第7話 陰キャぼっちの敵『自己紹介』が迫っています

不思議なことに5時間目の授業が早く進んでいった気がした。

よく、嫌な授業がある時に限って、授業の進みが早く感じたり、好きな授業があるときは授業が遅く感じたりすることがあると思う。

僕は今、その状態に陥っている。


ーーああ、あと10分で5時間目の授業が終わる


「はぁ〜〜」


ため息を吐きたくはないが、『自己紹介』があると思うと、自然と口からため息が漏れる。

そして5時間目のチャイムが鳴る。

なぜか、今日のチャイムは、よく耳に響いた気がした。

地獄のチャイムが鳴り、より気分が落ち込む波人。


『自己紹介』から逃げるように、僕は本を開いて、読み始める。


だが、全く落ち着かない。


ーーうぅ〜ダメだ、内容が全く入ってこない


「だ、大丈夫か?」

「あ、うん…なんとかね」


正志からも心配な顔つきで、話しかけれた。

やっぱり、僕の表情に表れているらしい、『自己紹介』が嫌だという気持ちが……。


「五十嵐って、そんなに自己紹介が嫌なのか?」

「ああ、嫌だ…何なら、学校を今すぐにでも休みたいほどに嫌だ…」

「ま、マジかよ…一体何がそんなに嫌なんだ?俺にはよくわからん」


「正志くん、君は友達が多いからいいかもしれない、けど僕はね…友達が少ないんだ!!」


「お、おう」

「そんな陰キャぼっちが、自己紹介でもしてみろ、変な目で見られるか、無視されるか、変な噂を立てれらるわ…ああ、、自分がをしている姿を想像するだけで…」


「なんか、偏見しかなかったような気がするが…まぁ大丈夫だって、案外、みんな笑ってくれるかもだぜ…それに五十嵐、お前はもう十分、うちのクラスでは有名人だってことを自覚した方がいい」


「うん?」


その言葉を聞いたクラス内の男子生徒が「うんうん」と大きく頷いた。

それもそうだろう、振り返ってみると、『クラスで一番可愛い女の子』で有名な天音渚と一緒にお昼ご飯という天国のような時間を過ごし、さらに「一緒に帰ろう」って誘われたという経験を持つ。

しかも、その誘いを断るという勇気を持っている、そんな奴が目立たないわけがないだろう。


「とにかく!!身構えすぎってことだ、気楽に行こうぜ、五十嵐」

「う〜〜やっぱり無理だ〜〜」

「おいおい」


身構えずにって言われても、僕の人生経験上無理な話なのだ。


「当たって砕けろ!!よし砕けよう…」

「いやいや、砕けんなよ」



そんな楽しげな様子を見つめる天音渚。

渚ちゃんが見つめている様子を楽しむ夏樹紗枝。


「また、五十嵐くんのこと見てる〜〜」

「なっ!?別に見てないけど…」


とハッと驚き、慌てて理由を述べる渚。

紗枝には目線を合わせず、そっぽ向いた。


「もう、言い訳しも無駄だって〜〜」


そう言って紗枝は渚ちゃんに抱きついた。


「ちょっと、紗枝ちゃん…やめてって」

「だって〜〜渚ちゃんがこっち剥いてくれないんだも〜〜ん」


渚ちゃんと紗枝ちゃんがイチャイチャする様子をクラス内の男子生徒がいやらしい目で見つめる。

女子が抱きつくことで大きな胸同士のぶつかり合い、ふわっと胸が接触し、離れるときにまたふわっと元の綺麗な形に戻っていく。

それをみるだけで胸の大きさによるエロさが見じみだす。


「ごくり…あれはやばいな」

「ああ、あの胸に挟まりたいぜ」

「はぁはぁはぁ…さ、さいこうでござる」

「あれこそまさに、美乳〜〜美しい!!」

と感想を語り合う男子生徒。


それを見た他の女子は……

「うわ〜きも」

「これだから男子は…」

「最低〜〜」

「下心丸出しじゃない」

と氷のような視線を向ける。


そんなことも気づかず、渚ちゃんと紗枝ちゃんは楽しくイチャイチャする。


「ねぇねぇ、渚ちゃん」

「な、なに?」


紗枝ちゃんは渚ちゃんに顔を近づけ、ゆっくりと小さな声で呟いた。


「次の自己紹介、五十嵐くんのいろんなことが知れちゃうね」


と少し吐息が混じった声が渚ちゃんに耳に入る。


「きゃっ…ちょっと紗枝ちゃん!!」

「ふふふ…渚ちゃん、可愛いよ」

「もう…本当にやめてよね」

「でも、知っておいて損はないでしょ?」

「そ、それはまぁ〜そうだけどさぁ〜」



「あの二人、一体何を話してんだろうな」

「さぁ?たださっきの渚ちゃん、すごく可愛かった」

「同感だ」

「歓喜極まり!!」

と男子が渚ちゃんの反応を見て感動していた。



「あいつら、相変わらずだよな」

「まぁ、あれで楽しめてるならいいんじゃない」

控えめに言って関わりたくはないと思う波人だった。


そしてついにチャイムが教室に鳴り響いた。


「お久しぶりだね、みんな!!このクラス担任の先生だよ〜〜!!」


元気よく、教室から飛び出してきた先生。

しかし、クラスの生徒たちは全くの無反応だった。


「あ、あれ〜〜?みんな、さっきまで元気だったじゃん、ど、どうしたの?」


少し困った様子を見せながら、苦笑いする。


「先生…」

「な、渚ちゃん…」

「歳を考えた方がいいかと」

「がっ〜〜〜〜〜ん」


先生に強烈な棘が心に刺さった。

ヒョロヒョロになりながら、教卓の前まで歩き、近くにあった椅子にそろりと掛ける。


「なんか、先生、急にテンション下がったので…ちゃっちゃっと自己紹介をしようと思います」


言葉に感情が乗っていない先生。


「先生…」

「何ですか、渚ちゃん」

「嘘ですよ、ただのジョークです」

とにっこりと微笑んだ。


その言葉が耳にスッと入ると先生の顔はミルミル笑顔へと変貌していった。


「だよね〜〜あはは、焦っちゃった!!テヘッ、ペロッ」


クラス内の全生徒が思った。


『先生、チョロすぎ』


先生は元気を取り戻し、仕切り直した。

「じゃあ!!あらためて早速!!自己紹介を始めていきたいと思いまぁぁぁぁぁす!!!!!」


『いぇ〜い!!!』

とクラス全体が盛り上がる。


ーーはぁ〜〜ついに始まった…


「では!!早速!!自己紹介をする上での順番は〜〜〜〜〜これ!!くじで決めます!!」


と先生が教卓の引き出しから多少大きいくじの入れ物を取り出す。


「このくじ箱の中には私の大切な生徒の名前が書かれた紙が入ってます、この中から一枚取り出して、呼ばれた人から順番に自己紹介をしてもらうので心の準備をしておいてくださいね!」


ーーマジか、まさかのくじ…


「いや〜くじか〜〜これは楽しみになってきたな、いがら…しぃぃぃぃ!!!」

「はははははは…」


腑抜けた声が口から漏れる。


「お〜い!!帰ってこい!!」


抜け殻な僕を見て、肩を掴んで揺さぶる正志。


ーー正志くん、僕のことは放っておいてくれ…


「じゃあ!!最初の一人目は〜〜〜〜〜だれかな〜〜〜〜〜」


先生がくじ箱に手を突っ込み、ぐるぐると掻き回す。


「さて、トップバッターは…この人だ!!!」


くじ箱から一枚の紙を取り出す先生。

そしてその紙に書かれていた名前は…。











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