第8話 『自己紹介』を乗り越えたと思ったら…

先生がくじ箱から取り出した紙。

その紙に書かれた最初の生徒の名前は……


『一之瀬亜由美(いちのせあゆみ)ちゃんです!!』


「あ、はい!!」


僕は最初ではないことにホッとする。

ーーよかったぁ〜、最初じゃなくて…


「顔に出てるぞ〜〜」

「うっ、そんなに出てるか?」

「まぁ〜俺がわかるほどにはな…」

「そ、そうか…気をつけよう」

「まぁ、どうせやる羽目になるんだし…そんなに緊張してたら、身がもたないぞ?」

「だよな〜けど、しょうがないだろう?」


ーーだって、こういうの苦手なんだから


これが本当の陰キャと陽キャの違い。

『自己紹介』にしろ、何かを発表する時も、みんな緊張するものだ。

それに陰キャと陽キャは関係ない。


だが、緊張感の度合いが違う。


陰キャと陽キャに別れると言うことは、ここまでに至るまでの人生で友達との関係や親子関係に大きな差があったと言うことだ。

まぁ簡単に言うとというものだ。


例えば、人前で10回以上発表をした者と人前で1回も発表をしていない者とでは質も分かりやすさも変わってくる。

つまり、陰キャと陽キャの区別において、今ここに至るまでの人生で何をしてきたかよるということだ。


そして僕は、今まで地味にいろんなことをしてきたものの、人と接することが少なかったゆえに、陰キャという分類に入ってしまったということだ。


「じゃあ、亜由美ちゃんがトップバッター!!お願いね」

「は、はい!!頑張ります!!」


少し緊張気味な一之瀬さんはオドオドしながら教卓の前まで歩く。

僕たちのクラスはかなりの人気を得て、渚さんに注目されやすい。

だが、一之瀬亜由美さんもかなりの人気を得ている。

『クラスで3番目に可愛い』という男子生徒からの評価で、一部の層では人気者がある。


そんな一之瀬さんが教卓の前に立つと、ついに『自己紹介』が始まった。


「え〜と、私の名前は一之瀬亜由美といいます」


自己紹介と言えば最初は自分の名前から、というのは定番だ。

そこから……。



趣味→       本を読むこと、勉強

好きな食べ物→   甘いお菓子全般

得意なスポーツ→  テニス

好きな科目→    保健体育

クラスの皆に一言→ これから1年仲良くしてくれると嬉しいです



とこんな感じの流れで一之瀬さんの自己紹介が終わった。

1時間しかないこの時間を手短に終わらせたのだ。

そしてその自己紹介の生徒の反応は……。


「お〜〜〜!!」

「亜由美ちゃん、可愛いよ!!」

「これから1年よろしくね!」


と反応が返ってくる。

まぁ一部、男子生徒の煩悩が紛れていたが……。


「さすが、亜由美ちゃん、最高の自己紹介をありがとうな!!」

「あ、はい…」


少し苦笑いを見せて先生の返答を流し、自分の席に戻る。

席に戻っていく中、一之瀬さんとチラッと目が合うとその瞬間、「ふんっ」と鼻で笑ったような気がした。


「え…」


驚きのあまり、声が漏れる。


「どうした?五十嵐…」

「うん?いや、何でもないよ」

ーー今、一之瀬さんに笑われたような…気のせいかな


こうして次々と自己紹介が進んでいき、一向に僕が呼ばれる気配がない。

そしてそのまま、正志くんが自己紹介を難なくとやり終え、次に夏樹紗枝さんが行った。


ーーやばい、このままでは最も恐れていた最後の締めをやるハメに…


何事にも最後というのは誰もがやりたがらない。

それこそ、自信がある人以外は誰もが避けるだろう。


すると次に自己紹介をするのが渚さんだった。


「じゃあ、次は渚ちゃんで〜す!!教卓の前へどうぞ!!」

「はい…」


渚さんは席を立ち、教卓の前へ歩く。


その姿はただ歩いているだけなのに、美しい佇まいに、ふんわりとなびく綺麗な黒髪、横を通り過ぎた時の香る匂いは豊かな香りをかもしだし、みんなが喋るのをやめ沈黙し、注目する。


ーーやっぱり、渚さんはすげぇ〜な


男子生徒のほとんどは見惚れている様子、かくいう正志も鼻を伸ばしている。

まぁ、僕も一瞬、見惚れてしまっていたが…。


「では!!みんな待望の〜〜渚ちゃん自己紹介です!!」

「待望って、大袈裟な」

「そんなことないよ〜〜じゃあ、お願いします!!」

「もう〜私の名前は皆、知っていると思いますが、天音渚と言います」

 


