第3話 アンドロイド
先ほど捕獲したこの人物、藍沢和彦は犯罪抑制装置を壊して金を稼いでいた、かつてはアンドロイドの研究者だった男だ。
早期退職を申し出て、かなりの退職金を貰って悠々自適に生活をしていてもおかしくないはずなのだが、犯罪に手を染めてまで金を稼いでいた理由までは分かっていない。
これから取調べをすれば白状するだろう。
「こいつ、危ねぇかな?」
向坂がカプセル内で眠っているアンドロイドを指差して俺に判断を仰いでいる。
俺はACGをそのアンドロイドに向け、側面に走っているラインが青く光ることを確認する。
この機能は、見た目では判別の付かないアンドロイドを認識する装置だった。
アンドロイドにのみ反応し、青く光らせる。
「やばい奴だったら、今頃暴れてるだろ。主人があの様子じゃあな。」
「それに触るなっ。私のものだっ。近寄るんじゃないっ。」
先ほどから喚き散らしており、いい加減俺がぶち切れそうだった。
「お前まさかとは思ったけど、マジで銃で撃ったんじゃな。怒られるで。」
1階から降りてきた右京が犯人の手足を見てため息を漏らしている。
その理由は、俺が犯人に向かって発砲したのはACGではなく、鉛の入った拳銃だったからだ。
俺たちは基本的に拳銃の使用は認められておらず、人間相手にもACGで応戦し、俺らの身体能力ならばその怯んだ隙に捕獲が出来るだろうと上層部から言われているからだった。
拳銃の使用は人間が俺らに襲い掛かってきて、命の危険を感じたときのみとされている。
現状命の危険を感じたわけではないが、今目の前で制御不能アンドロイドを作られそうな気がして身の危険を感じた。ということにしようと思った。
実際は俺がはなから上層部に従う気がないせいなのだが。
「見てみろよ、このプログラム。危なそうだろ。だから撃った。それだけだ。」
パソコンの画面には膨大なコードと様々なタスクが映し出されており、ぱっと見ただけでは何が書かれているのか分からないが、見た目だけは危なそうに見えなくもない。
『お前、俺が少し目を離した隙に何やってんだよ。その報告書書くの俺なんだぞ?わかっ、』
インカムから飛んでくる雨宮の声を遮断するように俺は電源を落とした。
犯人を逮捕した今、このインカムはもう必要ない。
「雨宮怒っとるよ。」
「ほっとけ。いいからそいつ連れて行けよ。うるせぇから。いい加減殴りそう。」
未だに犯人は喚き散らしており、このアンドロイドに対して執拗な執着を見せている。
俺なら殴りかねないと判断した右京は要らぬ報告書が増える前にそいつを廊下のほうへと引きずり出してくれた。
ここはそれなりに防音がしっかりしているのか、扉を閉めてしまえば犯人の声はほぼ聞こえなくなる。
そうしている間に向坂は周囲の物的証拠を写真に収めており、俺も自分の仕事へと戻ることにした。
先ほど犯人が操作していたパソコンの前に座り、そこに表示されているプログラムやシステムを読み解いていく。
俺は別にアンドロイドに対して専門的な勉強を受けてきたわけではないが、過去のトラウマから苦手なものを克服するために独学で調べつくした。
おかげで犯罪に手を染めようと思えば出来るぐらいの知識を持っているが、犯罪を犯す理由がないので正しい道に使えている。
そのシステムを読み解いていく中で、そこに眠らされているものが家庭用ではなく、娯楽用の嗜好品であることが分かった。
アンドロイドには業務用や家庭用以外にも、売春婦用と娯楽用が存在している。
売春婦は名のとおり、性処理用のアンドロイドである。
基本的な作りは家庭用であり、プラスで陰部が付くだけの違いだ。
服を着ていればどちらなのかを判別することは難しく、性交が可能なこと以外は通常の家庭用アンドロイドと同じ働きをする。
性交に関しての技術料として家庭用より金額は高く、陰部の緻密さによっても金額の差がある。
そして娯楽用だが、これがアンドロイドの中でも一番高価な部類になる。
娯楽用は完全オーダーメイドであり、自分好みのアンドロイドを作ることが可能だった。
見た目や声、喋り方や性格まで選ぶことが出来、動きや表情までもが家庭用のアンドロイドとは比べ物にならないほど滑らかで多種多様な反応を示す。
日常生活で知らずに関わっていてもアンドロイドだとは気づけないほど緻密な動きをする。
世の中には、生活を共にしてある程度の意思疎通を図れる機械であるアンドロイドに感情移入をし、家族や恋人のように扱う人が居るらしい。
おかげでアンドロイドが居るから恋人を作らない、結婚をしないという選択もする人がいるようで、最近ではそれが社会問題となりつつある。
このままでは人類が繁殖活動を辞め、滅びかねないと騒ぎ立てている研究者も居り、実際問題、日本ではずっと少子化が叫ばれている。
そんな中で、この娯楽用はそのアンドロイドに感情移入をする人を後押しするような代物だった。
より人間に近く、高度なAIによってコミュニケーションもそつなくこなし、表情も緻密に動いて会話の前後や行動にあわせて作られるため、人間と見分けることはほぼ不可能だ。
家電にこれ以上の人間性を与えてはならないと、臓器の再現までは着手されていないので食事や排泄などの生命活動がないこと以外はほぼ人間と変わりはない。
ここに寝かされているアンドロイドも娯楽用だが、これにどれほどのお金が掛かっているのかは見た目からは判別が付かない。
莫大な退職金がありながらも犯罪に手を染めていたのは、こいつを手に入れるためだったのだろうか。
それならばあれほど執拗に喚き散らしていたのも納得は出来る。
しかし、一体何をそんなにカスタマイズしたのだろうか。
ここにあるものを全て読み取るのは不可能であり、とりあえず軽く目を通しながら危険因子がないかだけの確認に留める。
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