20020220―シャーリーの思惑―

 一度に倒せる相手は二人までだ、と彼は言った。

 それはつまり、自分に倒せるのは二人だけだから、残りの一人はまかせたという意味だと思った。任せられても困る、とシャーリーは少し慌てた。

 でも違った。

 彼は、一太刀で二人を叩き切り、返す刀でもう一人も葬った。

 強いのね、と言うと、彼は無言で歩き出した。

 慌てて後を追った。

 彼はこちらのペースに合わせようともせず、どんどんと先に進んでしまう。だから、小走りするようにして追いかけた。

 ここから一番近い神殿に寄ってやる、と、彼は宣言し、詰まるところ厄介払いしたいのだという様子がありありと見て取れた。

 だから。

 それに対し、シャーリー・ブロンズフィアは。

「あなたの家まで連れて行ってくれないの?」

 と、何気なく聞いた。

「神殿で置いて行く」

 彼はあくまで頑なだった。

「身元がわからない上に、名前しか記憶に無いお前など連れ歩けるか」

「ひどいなあ。助けたんだから最後まで責任とってよ」

「だから、神殿まで送ってやる、と」

「違うよ、そうじゃなくてさ、もっと、こう、何かあるじゃない?」

「そうでもないだろ」

 あっさりと答えて来た。彼は歩き続け、よりによって本当に神殿まで来た。

「たぶん、お前みたいな境遇の者でも暖かく迎えてくれるだろう」

 彼は言ったが、世の中はそんなに甘くなかった。

 そんな余裕などない、の一点張りで、どこの神殿も、シャーリーを受け入れてくれなかった。

「ほら、あきらめて、あなたの家まで連れてって」

「断る」

 彼は、そうやって何日間もかけて様々な場所を回り、シャーリーを受け入れてくれるところを捜した。シャーリーも連れ回された。

 が。

 そんな都合の良い話が今の御時世にあるわけもなく。

「俺の知り合いのところに置いてもらうか」

「あなたの家でいいのに」

 結局シャーリーは、彼の女友達である、ルイの家に泊まることとなった。

 彼女は、ルイに、彼に連れ回されたこの散々な数日のことを話した。

 すると、

「それは、あなたに色々な場所を見せて、何かを思い出してもらうための口実よ。だって、私、しばらく前からすでに、彼から女の子一人を泊めてもらうことになるだろうって言う連絡もらってたし。どこに行っても断られることだって計算済みだったってことね」

 という答えが返ってきた。

「彼の家は、あなたと関係ないだろうから、連れて行かなかったのね、きっと」

 そうならそうと、素直に言ってくれればいいのに。

 とりあえず彼に、明日にでもお礼を言いに行こう。シャーリーは、そう決心した。感謝の言葉の一つも言えなかった自分が恥ずかしかった。

 彼は、やはり非常に善い人であったのだ。

 確信する。

 出会った時から思っていたが、彼はやはり、私の運命の人なのだ、と。

 二人の複雑な物語は、こうして始まった。

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