20020216―ヒルスの三択―
人を嫌いになった。
それだけのことで、胸をかき乱され、苛立ちながら暮らさなければならないことが腹立たしくて仕方なかった。
あいつは明日にでもこの世から消えてくれないだろうか。
そんなことばかりを考えていた気がする。
そして、それが今のような状況を生んだのだから、これに関しては自業自得であるとも言えた。まあ、決して納得はできないが。
一週間前突然現れた声は、この状況をこう呼んだ。
『ヒルスの三択』と。
お互いに嫌いあう二者が存在し、その両者が午前零時に同じ道を違う方向に歩いていると発動するらしいそれは、簡単な話、じゃんけんに似たかけひきゲームだ。ただ、負けた者がこの世から消えてしまうという、恐ろしい条件があるが。
選べる選択肢は、『信頼』、『反射』、『裏切り』の三つ。
両者が『信頼』を選べば、二人とも無事であり、かつ、お互いに対する悪感情が全て取り払われて、円滑な人間関係になる。
両者が『反射』を選べば、二人とも無事で、この状況がそのまま継続する。
両者が『裏切り』を選べば、二人ともこの世からいなくなる。
片方が『信頼』、片方が『裏切り』の時は、『信頼』を出した方が一方的に消える。
片方が『裏切り』、片方が『反射』の時は、『裏切り』を出した方が一方的に消える。
片方が『反射』、片方が『信頼』の時は、『反射』を出した方が一方的に消える。
考える時間が一週間与えられる。
良く出来たゲームだ、とだけは思う。「両者が『信頼』を出す」時の好条件に惹かれて『信頼』を出しそうになるが、逆に言えば、それを相手も考えるからこそ『裏切り』を出してくる可能性もあるわけで、そのまま考えていけば、結局じゃんけんと同じで、何を出せばいいかわからなくなる。
期限は、すぐ目の前にまで迫っている。
しかし、未だに選択が決まっていなかった。
そのまま十分間ほど悩んだ時、その声は唐突に現れた。
「選択しろ。『信頼』『反射』『裏切り』」
声はそれだけしか言わなかった。
そして。
結局。
彼は。
いざ選択の時を前にして。
それまでの悩みなど全て吹き飛び。
「『信頼』」
とだけ告げていた。
その瞬間、彼の記憶からは完全に『ヒルスの三択』に関することが抹消され。
同時に。
全てが嘘であったかのように。
嫌いな相手に対する悪感情が。
消えた。
真っ白になった。
尤も、彼自身はそれを憶えていないので、その相手のことを好意的に受け止めることができるようになっても、あたかも最初からそうであったかのようで、全く不思議には思わないのだった。
このようして。
松倉天城は、山上舞という友を手に入れたのだ。
少なくとも、この時は。
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