いや、どちらを選んでも結果は同じだろう。

…そもそも僕と渚さんはどんな関係なのだろうか。


ただのクラスメイト?

河川敷の橋の下で出会っただけの関係?

それともただの他人?


わからない。



すると、一人の真っ直ぐな透き通った声が、聞こえた。


「拓也くん…あなたは何が言いたいの?」


渚さんが口を開いた。


「おう?俺はただ、お前たちの関係を聞いただけだ…」

「そうなの、でもそれを聞く意味が私には理解できない…そこまで知りたいのことなの?」


「ははっ!!渚は自覚がないかもしれねぇが、お前はクラスでかなり人気だ、クラスだけじゃない、学年中がお前のことを知っている、だがよぅ、そんな渚がいきなり、話したことすらねぇやつと一緒に楽しく話していたら、そりゃぁ〜気になるよな…お前らもそう思うよな!!」


拓也は自分の質問を正当化しつつも、周りの生徒達にも呼びかけた。


「それはあくまで、あなたの質問ですよね?」


「はぁ?」


「そもそも、私が誰と楽しく話していようが勝手でしょう、どうして私があなた達にいちいち、「誰かと話していました」と報告しなければいけないのですか?それに、私をそんなに見ているなんて、拓也くん、もしかして私のことがなのですか?」


「なっ!?」


頬を染めて、驚きの顔を見せる拓也。

さらに渚さんの毒舌が続く。


「はぁ〜どうして男子はこうも独占欲が強いのかな、そんなだから、彼女の一人もできないのよ、あっ!もしかして、拓也くんって自分のことかっこいいとか思ってる?もしそうなら、それはただの勘違いよ…顔を洗って出直しなさい…」


「ちょっと!!渚ちゃん、流石に言い過ぎですよ!!」

流石の先生もこの様子を見て、怒った。


「すいません、先生…ですがこうでも言わないと、波人くんが可哀想じゃない?」


ーーまさか、渚さん…僕のために


「お、俺は…くぅ〜」

涙を堪える拓也、下を噛みなんとか、耐える。


「渚ちゃん、落ち着こう…ねぇ…」

今にもまた、開きそうな渚さんの口を紗枝さんが言葉でいさめた。

気まずい空気が流れる中、先生が言葉を挟む。


「で、では!!次の人…いきましょうか、波人くんありがとうね」


「あ、はい」


そのまま僕は自分の席に戻った。

未だに右ほっぺが小さい風船のように膨らませる渚。

そんな渚をいさめている紗枝。


クラスの空気は最悪の状態へとなった。

そのまま、最後まで自己紹介は続いた。


静まる空気の中、先生は何事もなかったかのように振る舞い、自己紹介を盛り上げた。

空気を読んだ生徒達も、先生と一緒に盛り上げた。



学校の帰り道、楽しく会話をしながら、渚ちゃんと紗枝ちゃんは歩いていた。


「渚ちゃん、あんまり言い過ぎはよくないよ」

「そんなこと言われてもさぁ、なんか…かぁっ〜ときちゃったんだから、しょうがないじゃん」

「でも、流石に今回は言い過ぎたった…」

「むぅ〜ん…」

「もう…」




ーー本当に渚ちゃん変わったな〜〜あんなに真剣になって…これが恋の力なのかな?


別に恥ずかしいことではないと思うけど、私…夏樹紗枝は初恋以降の恋をしたことがない。

今は別に恋をしたいわけじゃあないけど、隣で今、恋という幸せを噛み締めて生きている渚ちゃんの顔を見ていると、「私も恋したいな」と思ってしまう。


渚ちゃんが羨ましい、私も渚ちゃんみたいな純粋な恋がしたい。

そんな気持ちがといると溢れてきそうになる。


「紗枝ちゃん?…紗枝ちゃん!!」

「あっ!?な、なに?」

「何って…呼んでも全く反応がないから…」

「ご、ごめんね、ちょっと考えごとが…」

「ならいいけど…」


ーー本当に、今の渚ちゃんは輝いている、あの頃に比べれば…高校1年生の時に比べれば…


そんな会話を続けていると、今日体育で使った体操服を教室に置いてきたことを思い出す紗枝。


「あっ!?」

「どうしたの?」


「ごめん、渚ちゃん…教室に体操服忘れちゃったから、先帰ってて…私は今から学校まで取りに行くから!!」


「あ、うん」


「じゃあね!!渚ちゃん!!」

「じゃあね…紗枝ちゃん…」


そのまま紗枝ちゃんはダッシュして学校に戻った。



時間は少し遡り、帰りの挨拶を終えた僕。

自己紹介での気まずい空気は漂っていないが、佐藤くんは不機嫌そうな顔つきで教室から出ていった。

「拓也のやつ、かわいそうだよな」

「そ、そうだね…」

「大丈夫か?五十嵐…」

「うん…」


ーーけど、心配だ…


あんだけ、渚さんに毒舌で責められたんだ、きっと傷ついたに決まっている。

僕だって、あんなこと言われたら、教室からすぐにでも飛び出したくなる。


「正志くんは何してるの?」

「うん?五十嵐と帰ろうかと思って…」

「先に帰ってていいよ、僕、ちょっと寄りたいところがあるから」

「そうか…待っててやりたいけど、俺バイトがあるからな…じゃあ、俺は先に帰るわ、じゃあな五十嵐!!」

「うん、バイバイ正志くん…」


そのまま正志くんは帰った。

正志くんが教室から出ていくところを見届けた僕は家庭科室に向かう。

その理由はあるものを治そうと思ってのことだ。


「確か、ここを右だよな」


多目的室の突き当たりを右に曲がると『家庭科室』と書かれた表記を見つける。


「あ、あった…」


家庭科室の前にたち、扉をガラリっと開ける。


「え…」

「あ…」


扉を開けた先には、大きな巾着袋を持っている夏樹さんがいた。

急に開いた扉に驚いたのか、咄嗟に振り向く夏樹さん。



その時、僕は夏樹さんと目があった。

















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