アンドロイド索敵部隊

川崎葵

第1話 プロローグ

 2XXX年 某月 冬



 体を芯から冷やすような凍えた風が住宅の間を駆け抜けていく中、俺は仲間と共にある家に侵入しようと構えていた。

 2階建ての一軒屋の上に俺は待機しており、もう2人は1階の正面玄関と挟み込むようにして裏口あたりで待機しているはずだ。


 今はこの家のセキュリティを確認しているところであり、その確認が取れ次第侵入の合図が出されるはずなのだが、こんな寒い日は早めに合図を出してもらいたい。

 というのも、屋根の上で待機している俺の侵入方法は、屋根のから窓のサンに飛び移り、そこからピッキングで鍵を開けて侵入しなければならない。

 手がかじかんでしまっては滑り落ちる可能性もあるので、そうならない内に早くしてもらいたかった。


 防寒性に優れたゴム手袋ははめているが、今年の冬はとても冷え込んでいる。息を殺して動かず待機していると、それをはめていても末端は冷たくなっていく。



『問題ないよ。セキュリティも外した。健闘を祈る。』



 まだかと催促しようかと思っていると、俺らの耳に装着されているインカムから上司の雨宮あめみや理人りひとの声が聞こえてきた。

 セキュリティを解除した雨宮は、その言葉を告げて今頃暖かな部屋で俺らのインカムに付いたカメラ映像を見ながら一息ついていることだろう。寒さに凍えながら待機している俺らと違って羨ましい限りだ。


 雨宮の仕事はそこまでであり、許可をもらって窓の鍵を開錠すれば、現場の指示は俺に引き継がれる。



「作戦は変更なく実行する。準備はいいか?」


『問題ない。』


『大丈夫だ。』



 2人の返事を確認し、俺はカウントを取り、一斉に侵入する。

 銃を構えながら室内を見渡し、気配に注意しながら2階の部屋を一室ずつ確認して回る。


 全てを確認し終え、最後の部屋から出たところで、1階と結んでいる階段から仲間である金髪オールバックの向坂こうさかすばるが同様に銃を構えながら上がってきた。


 気配を感じて振り返った向坂と目が合い、異常がないことを頷く事によって伝える。それに向坂も頷き返し、互いに銃を下ろしながら階下へと下る。


 階段を下りたところにもう一人の仲間である、垂れ目の見た目ばかりは優男風の右京うきょう大我たいがが待機しており、階段下収納になっていそうな階段の側面に付いた扉に向かって銃先を軽く向けた。



「ここだけだ。お前の見立てどおりじゃな。」



 地方出身の右京は地元の訛りを出しながら教えてくれる。東京で育った俺には訛りというものがないので分からないが、意外となくならないものらしい。



「ここの設計図が手に入ったのが、不幸中の幸いだな。右京はここで待機だ。中には俺と向坂で行く。」



 それに2人は頷き、俺と向坂は銃を構えながら扉に身を寄せて物音がしないか確認を取る。何も聞こえてこないことを確認し、そっとその扉を開いた。


 その中にあったのは物ではなく、地下へと続く階段だった。薄暗いライトが階段を照らし出し、下りきった先は左に通路が折れ、その先は見えない。


 俺は先陣を切って階段を下り、通路の角でその先をうかがう。薄暗い通路は四方をコンクリで固められ、20mほど先に扉が一枚だけある。

 然程に広くないその通路は人が二人並んで歩くほどの幅はなく、窓もなければライトも薄暗く圧迫感と奇妙さをかもし出していた。


 奥にある扉の隙間から明かりがこぼれているのが確認できる。どうやら俺たちの標的はあの中に居るらしい。

 いつまでも様子を伺って出てきては困るので、俺の後ろで構えている向坂に問題ないことを頷く事によって伝え、俺たちは静かにその扉の前へと移動する。中の様子を扉に耳を近づけることによって伺う。



「あと少しだ。私の可愛い可愛い最高傑作。会えるのが楽しみだね。」



 俺らの標的であろう人物は何か独り言を言っている様で、楽しそうに声を弾ませている。

 俺は向坂とアイコンタクトを取り、軽く顎を右に振ることによって突入後は右に注視することを伝える。長い付き合いである向坂は直ぐに理解をし、頷いて返事を返した。


 俺は一呼吸置き、扉を押し開けた。左に注視した俺は危険人物だと思われるものへと銃の焦点を合わせた。



「誰だお前らっ。どうやって入ったっ。」



 俺が照準を合わせているその人物は慌てふためいており、俺ら2人を交互に見ている。



「大人しく手を上げろ。お前のやっていることは調べが付いてる。」


「もしかして、お前らアンショウか?何でバレたんだっ。あと少し、後少しだったのにっ!」



 取り乱し始めたそいつが動き出すのを俺は見逃さなかった。作業をしていた机に置かれたパソコンへと手が伸びる。


 その時には、俺が構えていた銃とは違うもう一つの銃へと持ち替えて、その手のひらに向かって発砲していた。それが手のひらを射抜いた時にはもう一発発砲しており、その弾はその男の太ももに命中し崩れ落ちる。



「痛いっ、痛いっ、痛いよっ、」



 そいつは情けなく悶えており、俺はそれを気にせず後ろ手に手錠をかけ拘束する。



「終わった。下りてきていいぜ。」



 1階に待機させておいた右京にインカムで伝え、俺は向坂の方へと目を向ける。



「当たり。アンドロイドだ。」



 俺と目が合った向坂が、俺が当初構えていた銃と同じ銃、通称ACGを掲げながら言っており、その向坂の前には卵形のカプセルに座らされている人間の形をしたロボット、アンドロイドが眠っていた。



つづく

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