第4話 渚さんと食べるお昼(渚さんが攻めてくるだけど)
気まずい空気が流れ、僕は困惑する。
ーーどうして、話しかけてくるんだよ、しかもちょっとテンションが違う
すると天音渚は後ろに控える友達を無視して、僕の前でスカートがふわっと広がり、僕の目を覗き込むようにこちらを見つめた。
「な、なに…」
「うんうん、ちょっと顔を見たかっただけ…ねぇねぇ昨日はありがとうね」
「あ、うん」
「お礼なんだけど、今日のお昼…一緒に食べない?」
少し頬を染めて、人差し指でツンツンと上目遣いでお願いされた。
ーー眩しい…
周りからの目線はより冷たいものになり、僕個人としては最悪な状態に陥った。
しかし、ここで断れば、それこそ周辺の男子生徒の怒りをかうだろう。
「そう、だね」
「やったぁ!!約束だよ」
と僕の鼻を指で優しく押して、いつも絡む女子グループの元へ戻った。
ーーとりあえず、座ろう
自分の席に座り、教材などを取り出して、準備をし本を読む態勢になる。
「おいおい、なんであいつが、渚ちゃんと話してんだ?」
「さぁな?俺が聞きたいね」
「なんか、ありがとうって言ってたし、何か手助けでもしたんじゃない?」
「まぁ、あいつと渚ちゃんが釣り合うわけないし」
「だよね〜〜」
クラス中が、僕と天音渚についての話で持ちきりとなった。
どこのグループも同じ話ばっかりで、気まずかった。
それでも学校というのは始まっていく。
チャイムが鳴るとガラガラっと教室の扉が開く。
「みんな、おはよう〜〜〜〜!!!今日もみんな元気かな〜〜〜〜、よし元気だね」
朝礼がいつも通り始まり、気づけば終わっていた。
そして、僕はずっと、今回のことについて考えた。
まず、天音渚さんが昨日会った時とはテンションが違っていたことだ。
まぁ昨日あの様子から見ても何かがあっただろうから、あの様子だったのだろうけど、流石に違いすぎない?
そもそも天音渚んのことはよく知らないからなんとも言えないけど、あのノリはついていけない。
けど、もう僕は今日、あの天音渚さんとお昼を一緒に食べる約束してしまった。
ーーあ〜どうしよう、ほんとにどうしよう
できれば、男子生徒には目をつけられたくない。
そんな思考が脳内で巡り続け、気づけばお昼の時間を迎えていた。
チャイムが鳴り、みんなが教室を出て食堂に行ったり、教室でお昼を食べたり、外で食べたりと、みんなが教室から出ていく。
しかし、それも束の間、僕が席に立つと、すぐ隣には天音渚さんがすでにスタンバイしていた。
「え?」
「一緒に食べよ?」
と言って二つのお弁当箱を持つ。
ーーどうして二つも?結構、食いしん坊なのかな?
こうして連れて行かれたのが屋上だった。
「ここにきて大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、バレなきゃ」
「あ、うん」
屋上までの渡り道、すっごい目線を集めていたような気がするんだけどな。
「じゃあ、早速、食べる前にこれ…」
そう言って渡してきたのが、青い布で包まれた弁当箱だった。
「お礼って言ったでしょう?これはそのお礼…」
「あ、ありがとう」
お弁当は持参してあるのだが、せっかく作ってもらった以上、受け取らないわけにはいかない。
「ほら…ここ座って」
天音渚さんは自身の隣をポンポンと叩いて、笑顔で言う。
「流石に、隣は…」
「え〜〜どうして?」
と首を傾げて悲しそうな顔を浮かべる。
「いや、その…せめて向かい合いでお願いします」
「まぁ、それでもいいかな」
納得した顔で僕に目線を合わせた微笑んだ。
今目の前にいるのは本当に天音渚なのだろうかと、僕は疑い始めた。
僕は天音渚さんと向かい合い、同じ弁当箱の中身を開ける。
最初に下段の中身を確認すると白米の上に細かく刻まれたシャケがふりかけられていた。
ーーめっちゃ、美味しそうなんだが
上段のおかずの中身を確認すると定番のタコさんウィンナーが2個、明らかな手作り感のあるだし巻き卵、ポテトサラダが添えられていて、メインおかず、少年の心をくすぐるハンバーグと唐揚げのセット、しかもこれも冷凍ではないのは見てわかる。
これは完全に全てのおかずが手作りの弁当だ。
ーーお、恐ろしい、けどめっちゃうまそう
「すごく、美味しそう…」
「でしょう…さぁさぁ食べて」
「うん」
俺は箸を手に取り、おかずの中でだし巻き卵をとる。
天音渚さんはこちらを期待の眼差しでじっと見ている。
ーーてか、近い…
「いただきます、パク」
口の中に入れた瞬間、ふんわりとした食感に加え、出汁の香りが鼻を通って広がり、甘すぎず、とても食べやすい。
これは……
「めっちゃうまい…」
「よ、よかったぁぁ〜〜〜」
隣で気が抜けたのか、手を地面につけて、胸をさする。
「お、この唐揚げもうま」
「うん、よかった、よかった、わざわざ、朝3時から仕込んでおいてよかった…」
「うん?なんか言った?」
「うんうん、なんでもないよ、さぁじゃんじゃん食べてね」
満足そうな笑顔、よく見ると綺麗な手の指先まで絆創膏だらけだった。
「天音さんも一緒に食べよ」
「そうだね」
気づけば、僕は平気で話せるようになっていた。
僕ってもしかして結構、ちょろいのかも、けどまぁいいかな、こういうことももうないだろうし。
ーー噛み締めよう
僕は渚さんと喋りながら、お弁当を食べた。
「ねぇねぇ、これからは私のこと渚って呼んでほしいな」
「え、でもそれは…」
「ね?」
ゆったりと近寄って、上目遣いで頼んでくる天音さん。
見えそうな胸元がチラついて冷静な判断ができず、頭に血がのぼる。
「渚さんからでいいかな?その流石にいきなり呼び捨ては…その恥ずかしいというか、なんというか」
「う〜〜〜わかった、じゃあ渚さんでいいよ、でも絶対に渚って言わせるんだから、覚悟してね、な・み・と」
と言って、可愛い笑顔でウィンクをした。
僕の体温が上昇して、体が熱くなる。
「あれ?なんかすごく暑いな…」
「冷たいお茶飲む?」
「うん、いただくよ」
僕は冷えたお茶を一気に流し込む、それでも暑さは変わらず、より一層暑くなる。
気づけば、お弁当を食べ終えていた。
「この弁当箱、洗って明日返すよ」
「え、全然私が持ち帰るけど…」
「そこまでしてもらうのは気が引けるからさぁ」
「う〜うん!わかった、じゃあお言葉に甘えておくね」
僕たちはそのまま屋上を降りて、教室に戻った。
その姿を後ろで確認する一人の女子高生。
「あの人が五十嵐波人……うん、顔はしっかりと覚えました」
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