【3人目 未亡人の女】

上品な服装に、穏やかな口調のご婦人は、なんて事ない世間話でもするかのように語り始めました。


「私は寂しい1人暮らしではありますが、ささやかながら問題なく暮らせるくらいの資産はありました。

ですが、恐ろしいことに我が家に強盗が押し入って来たのです。

まぁ私が今ここにいるという事は、殺されはしなかったのですが、亡くなった旦那が残してくれた財産の三分の二が奪われてしまいました。

勿論、人様の金品を奪うなんて蛮行は法律でも許されて居ませんが、私は強盗に入るという行為そのものが許せませんでした。


自分だけが奪う側にいるという思い上がった行いだからです。


犯人は単独犯で、私に目隠しをする事もなく

適当なサングラスとマスクで顔を隠しただけで我が家に忍び込みました。

服装はコンビニにいく途中で寄ったかのような黒いTシャツに下はジャージ

袖口からチラリと龍の刺青が見えました。


刺青をした知り合いなんて居ませんし、私に目隠しをしないので顔見知りではないと確信していましたが

それなのに我が家の間取りには詳しいのが疑問でした。

犯人は金庫の中のお金を奪うと、あっさりと出て行きました。

私は腕は拘束されていましたが、足には何の拘束もなく普通に歩けたので、自分で警報器を鳴らし

警察の方に助けて貰いましたが、犯人は捕まりませんでした。


犯人は今頃、私のお金を使って楽しく生活しているのかと考えると、胸の奥がムカムカして胃液が逆流する思いでしたが

私に犯人を捕まえる術はありませんでした。



そんなある日、私に人生の好機が訪れたのです。



私は旦那の死後、自分で運転する機会が増えました。

その日もお友達の家に遊びに行った帰り、信号を待っていると反対側の公園から出て来た親子が横断歩道を渡ろうといていました。

その父親を見て私のハンドルを握る手は震えました。

暗がりでチラリと見えた、あの強盗の腕に入っていたのと同じ刺青があるのです。

背格好も髪型もそっくりで、私は犯人だと確信しました。



頭の中に歓喜の歌が鳴り響きました



あの日私から奪った犯人から、今度は私が奪うチャンスが訪れたのです。

私はそっとブレーキから足を離し、アクセルを踏み込みました。

そして、犯人の男ではなく、その嫁と子供目掛けて鉄の塊をぶつけました。


私が車から顔を出すと、犯人の男は最初は怒りの表情だったのに、何も言わず黙りました

きっと気付いたのでしょう。


私は一度は逮捕されましたが、すぐに釈放されました。

速度も出てなかった事、2人とも命は助かっている事で減刑になり

私の行いには一応、過失致傷という罪の名前が付きましたが

可哀想な老婆の哀れな運転ミスという事で事件は処理され

私には執行猶予が付き、罪に問われる事はありませんでした。


犯人の男は私を告発する事は出来ないでしょう

その時は自分の罪を告発する事になる。


神父様。私は私の誰にも話せない復讐劇を誰かに聞いて欲しかったのです」

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