20020212―フランシスカの祈祷―
祈りは通じるのだと思っていた。
だから、フランシスカは一日たりとも欠かすことなく神殿に赴き、祈りを捧げていたのだ。その熱心な祈祷を、巫女という仕事だからという一言で片付ける者は多かったが、実は仕事だからということではなく、彼女は純粋に信じていたのだ。祈り続けていれば、いつか神が、自分の願いを叶えてくれる、と。
しかし。
彼女の願いは届かなかった。
皆の願いは叶ったのかもしれない。確かに世界は平和になり、村にも活気と笑顔が戻ってきた。
でも。
彼は帰ってこなかった。いつまで待っても帰ってこなかった。
幼馴染で正義感が強く、伝説の剣の封印を解くことが出来た彼は、とうとう戻ってこなかった。村人は皆、彼を勇者だと認めていなくて、鼻で笑っていたけれども、フランシスカには彼が勇者であることがすぐにわかった。完全に確信した。だから、魔王を倒して無事に戻ってきてくれるはずだったのに……。
魔王を倒した勇者は、彼ではなかった。
魔王が死んで平和な世界が訪れても、彼は帰ってこなかった。
死んで、しまったと、いうのだろうか?
こんなことなら、あの時、無理やりにでも引き止めておけば良かった。
平和な世界で、フランシスカは一人、泣いていた。
祈りは、通じるものだと思っていたのに……。
運命は、この時点ではまだ、残酷だった。
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