第2話 アンドロイド索敵部隊

 俺たちは警視庁内に設けられたアンドロイドに特化した集団、アンドロイド策敵部隊。通称『アンショウ』と呼ばれる部隊に属している。



 近年、様々な技術が飛躍的に向上しており、その技術はロボットにも勢力的に注がれた。その中でも驚異的なスピードで成長しているのが、アンドロイドだった。

 昔は動きも声も思考も機械的で、誰がどう見てもロボットにしか見えなかったそれらは、様々な研究と技術の向上によって見た目も声も動きも、全てにおいて人間と遜色のない作りとなっていた。

 AIによる学習能力は高く、人間とのコミュニケーションを可能にしていった。


 それらの完成品は研究者だけに留まらず、一般向けにも販売を開始した。

 出たばかりの頃は何千万という代物であり、金持ちで物好きの道楽でしかなかったが、次第に安価な材料開発によって、手に届く存在になると、企業が案内などの接客要員として導入するようになった。


 しかし、当初は人間みたいなロボットに嫌悪感を示す人は多く、安価になっても購入する人は然程に多くはなかった。

 決まった層にしか嵌らず、アンドロイドを使ってもっと稼ぎたい製作側はそのアンドロイドを話し相手という用途から思考を変え、専門知識を有した業務用を開発した。


 接客、製造など様々な分野に特化したアンドロイドを製作することによって、教育という人件費削減を図れるという名目で売り出したそれは、大手企業の目に留まり、瞬く間に世間に浸透していった。

 そうなれば、一般家庭に普及するまではそう遠い未来ではなかった。


 気をよくした製作側は、一般家庭用に掃除や洗濯などの家事をこなす家政婦としての機能を備え付け、その分コミュニケーション能力や学習機能をある程度ランクを下げて価格の調整を図った、一般家庭用の販売を開始した。

 世間で目に触れる機会が多くなり、その存在も受け入れられた頃に出されたそれは素直に受け入れられ、目に見えた大きな利点に、その家庭用アンドロイドは爆発的なヒットを見せた。


 都心のアンドロイドの普及率は高く、一家に一台といっても過言ではないだろう。

 しかし、アンドロイドが普及するにつれてある問題点が浮上してきた。


 それは、アンドロイドを使用した犯罪の増加だった。

 アンドロイドがいくら安価で製作されるようになったとはいえ、それらはまだまだ高貴な技術であり、世界から見て日本のアンドロイドは品質が高く評価が高かった。


 よって、海外での取引は高額となっており、日本経済を支える一つの要因となっているそれは、犯罪者の目に止まらないはずがなかった。


 首の後ろにある電源を長押しするだけで簡単に電源を落とすことが出来、男2人も居れば抱えることが出来る重さであるアンドロイドの盗難被害は急増していった。


 犯罪を抑制するために、アンドロイドにはICチップが埋め込まれ、固有番号が付き、GPSも備え付けられるようになったが、それでもアンドロイドによる盗難被害はなくならなかった。

 そして次第に、それらは密売目的だけでなく、アンドロイド自体が犯罪を犯すようになった。


 アンドロイドには犯罪抑制装置が備え付けられており、法律違反や犯罪に加担することを制御するものが組み込まれている。

 しかし、それらを破壊して人間の代わりにアンドロイドに犯行を行わせる者が現れたのだ。


 人間は成りを潜め、主人の言うことを聞くアンドロイドはそいつの指示に従い強盗を働くようになったのだ。

 それらの事件が起こり始めた頃、警察側はそれがアンドロイドだとは気づかなかった。見た目や動き、喋りなども人間と遜色ない作りのせいで、判別することは難しかった。

 しかし、それは決まって『ご主人様に従って』と供述した。それによってやっと相手がアンドロイドであると認識していた。


 それでも当初はアンドロイドも人間と同様に逮捕することが出来ていたし、専門の機関に送ればそのアンドロイドも直すことが出来、盗品は持ち主へと返却されていた。


 だが、次第にそれは機械の力を遺憾なく発揮するようになった。

 プログラムによって力の制御は行われており、人間との生活に合わせるようになっていたそれも、犯罪者によってリミッターを外され、人間の力では取り押さえることの出来ない力を発揮するようになり、人間の追いつくことの出来ない速度で逃亡するようになった。


