20020223―テリアハムラフィ罠設計担当の覚悟―
テリアハムラフィ罠設計担当は、実に演技が上手い。
これは全くもって彼女の同僚の誰一人として知ることのない事実であるが、その上手さといったら半端ではない。
それがどれほど上手いのかといえば、そう――
システムをも欺けるほどだ。
彼女は、気付いている。自分が、本来は実はここと全く異なる世界にいたということも、『レイトゥの話』に巻き込まれて過去を捻じ曲げられたことも、何らかの力が自身の存在自体を脅かしていることも。
しかし、彼女は気付かないふりを続ける。
なりふりだけではなく、思想にすら統制をかけ、彼女は常に何ら問題のない罠設計担当を演じ、監視の目を逃れて来た。
今日まで存在し続けてきた。
これは、まさに奇跡であった。
そんな奇跡にも、とうとう終わりが来たのかもしれない。テリアハムラフィ罠設計担当は覚悟を決めた。
何故なら。
以前自分のいた世界の知り合いが、こちら側に紛れ込んでしまったからだ。
しかも、記憶喪失というおまけつきで。
最初にラルフリーデス見張り担当から話を聞いた時から、嫌な予感はしていた。その人を自分の家で預かって欲しいと彼が言ってきた時、本当に断りたかった。だが、幼馴染ということになっている彼の言うことをそう無下に断るわけにもいかず、しかもどうやら、この世界で一、二を争う能力者である彼も警戒の姿勢を見せていることは何となくわかったので、とりあえず困ったことがあったら助けてくれることを条件に、提案を飲んだ。
そして、いざ本人に会って、思わず声を上げそうになった。
ルイだった。
彼女は、以前の世界でテリアハムラフィ罠設計担当の弟の友達だった人間であった。
どうしてこんなことになったのか、全くわからなかったが、自分がどうすればいいのかは把握できた。
「初めまして。テリアハムラフィ罠設計担当です」
挨拶だ。
初対面の。
「あ、ルイです。これからお世話になります」
相手がたどたどしくそんなことを言っている間中、笑顔を絶やさなかったとは思う。それがぎこちなくなかったかどうかの自信はないが。
話すことがなくなった。
その間を繋ぎたくて、どうにも、前の世界に関することを聞きたくなってしまうのを、ずっと耐えていた。
「テリアハムラフィさんは」
ルイが、沈黙を嫌ってか、こんな質問をしてきたことが、致命的なほど印象的だった。
「あの見張り担当の人と本当に幼馴染なんですか?」
頭の中を様々な何かが瞬くように交錯した。
どうして、そんな疑問を持たれたのかはわからない。
わかりたくもない。
「そうですよ」
そう答えることしか出来なかった。
「不思議ですね」
「何がです?」
「そのこと自体が、ですよ」
テリアハムラフィ罠設計担当は、完全に覚悟を決めた。
自分はもう。
長くない。
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