趣味→       最近はお弁当を作ること

好きな食べ物→   母のカレーライス

得意なスポーツ→  あえて挙げるなら、弓道でしょうか

好きな科目→    世界史

好きな人→ ひ・み・つ

クラスの皆に一言→ このクラスでたくさんの思い出を作りましょう

 


とこんな感じだ。そして『好きな人』という質問に対しては「ひ・み・つ」と回答したときは男子生徒たちが大いに盛り上がった。

その時、なぜか僕は渚さんと目があった。


ーー今日はよく、人と目が合うな


渚さんと目が合うとなぜ、ウィンクを向けられた。

それはもう「ズキューン」って感じで心に矢が刺さったよね。

あれで惚れない人が一体どこにいるのだろうか。


ーーって僕は何を言っているんだ…


少しずつ、渚さんに毒されている気がする。

こうして渚さんの自己紹介が終わった。


「サービス精神、大いに歓迎だよ!!渚ちゃん!!」

「何のことですか?」

「ははっ!!惚けちゃって、さすがクラスのアイドルだね〜〜」


その言葉に渚さんは「?」と頭を傾げる。


とりあえず、渚さんの自己紹介が終わり、席に戻る。


ーーそろそろ終盤、どうか!!どうか!!


早く当たってほしいと、祈り続ける波人。

そしてついに……。


「おっ!次は波人くんだよ〜〜」


「は、はい!!」


緊張あまり、声が裏返る。


「あんま、緊張すんなよ」

「う、うん」

正志くんに励まされ、僕は教卓の前に立つ。


ーー緊張するな〜しかもよくみんな顔が見える、はぁ〜〜


慣れない人前に緊張して心臓がバクバクっと鼓動が聞こえる。

あまり見ることがないクラスメイトの顔つき、渚さんはというと……。


なぜか、真剣な顔つきで、メモ帳とペンを持って、こちらを見つめている。


ーーあのメモ帳、何に使うんだろう?別にメモすることなんてないような…


正志くんの方向を見ると、ニヤニヤとしながら、同じくこちらを見つめている。


ーーあの野郎、清々しいほどのいい笑顔だな…


「現在、注目されている波人くん…」

「注目?」

「あれ?知らないの?まぁいいか、あんまり時間もないし手短にどうぞ!!」


注目という言葉は気になったが、その言葉は自己紹介が一瞬でかき消した。


「あ、あ、え〜とそ、その〜五十嵐…波人といいま、す…はい」

緊張しすぎるあまり、辿々しい口調で僕の自己紹介が始まる。


趣味→       本を読むこと

好きな食べ物→   中華料理

得意なスポーツ→  特にないけど一般的に全般はできる

好きな科目→    国語

クラスの皆に一言→ 1年間、よろしくお願いします…


という感じで辿々しかったけど、何とか、やりきった波人。

自己紹介を終えると、緊張が少しだけ和らぎ、心臓の鼓動が小さくなっていった。


ーーふぅ〜終わった…


こうして僕の自己紹介が終わったわけだが…。


「渚ちゃん…何しているの?」

「え?メモを取っているの」

「メモ?」

「うん、忘れないうちにメモ取らないと、忘れちゃうでしょ?」

「あ、うん」

渚さんと隣の席の女の子と話す様子が見えた。


ーー渚さん、あんなに真剣にメモを取って…気になる…


「波人くんにちょっと質問いいですか!!」


突然、一人の男子生徒が声をかける。


「質問ですか〜〜う〜ん、波人くんは大丈夫ですか?」


先生は少し悩みながらも、僕に「大丈夫?」と問いかけた。


「は、はい…大丈夫です」


「では…拓也(たくや)くん」


「すっげぇ、ずっと気になってたんだけどよぅ、とはどんな関係だ?」


その瞬間、教室中が沈黙の渦へ流される。

流れる気まずい空気、全クラスメイトが「気になる」という感情を瞳に輝かせ、熱い目線が波人に集まっていく。

それもそうだろう、だってみんなが気になっていることなのだから。


「え…え〜と」


僕はその返答に言葉が詰まる。


ーーーーーーーーーーーーーー


登場人物一覧


五十嵐波人(主)

天音渚

安曇正志

夏樹紗枝

一之瀬亜由美(新キャラ)

佐藤拓也(新キャラ)












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る