 もちろん、それを野放しにするほど製作側も馬鹿ではない。様々な対策を講じてきたが、アンドロイドがこれだけ普及する世の中の犯罪者も、それらの道に長けているものは当然のように多かった。製作者と犯罪者はいたちごっこを続けた。


 政府はそれを何とかすべく、アンドロイドに対抗する部隊を結成すると共に、対抗する武器の開発にも着手した。

 リミッターを外され我を失ったアンドロイドを止めるには、電源を長押しして強制シャットダウンしか当時は方法がなかった。


 ただ、人間の力が敵わない相手の首になど触れるはずもなく、長押しなど考えなくとも無理なことは容易に想像がついた。よって、遠距離でも強制的に落とせるように高圧電力による銃を開発した。


 放たれる弾は電気の塊であり、誤射して人間に当たったとしても患部周辺に数日痺れが残る程度でありながら、アンドロイドに当たれば一瞬で電気が全身を駆け抜け、ショートさせて停止させることが出来る、安全性にも優れた銃の開発に成功した。


 対アンドロイド銃、通称ACGは体内の損傷を最小限に抑え、簡単な修繕とプログラムさえ組みなおしてしまえばまた使用可能になり、盗品であれば持ち主に返却され、犯罪者の所有物だったものは、中古品として専用のサイトで売り出すようにしている。

 新品で買うより安価に手に入ることもあり、そこで購入するものも多い。



 時には人を殺めてしまった固体や、修復不可能と判断される固体、周りが危険だと判断された場合など、様々な条件によって破壊をしなければならないものもある。

 その場合は、ACGを使って至近距離で頭を打ち抜いてメイン基盤を破壊するか、対アンドロイド用に作られた刀、ADSでお腹を境目に上下を切り離す方法で破壊することが出来る。


 刀に関しては硬質なアンドロイドを切り裂けるほどの切れ味があることと、刀身にはACGよりも強い電気が流れており、切るときにアンドロイドの電気系統を全て焼け切る仕様になっている為、人に当たる可能性があるときは使用出来ないものだった。


 当たり所が悪ければ触れた周囲の火傷と、酷いときは内部まで焼けて壊死することもある。

 よって基本の戦闘態勢はACGとなるが、破壊の際は刀身分距離を稼げるので、俺たちアンショウは刀を好んで使いたいのが正直な所だ。


 ただ、これだけ対アンドロイドの武器が開発されても、それを扱えるものが限りなく少ないのが現状だ。

 いくら銃が扱え、刀の扱いが優れていようとも、リミッターが外れた相手は50mを3秒で駆け抜け、鉄を素手で引きちぎり、5階建ての建物を一蹴りで上ってしまう化け物だ。


 それに限りなく追いつけるだけの身体能力と、その負けている分を補えるだけの銃と刀の扱いに長け、コンマの判断力と決断力がある人間でなければ、その化け物を相手にすることは不可能だ。



 その為に結成されたのが、俺たちが所属するアンドロイド策敵部隊。

 メンバーの選出は警視庁内で業績や身体能力を加味して選ばれたものと、外部の応募によって集まったもので選考は行われた。


 身の危険が高いことから給料の設定は大手企業の幹部クラスレベルに設定されており、何百という応募が舞い込んだ。

 書類選考から始まり、身体能力の測定、銃や刀の扱い、現場向きの思考力測定など段階的に選考は行われ、1年かけて選ばれたのはたったの7人だった。

 全ての条件を満たすものがそれだけしか居なかったのだ。


 近年、人間の犯罪よりもアンドロイドの犯罪が増えてきており、正直7人では到底こなせる仕事量ではない上に、管轄は東京23区と広域だった。



 しかし、俺たち以外にその能力を兼ね備えた人物は現れておらず、中途半端な人間を入れれば死ぬ未来しかないため、結成以来人数は変わらず対応件数ばかりが増えている。


 そんなアンドロイド策敵部隊という名の俺らが、何故アンショウと呼ばれているのか。

 それは、化け物と対等に遣り合えるほど人間離れしており、化け物のアンドロイドを抹消することの出来る俺たちを、他部署の人間が揶揄して付けた署内の呼び方だった。


 警察内部に詳しいものは俺たちをそう呼ぶし、自らも化け物と対等に遣り合っている俺たちが普通に見られるわけがないと諦め半分に黙認しているので、その通称がまかり通っている。




 つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る